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せとうち美術館紀行 第3回 高松市美術館

高松市美術館 現代美術と匠の技に感動

高松市美術館に関しての対談2

特別展について

山木:
特別展のことについてもお伺いしたいと思うんですけれども、やはりそれだけの歴史があって、さまざまな現代の美術の動向を踏まえながら、意欲的な企画展を組まれたり、巡回展でも魅力的なものを開催されたりしていると思います。特別展について、ここのところアニメとか、一般にサブカルチャーと言われるような作品を積極的に紹介されていますね。(もちろん、実際は、あんまり簡単にそういう分類化はできないし、しないほうがよいとは思いますが。)このあたりについて教えていただけますか。

山本:
そうですね。市民の興味の対象も多種多様ですから、いろいろな分野でまんべんなく、国内外の有名企画を開催したいという欲張った考えは開館以来あるんです。アニメや漫画については、ほかの公立美術館に先がけ、平成6年に鳥山明の世界展、平成8年に手塚治虫展、平成10年に水木しげると世界の妖怪展を開催してきたという実績があります。

山木:
最近も大変入場者数が多かった企画がありますよね。

山本:
あ、そうですね。昨年(2009年)の夏に開催した、「うる星やつら」で有名な高橋留美子展ですね。高橋留美子さんのファン層は厚くて、年配の方だと、50歳近いんですよ。もちろん、今もテレビやマンガで流れているシリーズもありますから、小学生や中学生のファンもいる。そういう愛好者の厚みを背景に、会期中は家族連れで大変にぎわっていました。

山木:
ポップアートにもつながるような、市民に広く受け入れられているマンガの世界などを積極的に紹介するのには、何かわけがあるのでしょうか。たとえば、この美術館のポリシーの中に、そういうものを呼び寄せる原則みたいなものがあるとか・・・。

山本:
やっぱり市民の美術館というコンセプトに帰着すると思いますね。家族連れや友だちどうしで、対話の機会が増えることがいちばんの願いなのです。そういううちとけた人どうしの対話が弾む美術館にしていきたい。そういった思いがあります。

教育普及について

山木:
それではこちらの美術館の教育普及についてお伺いしたいと思います。今、高松市美術館は、市民に開かれた美術館として、小学生、中学生、あるいは幼稚園の園児や高校生にも積極的に関わられてると思います。
このあたりについてお伺いしたいと思います。まず最初に、定期的に開催していらっしゃるワークショップについて伺いたいと思います。

福井:
そうですね、わたしたち、いろいろな枠組みのワークショップを設けています。はじめに、「アートで遊ぼう!」という名前の企画を運営していますので、その話から・・・。
このワークショップは特別展または常設展と関わったワークショップです。小学校3年生から6年生が対象になりまして、まず絵や彫刻や工芸の作品などをじっくり見てもらって、そこから子どもたちがそれぞれどう感じるかとか、そこから何のイメージを持ったかとか、ひとりひとり感想を語ってもらうという内容です。
じっくり見てもらううちに、この作品はこうやって作られているんだかとか、どうやって作ったのかなあという発見や疑問の気持ちが起きてきます。そして、自分も作ってみたいというふうに気持ちが湧いてくるのです。このような自然の流れのなかで、作品を見るだけではなくて、自分たちで作ってもらうというワークショップにつなげていきます。

山木:
それが「アートで遊ぼう!」という企画なんですね。今のお話だと、子どもたちにじっくり見てもらって、語ってもらう活動が中心のようですが、子どもたちの話を聴いてくれる相手は、企画展の展示内容を掌握している企画担当の学芸員の方なんですか、それとも、子どもとのかかわりに慣れている教育普及の方なんですか?

福井:
この役割は、例えばボランティアの「civi(シヴィ)」という組織があるのですが、そちらの方々にも時々手伝っていただいてます。子どもたちのワークショップを開催する時には、サポート役としてお越し頂いております。 もう少し、具体的に言うと、子どもたちが自分の感想や考えを語る相手は、学芸員に伝えるというよりも、同じお友達の前で発表して、お互いに聞きあうスタイルです。

山木:
福井さんは、そういう子どもたちの感想を聞いていて、どんなふうに思われますか?ご自分の感じ方や考え方と違いがありますか。

福井:
そうですね、大人の目線から、「こういうふうに答えるだろうな」って予想していると、予想外の答えが返ってきます。「そんなふうに感じてるんだ」とか、いつも新鮮に感じられます。制作の場面でも、本当に予想外の作品ができあがってきます。それを見るのが楽しいですね。

山木:
具体的に思い出せる範囲で結構ですが、「こんな予想外のことあった」という事例を教えてください。

福井:
流政之展の時ですが、コラージュの作品を見たときに、いろんな風景の写真を最初にたくさん用意しておいて、自分の好きな写真を背景に選んで、流さんの作品を好きな位置に貼り付けてもらう活動をしていたときのことです。ある子は、その活動だけに終わらずに、そこに電車の絵を描き入れたのです。たぶん、その子は電車がとても好きなんだと思うんですね。

山木:
おそらく、そういう自分が身近だと感じているもの、愛着があるものと、流さんの作品をつなげたいという気持ちの表れですね。すばらしいことですね。

山木:
子どもたちが作品を鑑賞したプロセスから生まれた発見といいますか、たとえば、「こんな発想するんだ」と驚かされたような経験はありませんか。

福井:
そうですね…。加山又造展のときに、彼の作品のですね、「もみ紙」っていう手法を…

山木:
「もみ紙」とは、どういう字ですか?

