HOME > せとうち美術館紀行 > 第1回 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

せとうち美術館紀行 第1回 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 現代美術って楽しいね!

猪熊弦一郎現代美術館に関しての対談3

現代美術と市民の関わり方の変化

山木:
同時代のアートは、こちらに向かって開かれている印象が強いですね。あの、ヴォルフガング・ライプの展覧会のときも、観ている方々の会話が弾んでいましたね。広いフロアーに謎めいたインスタレーションが展示されていて、みているうちに、これは何を意味しているのだろうなどと、会話は弾みますよね。
ですから現代美術といっても、難しいと感じさせてしまう先入観をどこかで植えつけられているだけなのではないかと思うことがよくあります。でも、実際に鑑賞してみると相当会話も弾むし、興味もひかれてもう一度見たいとリピーターも増えると思うのですね。現代美術と市民との関わり方についてお話ください。

館長:
だいたい日曜日ごとに、キュレーターズトークをずっと続けてやっているのですけれども、だんだん市民の参加が増えてきているようです。当初はやはり、市外の愛好家が集まっていましたが。
それともう一つは、事務局長が高齢者の集団に働きかけをしています。そうすると、老人会などの年配の方々は団体でこの美術館に研修に来てくださる。そういったグループが随分増えてきているんですね。

山木:
年配の方々の作品の見かたは変わってきましたか?

館長:
そうですね、どうしても高齢者の方々というのは、写実的な表現でないといい絵ではない、うまい絵でないというふうに思っている方が現実に多いわけですが、段々と自分なりに作品を考えてみよう、取り組んでみようと思いはじめます。
もちろん、最初の段階では、「どうやって見たらいいのですか」と年配の方々から聞かれることがあるのですが、そんなときには、「展示されている作品の中で、自分の部屋に一番飾りたいのはどれですか?」とこちらから問いかけます。そういった問いかけをすると、「それだったらあれかなぁ」とか考え始めるのですね。そういう導入というか、鑑賞に引き込んでいくやり方っていうのが、随分、うちの美術館には、蓄積されているように感じています。

山木:
なるほどねぇ。経験の数が増えて、経験知が蓄積され、学芸員の方々が市民への働きかけがうまくなって来ている。上達しているわけですね。

鑑賞者の立場から言うと、素朴な疑問一つに答えてもらえただけで、絵がぐっと近づいて見えることもありますよね。ですから、昔のように、芸術作品というものは、黙ってひたすら自分の感動と向かい合い、対話するものだというような姿勢ではなくて、一緒に来た人と語り合うとか、分からないことがあったら、学芸員さんに聞いてみようとか、こういう鑑賞のスタイルになってきているのではないかと思います。美術館での鑑賞のスタイルが変化してきましたね。

作家によるワークショップを開催

館長:
当館では、教育普及にかかわる取り組みとして、企画展に際して、作品発表していただく作家の方に、教育普及にも携わってくださいとお願いをする場合もあります。例えば、「ダブル・ファンタジー:韓国現代美術展」(2009年7月12日―10月12日)でも、作家の方にお願いしてみたわけです。その結果、イ・ウンシル(Lee Eunsil)氏に子どもたち向けのワークショップをしていただきました。

河内田:
イ・ウンシル氏は、自分が使っている絵の具を作るのと同じ方法で、染料を煮出して色粉を作ってから、それで韓国の紙に描いてみようというワークショップをやりました。

山木:
展覧会で展示をされている作家さんが、子どもたちに直接働きかけるワークショップを実施してくれる。それは画期的ですね。
日本の美術界も美術教育も、未来がそれほど暗くないかもしれないと思い始めました。

館長:
ですから、この前、秋山さやかさんという方が来ていただいて、展示したんですけれども、秋山さやかさんの場合は、何校か学校へ行ってくださいました。

山木:
この周辺の学校に足を運んでくれたわけですね?

館長:
はい。そこで、授業をしてくださいました。

山木:
秋山さやか氏はどういう作風、作品でしたかね?

河内田:
ご自分が歩かれた経緯を、地図に刺繍していかれるんです。

山木:
ファブリックを中心に現代のアートシーンで活躍するアーティストさんですね。

学校教育と美術館の連携について

山木:
館長さんはご経験の中に、学校の先生をされていたと伺いましたけれども、学校はどちら?

館長:
幼稚園、小学校、中学校ですね。

山木:
あぁ、そうですか。それでは、図画工作や美術を指導されてきたわけですね。

館長:
ええ。40年近く指導してきました。

山木:
長い教職経験をお持ちの館長としては、学校の先生方と美術館との連携について、ご尽力されていると想うのですが、その取り組みについて教えてもらえませんか?

館長:
私、四国の中学校美術教育連盟というのがありまして、そこで委員もさせていただいております。
来年四国大会がありまして、それを香川県の方で引き受けして、研究発表などをすることになっています。そのときに鑑賞を取り上げていただくことになりました。小学校も中学校も。そこで、美術館として、協力を惜しまず致しますと申しております。すでに、市内の学校を中心に、当館が開発したMIMOCAアートカードなども貸出しておりますので。(中略) この美術館を学校教育に役立ててもらえる機会を積極的に捉えていきたいと思います。

前のページへ 次のページへ