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せとうち美術館紀行 第2回 大塚国際美術館

大塚国際美術館 世界の美術館を楽しもう!

大塚国際美術館に関しての対談2

日本に西洋美術のメッカを作りたいとの遺志を継いで

山木:
今、大塚明彦さんが二代目の館長でいらっしゃいますね。
たしかに、初代館長の大塚正士さんの功績が大きいと思いますが、西洋美術を中心とした名画の殿堂としてのこの美術館をさらに発展させたいという思いが現館長はお強いのではないかと思います。このことについて何かお話いただけませんか?

平田:
そうですね。ご存知かと思いますが、館長は美術の専門家ではないのですが、美術を通して教育普及、将来を担う若い人への来館に、力を注がれています。

山木:
教育といえば、私自身は、この美術館の名画の選定について関心があります。話が美術館創設時に遡りますが、名画の選定にあたるに委員がまず組織されましたよね。このあたりをお話いただくと美術館の学術的な背景がよくみえると思います。

平田:
東京大学の青柳正規教授を選定委員長にしまして、それぞれ古代・中世・ルネサンス・バロック・近代・現代と6つの時代別に仕切り、それぞれの時代別の美術史研究者にお願いをしました。具体的に申し上げると、青柳先生をはじめとして、長塚安司、故若桑みどり、故神吉敬三、大髙保二郎、千足伸行、木島俊介の各氏です。

山木:
ここに展示されている作品群を眺めていると、熟考に熟考を重ねたうえで、慎重に精選された印象をもつわけですが、美術史研究者として定評のある錚々たる方々によって精選された作品ばかりですから、何を見ても、どこを見ても、興味が尽きないはずです。そして、かなり専門的なところまで揃っていますよね。いったい、全部で何点あるのですか?

平田:
1000余点です。

山木:
西洋美術の流れを知るには十分すぎる数ですね。

フェルメールの部屋、そしてシスティーナ・ホールと人気展示が誕生

山木:
そういえば、2004年にフェルメールの部屋ができましたね。 フェルメールは昔からポピュラーなアーティストですが、ここのところ人気がうなぎのぼりですよね。あちらをご覧になる方多いでしょう。

平田:
多いですね。ある液晶テレビのコマーシャルで使われたこともありまして、フェルメールの作品の前で、「あっ『青いターバンの少女』だ」と言われる方が多いですね。当館での作品名は「真珠の耳飾りの少女」ですが。

山木:
大塚オーミ陶業の技術力の素晴しさの一つが、システィーナ礼拝堂天井画の曲面を再現できるようになったことに表れているわけですけれど、ああいう三次元の曲線をもった陶板をつくるというのは大変な技術なのでしょうね。

平田:
大塚国際美術館、大塚オーミ陶業の総力を挙げて、2007年にシスティーナ礼拝堂天井画を完全再現いたしました。複雑な曲線で構成された三次曲面(スパンドレル)をつくるのに、約10年の研究と技術の改良があったと聞いています。

山木:
そのときには記念事業としていろいろ行事も開催されましたよね。

平田:
当館のシスティーナ礼拝堂天井画完成を記念して、2007年11月にはヴァティカン美術館館長をお招きし、「ヴァティカン美術館:世界に開かれた教皇座の扉」をご講演いただきました。宗教関係者としては、東京在住の白柳枢機卿や大阪在住の池長大司教がおいでになりました。いずれも日本のカトリック教会の代表的な方々です。また、美術作品を通じ、キリスト教の伝統を日本国内で紹介し、理解を深めたということで、大塚明彦館長が教皇ベネディクト16世より勲章を受章しました。

山木:
たしかに、大塚国際美術館には、数多くの宗教画がありますよね。学校では、宗教画というものを、鑑賞の対象に選ぶ機会は意外に少ないと思います。やはり、学習者の信教の自由を保障し、宗教教育を避けるという意味から、宗教の説話を題材にする作品について触れることについて少し懸念をもたれる先生がおられることが原因でしょう。しかし、運慶や快慶の仁王像や風神雷神図屏風を鑑賞するのと同様に、ルネサンス期に生まれた素晴らしい名画などを鑑賞する機会も保障されるべきでしょう。世界中のさまざまな宗教や文化をベースにして生まれた美術作品や文化財を偏り無く、積極的に鑑賞する機会をつくっていく題材開発の姿勢こそ、これからの教育には必要だと思います。 大塚国際美術館の場合、キリスト教のカトリック系絵画だけではなくて、ギリシャ・ローマ時代に生まれたさまざまな文化背景をもった作品がたくさんありますよね。

平田:
どの時代、どの文化にも宗教は存在しています。大塚国際美術館では、多様な文化や宗教の背景を持つ数多くの陶板名画を展示していますが、多くの宗教の関心事として、生と死の世界が挙げられます。お墓にかかわる作品に、いろいろ興味深いイメージが表現されているのもその表れですね。

ユニークな壷の展示

山木:
壷を展開した作品もありますよね。壷がレリーフ状の絵になってしまっているわけですから、たいへん驚かされました。あれも技術的には、たいへん高度なものなのでしょう?

平田:
私どもは陶器本体の材料以上に、壷に描かれている絵から古代の人々の価値観を学び取りたいと考えました。それがこの展示につながりました。おっしゃるとおり、技術的にみても画期的なものです。原理から言えば、これをもう1回丸くすれば、もとの形になるはずです。

山木:
壷と、壷を全部開いた時に見ることができる絵の全体像を同時に眺めることができるというのは、ここだけですね。

平田:
これも、この美術館ならではの展示形態かと思います。

環境展示・系統展示・テーマ展示の3つの展示法

山木:
システィーナ・ホールもそうですし、スクロヴェーニ礼拝堂も非常に特色ある展示です。この「環境展示」について、少し説明していただけますか。

平田:
当館は3つの展示方法があります。なかでも、「環境展示」はほかの美術館ではなかなか実現しにくいユニークなものです。ご来館のみなさまに現地の雰囲気を体感していただくために、そのままそっくり現地の環境を立体的に原寸大で再現しました。
徳島県鳴門市において、ヴァティカンの礼拝堂、ポンペイの遺跡、あるいはトルコのカッパドキアの聖堂などの現地の雰囲気をそのまま実感できる、これが「環境展示」の大きな魅力です。

山木:
そのほかに、「系統展示」と「テーマ展示」がありますね。

平田:
「系統展示」というのは、一言でいうと、西洋美術世界史を旅するという展示方法です。紀元前16世紀ぐらいから、現代の21世紀までを6つに分けました。古代、中世、ルネサンス、バロック、近代、現代と6箇所にギャラリーを区分して、これらを時系列に鑑賞していきますと、一日で西洋美術や世界史の変遷を学べるしくみです。私流にまとめると、「歩いて学べる西洋美術史、世界史の教科書、しかも原寸大」ということができます。

山木:
そして「テーマ展示」は?

平田:
古今東西、人間にとって根源的な価値観というのはそんなに変わらないものですね。例えば「生と死」とか、あるいは「家族」とか、「食」、といった人間なら誰もが深くかかわっている普遍的なテーマをピックアップしまして、選んだテーマごとに作品を集めています。たとえば、比較対照することで、「生と死」というテーマひとつでも、画家によってこれだけ表現が変わってくるのだなあ、ということに気づくことができます。

山木:
人間の喜怒哀楽がものすごく率直な形で表出されているのが、テーマ展示として取り上げられている作品には多いですね。時代を超え、地域を越えて人間の感情や倫理がそれほど変わらない、普遍的である、という思いを抱きました。

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