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情報誌「瀬戸マーレ」
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伝統が現在に生きる内子の魅力をたずねて

和紙と木蝋生産で栄えた町は、豊かであったかい

内子町に来てほっこりした。歴史を物語る古い町並み。
受け継がれる伝統の数々。
それが当たり前の日常の風景として確かにそこで生きている。
大切なものを守り続ける人々の思いが町に温もりを与えている。

大正時代の芝居小屋が現役で活躍

にぎやかな声がして振り返ると、地元の高校生が観光客を案内していた。聞くと、職場体験らしい。

古くから交通の要衝として発達し、江戸時代から明治にかけて和紙と木蝋生産で繁栄を極めた内子の町。メインの本町通りには商店が立ち並び、往時のにぎわいをしのばせる。ぶらり歩いていると、路地の入口に「内子座」の案内を見つけた。足を向けると、目の前に現れたのは時代劇に出てきそうな芝居小屋。こんな立派なものが残っているとは信じられない。

内子座は大正5年、大正天皇即位を祝って商売で財を成した旦那衆によって建てられた。こけら落とし興行は、淡路で活躍していた吉田伝次郎一座の人形浄瑠璃だったそうだ。今も文楽や歌舞伎公演をはじめ、小学校の学芸会など地元行事に使用されているというから驚きだ。町の人にとって内子座は特別なものではなく身近なものなんだな。うらやましい限りだ。

住む人の息づかいを感じる白壁と格子の町並み

本町通りに戻り、大正モダンを感じさせる銀行の角を曲がって八日市・護国地区を目指した。桝形と呼ばれる折れ曲がった道に入った途端、空気が変わった気がした。ここは国の重要伝統的建築物群保存地区に選定されている場所。漆喰壁と出格子が美しい平入の民家や商家が軒を連ね、時間がゆっくり流れているかのようだ。和紙や木蝋生産で得られた莫大な富が、質の高い建物や豊かな町並みを生んだのだ。

とりわけ目を引くのが、木蝋産業発展の礎を築いた本芳我家住宅。漆喰で模様を描いた鏝絵や屋根の妻を装飾する懸魚、海鼠壁など豪華で華麗。そんな気になる意匠や町家のデザインを探して歩くのが楽しい。

古い看板が気になって格子窓をのぞくと、なんと床屋さん。人々が趣を大切にし、楽しんで暮らしているのが伝わって幸せな気持ちになれた。


本芳我家住宅。内子最大の製蝋業者で、伊予式蝋花箱晒法と呼ばれる製法を発明して良質の白蝋を生産。国内はもとより海外で高く評価され、白蝋生産高日本一を誇った

大正時代に建てられたレトロな映画館

約600mにわたって続く八日市・護国地区の町並

創業200年以上を誇る大森和蝋燭屋

漆喰壁に「こて」を使って浮き彫り模様を描いた鏝絵
内子座

【DATA】
住所/愛媛県喜多郡内子町内子2102
Tel/0893(44)2840
開館時間/9:00~16:30
定休/年末年始(12月29日~1月2日)
入場料/大人400円・小中学生200円
※内子座で催しがある場合は内部見学できない場合がある

650人収容、枡席2つで5~6人座れる。太鼓櫓など華やかな意匠や、「いろは」とふられた枡席の味わいはなんともいえない。

こんな楽しみも

豪商の屋敷で地元産の料理に舌鼓

本町通りに面して建つ風格ある下芳我邸。豪壮な建物内で地元の旬の素材を使った料理を味わえる。野菜は契約農家から仕入れたものが中心で、そば粉は国内産を使用。素材のうまみを引き出す優しい味付けで、ボリューム満点なのも嬉しい。2階のギャラリーでは地元で活動する作家の作品に出合える。

下芳我邸
【DATA】
住所/愛媛県喜多郡内子町内子1946
Tel/0893(44)6171
営業時間/3月~11月は11:00~17:00、12月~2月は平日11:00~15:00、土日祝11:00~15:30
定休/水曜日(祝日の場合は営業)

木蝋生産のすべてがわかる!

上芳我家は本芳我家の筆頭分家で、本家と同じく木蝋生産を営んだ。現在、敷地すべてが木蝋資料館として公開され、当時の蝋づくりの様子をうかがえる唯一の場所になっている。蝋を晒す広大な土地や、土蔵、釜場などのほか、豪商の暮らしぶりにため息が出る。

木蝋資料館 上芳我邸
【DATA】
住所/愛媛県喜多郡内子町内子2696
Tel/0893(44)2771
営業時間/9:00~16:30
定休/年末年始(12月29日~1月2日)
入館料/大人500円・小中学生250円

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職人の心意気を感じる内子の手仕事にひかれて

豊かな山と清流に恵まれた内子では、
それらを生かして数々の伝統工芸が生まれてきた。
今もその技と心は受け継がれ、職人たちが丁寧な手仕事を重ねている。

五十崎和紙に新たな息吹を吹き込む

和紙のイメージが変わるものがあると聞いて、内子町の中心部を離れ、小田川沿いにある五十崎社中(天神産紙工場内)に向かった。そこで見たのは、植物模様などを金属箔で描いた和紙。きらびやかで気品があり、こんなの初めて。「ギルディングといって、ヨーロッパの額縁を金箔で装飾する技術を手漉き和紙に融合させたものなんです。光や角度で表情が変わる金属箔と柔らかな風合いの和紙、剛と柔の違いの面白さが魅力です」と説明してくれたのは、日本で唯一ギルディング和紙をつくっている五十崎社中の齋藤宏之さん。

