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長大橋の保全技術(上部工関係)

吊橋ケーブルの送気乾燥システム

主ケーブルは、吊橋を構成する部材の中で重要な部材の一つです。

本州四国連絡橋のうち、完成時期の早い因島大橋、大鳴門橋、大島大橋及び瀬戸大橋においては、亜鉛めっきした鋼線を密実に束ね、表面に防錆剤を塗布した後、亜鉛めっきした鋼製のワイヤで保護し、さらに表面を塗装する方法により錆の発生を防いでいました。

明石海峡大橋主ケーブルの防食方法の検討にあたり、既設吊橋の主ケーブルを開放調査した結果、主ケーブルを構成する鋼線の表面に錆の発生が確認されました。

そこで、主ケーブルの防食方法の検討を行い、主ケーブル内部を乾燥させて錆の発生原因を取り除く対策として、送気乾燥システムを世界で初めて開発・導入しました。本工法は、腐食発生限界湿度(60%)に対して、安全側の管理目標値(40%)を設定して運用しており、本州四国連絡橋の全ての吊橋に導入しました。

現在は、乾燥空気製造設備の効率的な運転を実施することを目的に、夏期などの高湿度外気を湿度低下させるプレクーラー設備を追加導入しています。

吊橋ハンガーロープの非破壊検査技術

吊橋のハンガーロープは、主ケーブルから補剛桁を吊り下げる重要な部材です。このハンガーロープには塗装された鋼製のより線が用いられたものがあります。

ハンガーロープ内部の腐食状況について、ハンガーロープを一本ずつ取り外して調査することは経済的にも困難ですので、ハンガーロープを撤去・開放せずに腐食状況を把握できる非破壊検査方法の確立に着手しました。

その結果、全磁束法という手法が検査に適用できることがわかりました。全磁束法とは、ハンガーロープを強く磁化することによって、そこに流れる磁束(ある断面を通る磁力線の数)を測定し、磁束と断面積の比例関係から腐食による断面減少を推定するものです。腐食した鋼材が非磁性体となることから、ロープの腐食部位と腐食量を特定することができます。


【全磁束法によるハンガーロープの非破壊検査】


【計測状況】

吊橋ハンガーロープの制振対策技術(1)

来島海峡大橋のハンガーロープには、因島大橋や瀬戸大橋等で使用した鞍掛け形式のハンガーロープ(CFRCと言います)に替えて、経済性、架設工事の施工性、維持管理の容易さ等を考慮し、ポリエチレン被覆したピン定着のロープ(PWSと言います)を採用しました。

しかし、補剛桁の架設完了時点から、長さ30m以上のハンガーロープにおいて、風による振動が確認されたことから、ハンガーロープの制振対策を検討しました。その結果、制振装置による振動対策を実施することとしました。制振材には、低コストで制振効果が期待できる弾性シール材を使用しており、現在、制振装置の制振効果は十分発揮されています。


【ハンガーロープ制振装置】

吊橋ハンガーロープの制振対策技術(2)

明石海峡大橋のハンガーロープは、長いものでは200mを越え、また、本数も非常に多いため、経済性・維持管理性を考慮して、従来のものよりも高強度で、かつ、腐食しにくいポリエチレン管で被覆した「平行線ケーブルストランド」を、1格点あたり2本のハンガーロープを並列に設置する構造としました。

明石海峡大橋では、台風などにより、20m/秒程度の強い風が吹くと、並列したハンガーロープのうち風下側ハンガーロープが大きく振動する現象が確認されました。従来、この種の振動はハンガーロープの直径Dと間隔Lとの関係がL<5Dの条件においてのみ発生するとされていたため、本橋の場合(L=9D)には発生しないと考えていました。

そこで、風洞試験を行い、このような振動の発生条件、振動特性およびその制振方法について詳細に調査しました。その結果、ハンガーロープに直径10mmのロープを螺旋状に巻き付けることにより制振効果が得られることが判明しました。また、施工機械を開発し、これを本橋のハンガーロープに施工しました。

