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情報誌「瀬戸マーレ」

うみかぜ紀行

海辺の再開 また今度

玉岡かおる・文

何年かぶりに、友人のクルーザーに乗せてもらって、瀬戸内の島に行くことになった。子供たちが小さいころ、毎夏のように出かけた男鹿島。海に囲まれた国で生まれたのだから、せめてたっぷり海にふれあい育ってほしいと願ったからだが、子育て終了とともに海で遊ぶことからはすっかり遠ざかってしまい、今では親子ともども、いつか都市生活に埋没している。そこで今回は、大人ばかりの友人どうし、海の幸を味わおうという旅だ。

島は変わっていなかった。

岩がちの山肌、桟橋、澄んだ水。秋には人の姿が少なく波の音だけが静かなことや、早朝からの漁で上がる魚がどこより新鮮なのも変わっていない。違っていることといえば、おなじみだった食堂が少し改装されてハイカラになり、自慢の生け簀がバージョンアップしたところくらい。

しかし、驚く変化は、かわいいギャルが店の看板娘になっていたことだ。身軽なTシャツ姿でよく働く。おかしいな、かつては私と同じ年頃の奥さんがいたんだけどな。

悩む間にわかった。厨房の奥には見覚えのある女性がいる。貫禄がついて、いかにもおかみという感じ。ああ、あの奥さんだ。

ということは、この若いギャルは……。

そうか、あのとき、よちよち歩いていた赤ちゃんか。来るたび子供がふえて、互いに子育て事情を語り合った海のママ友。

「私のこと、覚えてる?」「うん、そうじゃないかと思ってたとこ」「あの子、こんなに大きくなったのねえ」「うん、おたくは?」

たちまちよみがえるママ・トーク。お互いの中の歳月をたしかめながら時間がもどる。

出される料理の、メバルの煮付けや鮹天の味が、先代おかみとそっくり同じであるのにまた驚かされる。景色は何一つ変わらないのに、女がこうして世代交代していくふしぎ。

再会の海はしばし時間を巻き戻し、「また今度」と不確かな未来へ人を送り返す。そして何事もなかったように、悠久のうねりをくり返す。

PROFILE

玉岡かおる
作家。兵庫県在住。1989年、神戸文学賞受賞作『夢食い魚のブルー・グッドバイ』(新潮社)でデビュー。著書多数の中、『お家さん』(新潮社)で第25回織田作之助賞。文筆のかたわら、テレビコメンテーター、ラジオパーソナリティなどでも活躍。
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