五十崎は紙漉きの盛んな地だったが衰退が続き、活性化のためにギルディングに目をつけ新商品開発に取り組んだのだとか。齋藤さんは、紙へのギルディングを可能にしたフランスのデザイナー、ガボー氏から直接学んだそう。ランプシェード、ブックカバーなどさまざまな商品が作られ、壁紙はマカオのホテルに使用されるなど世界から注目されている。ひとつあるだけで場が華やぐのが素敵だ。ギルディング体験もここででき、モノに表情を与える楽しさに夢中になった。


伝統の技法で和紙を漉く天神産紙工場

以前はシステムエンジニアだった齋藤宏之さん。義父を通じて手漉き和紙活性化の話を聞き、興味がわいて転身することに

金銀銅以外に、薬品に浸けて酸化させた箔が変化に富んだ色合いをつくりだす
ギルディングでフォトフレームを飾ろう!

五十崎社中ではフォトフレーム、花瓶、ガラス容器などを使って、ギルディング装飾の体験ができる。


①金属箔をつけたい部分に専用ののりをつけて乾かす。薄くつけるのがコツ

②のりづけした部分に好きな金属箔を置き、フェルトでおさえる

③余計な金属箔を軽くこすって落として出来上がり

④金属箔の色合いが面白いので、シンプルな線でも味が出る

家でギルディング装飾ができるツールセットも販売されている
ギルディング教室

日時/原則土曜日・日曜日(事前予約要)
時間/9:00~16:30の間で随時開催
参加費/1,500円(材料費込)

五十崎社中ショップ・ショールーム

【DATA】
住所/愛媛県喜多郡内子町平岡甲928 天神産紙工場内
Tel/090(3226)5002
営業時間/9:00~17:00

こだわりが生んだ履き心地のいい桐下駄

五十崎社中を後にし、里山に入った。ここに昔ながらの手仕事にこだわる宮部木履工場がある。作られているのは国産天然材を使った桐下駄。宮部眞喜男さん・泰明さん兄弟が先代の父親から受け継いだものだ。通常、下駄台づくりと仕上げは分業されるが、ここでは一貫して行っている。だから、きめ細かい注文に応えることができるのだ。

下駄台づくりは兄眞喜男さん。自ら刃物を研いで道具を作り、足に馴染むようにコンマ1㎜単位でゆるやかなカーブを削り出す。その下駄台に漆塗りや焼きで仕上げをするのは弟泰明さん。粋なデザインはジーンズにも似合いそうだ。「いつも最高のものをつくろうと思っています。でもまだまだ。満足するとそこで終わりですから」と眞喜男さん。

履いてみたくて好きな下駄台と鼻緒を選び、足に合わせてすげてもらった。全然痛くない。匠の技と思いが込められた下駄は優しく、歩いても軽やかだ。嬉しくて、いろいろな場所へ出かけたくなった。


「桐は非常に柔らかく、道具が切れないときれいに仕上がりません。何年もかかって自分の道具にするんです」と眞喜男さん

白木、ゴマ竹張り、シコロ織りなどいろんな種類の下駄台と鼻緒を組み合わせ、自分だけの下駄が作れる。鼻緒をすげる泰明さん。
宮部木履工場

【DATA】
工場で直売されているほか、電話やインターネットで注文することができる。
住所/愛媛県喜多郡五十崎町重松甲87
Tel/0893(44)2426
URL/http://www.bekkoame.ne.jp/~kiri99/

こんな楽しみも

風流に浸りながらくつろぎの時間を

大日本麦酒の社長をつとめ、戦後経済の復興に尽力した高橋龍太郎翁の生家。ゲストハウスとして公開され、趣きある建物で喫茶を楽しみながら足跡をたどれる。「止談風月無用者可入」(ただ風月を談じるなら、用事がなくても屋敷に入りなさい)の看板がかけられた離れは1日1組限定で宿泊でき、地域の女性グループ「風雅」のメンバー手作りのおいしい朝食をいただける。

文化交流ヴィラ 高橋邸
【DATA】
住所/愛媛県喜多郡内子町内子2403
Tel/0893(44)2354
営業時間/9:00~16:30
定休/火曜日
宿泊/1日1組限定(1人~10人まで)要予約
宿泊料金/1人使用4,860円・2人使用4,320円、朝食860円

こんな楽しみも

愛媛県内子町の麓川流域には、全国的にも珍しい屋根付き橋が今も大切に保存されています。八日市・護国の町並みを楽しんだ後は、こちらに足を運ぶのもおすすめです。

石畳清流園(清水川橋)

昭和30年代頃まで30数基の水車が回っていたという石畳地区の石畳清流園に屋根付き橋がかかっています。地元の有志によって水車小屋が復元され、渓谷美とともに風流な景観を楽しめます。

河内の屋根付き橋(田丸橋)

河内地区に昭和19年につくられた杉皮ぶきの屋根付き橋。前年の洪水で下流の橋が流された経験から、橋桁を両岸から斜めに渡した木材で支え、橋脚を省いた構造になりました。屋根によって橋の腐食を防ぎ、物産の倉庫としても利用。TVドラマ「坂の上の雲」のロケ地にもなりました。

弓削神社の太鼓橋

石畳地区の弓削神社の池には風流な屋根付きの太鼓橋が架かっています。この橋が参道になっていて、春には梅や桜が咲き、趣のある景観を楽しめます。

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