現在のところ、台風など強風により、有害な振動の発生は確認されていません。


【ハンガーロープ制振対策工事状況】

斜張橋ケーブルの制振対策技術

多々羅大橋のケーブルは、非常に長く、これまでに建設された斜張橋のケーブルに比べ、固有振動数が著しく小さく、風雨時に生じるレインバイブレーションという振動が問題と考えられました。

この振動を強制的に抑えようとすると、大規模な装置(ダンパー)が必要となります。そこで、ケーブル表面に離散的に凹部を設けたインデントタイプのケーブルにより、空力学的に制振する手法を開発し、採用しました。

また、渦励振によるケーブル制振対策として、ケーブルの桁側定着部に弾性シール材等を設置し、振動を抑える方法が採用されています。

現在、ケーブルの風に対する振動を監視していますが、有害な振動は確認されていません。


【インデントケーブル】

鋼箱桁の送気乾燥システム

鋼は橋梁の材料として、強く、軽く、加工しやすいなど、他の材料には見られない優れた特徴がありますが、腐食しやすいことが欠点です。

長大橋の箱桁内面の防食対策として、鋼材表面に3層の塗装を施していますが、新尾道大橋では箱桁内面の塗装を行わず、桁内の湿度を鋼が腐食しない程度に保つための送気乾燥システムを採用しました。これは、桁外面に比べて約4倍の塗装面積を有する桁内面の塗装を省略することにより、初期投資および塗替塗装に要する費用を低減することを目的としたものです。

送気乾燥システムは、箱桁内部に送気乾燥システムを配置し、鋼床版Uリブを送気用配管として乾燥した空気を循環させ、箱桁内の相対湿度を60%以下に維持するものです。

この桁内送気乾燥システムは、試験的に採用された事例はありますが、本格的に採用したのは国内では、本橋が初めてです。


【送気乾燥システム設備】


【鋼箱桁の送気乾燥システム】

塗替塗装

海峡部長大橋は、大部分が鋼製であり、長期にわたり機能を保全するには、錆を抑えることが最も重要です。よって、本州四国連絡橋では、塗装が最も基礎的な維持管理です。

塗装は、紫外線や水分によって劣化が進むため、定期的な塗替えが必要です。本州四国連絡橋の塗装面積は約400万㎡です。

今後、経年劣化が進むにつれ塗装費用は大きくなっていき、維持管理費のおおよそ半分を占めるようになることから、本州四国連絡橋のライフサイクルコストを最小化するには、塗装のコスト削減が最も重要です。

このため、塗替塗装のサイクルを長くするよう、建設段階において、長期に耐久性が期待できる多層構造の塗装系を開発しました。維持管理段階においても、紫外線に強い高耐久の塗料を開発し、瀬戸大橋の塗替塗装において採用しています。

塗替塗装の時期は、定期的に定点で塗膜の厚さの減り具合を調査して劣化の進み方を予測し、最適な塗替え時期を判断しています。

吊橋ハンガーロープの補修技術

因島大橋の鋼より線を用いたハンガーでは、塗膜が劣化するだけでなく、雨水が浸入して滞留したことが原因と考えられる内部の腐食も発生しています。このため、ハンガーの塗替塗装には、ハンガーを塗料に浸し内部まで塗料を充填させる「浸漬塗装工法」を採用しています。

一方、特に腐食環境の厳しい大鳴門橋では、ハンガーロープ定着部に著しい腐食が確認され、調査した結果、一部のロープには大きな断面欠損が生じていました。このため、特に断面欠損の大きいロープを新品に交換し、その他のロープを含め、防錆効果のある材料(ペトロラタムペースト)をロープ内部に圧入、充填し、その後、ロープの外周に防食用テープを巻く「内部充填工法」により腐食の進行を抑制することとしています。


【浸漬塗装工法】


【内部充填工法】