福井:
ひらがなですね。加山又造は、ちょっとひび割れた感じの背景をたくさん使っています。この手法に近い表現活動をワークショップのなかで採り上げたときのことです。
枠組みから説明しますと、実際に「もみ紙」という技法を習得するのは、かなり手間がかかる作業なんですけれども、それを簡単なかたちで子どもたちに体験してもらうことができないかと考えまして、和紙を用意しました。それをくしゃくしゃにして、そのひび割れたところに絵の具が入り込むという手法を体験する場を設けました。
私たちが考えていたのはそこまでだったんですけども、子どもたちは、いろんな色を混ぜて、結果として、複雑で魅力的な表現が生まれました。墨を使う子も出てきて、ふつう墨を使って背景をつくると、単調な感じになるのですけれど、そこに金色の折り紙を貼って、素晴らしい作品になりました。そういう表現の工夫に驚かされますね。

山木:
なるほど。

福井:
ええ、私自身、とてもよい経験になりました。

山木:
今お伺いしたような作品への関わり方というのは、なかなか学校の図工や美術の中では取り上げられないと思います。たとえば、「もみ紙」という日本画の特殊な技法をテーマにして、子どもが表現活動に取り組むような実践は、少ないと思います。だからこそ、とても貴重な経験を子どもに提供してるなあと思いますね。子どもたちにとって、鑑賞と表現を結びつけるよい企画だと思いました。
もう一つ、「子どものアトリエ」という教育普及の取り組みがあると伺っているのですが、これはどのような活動なのでしょうか。

福井:
「子どものアトリエ」はですね、「アートで遊ぼう!」よりも少し年齢層を上げまして、主に小中学生を対象に開催しているワークショップです。 講師の方は主に地元の美術作家の方々です。特別展のテーマや技法に沿ったワークショップを開催するときもあるんですけれど、それとは別に、若い地元の美術作家さんに講師をお願いして、独立した企画として運営することもあります。例えば、この間やったのは、「ピンホールカメラでみる世界の夢」というテーマ。
ピンホールカメラって、自分一人で作ろうという機会はなかなかないと思います。そうした、なかなかできないことを体験できるとのが「子どものアトリエ」という活動です。

山木:
美術館の学芸員だけではなくて、地元の作家の方々のご協力のもとに子どもたちが学ぶ場を積極的に提供しているわけですね。すばらしい企画だと思います。

ボランティアについて

山木:
続けて、ボランティアについてお伺いしたいと思います。ボランティア活動についてはかなり積極的に展開されてるとお伺いしていますが、美術館に置かれていた機関紙も、「ボランティア通信」と記載されていますね。これはボランティアの方々が文章作成にも協力しているということなんですか、それともボランティアの活動を報告しているということを意味しているのでしょうか。

山本:
ボランティア通信「しびのーと」は、基本的には年に2回発行している機関紙です。基本的には、ボランティアの方が自主的に編集をしている冊子体のメディアです。
最終の段階で、誌面のレイアウトであるとか、そういった部分は私たちも手伝うのですが、ボランティアの方々よって発行されている情報満載のパンフレットです。
半期ごとのボランティアの活動の報告だけでなく、展覧会の紹介や館の収蔵品の紹介など、重要な情報を発信して頂いております。

山木:
今のお話ですが、正直言って驚きました。多くの美術館が、企画展や作家について、市民に分かりやすく書いたリーフレットを提供していますが、それらと内容を比較してみて気づいたのは、こちらの「しびのーと」には、とても読みやすく魅力的な文章が並んでいることです。よほど、手間隙をかけて学芸員の方々が知恵を出し合っているのかなと推測したのですが、記事の執筆から編集までボランティアの方々が担当していると伺い、ほんとうに驚かされました。同時に、だから、誰にもよくわかるように、分かりやすい文章になっているのかなと、思いました。ボランティアの方々はこういう仕事を積極的に引き受けておられるのですか?

山本:
ボランティア組織が発足したのが平成12年の末なんですが、そのときから何回か補充の募集を経て今26人が活動してます。当初から活動の大きな柱として、一般の来館者に対して、展示の説明や解説などのギャラリートークを展示室で行なう役割を引き受けていただいておりました。それと機関紙の発行が活動内容に含まれていました。平成16年度からは、加えてワークショップなどのサポートにも活動の舞台を広げて現在に至っています。随時、集まって活動して頂いており、月一回の例会があります。ですから、「しのびーと」の企画・編集も、自主的、主体的に楽しく取り組んで頂いております。

山木:
ボランティアさんがこの「しびのーと」をまとめる時には、展覧会の内容などについて、学芸員の方々と話し合われると思うんですけれども、そういう場も用意しているのですか?

山本:
それが、原則として月1回開催している例会ということになります。

山木:
ボランティアの方々はどのような構成になってるんでしょうか。年齢とかキャリアとか、さしさわりのない範囲で、教えてください。

山本:
年齢的には30代から40代が中心かな。たまたま、今は男性がお一人だけです。キャリアについては、仕事についておられる方も、退職された方もおられますね。

山木:
福井さんはボランティアの方々とどういう形で接点を持たれてるんですか?

福井:
そうですね。ボランティアの方々に、事前にこういうワークショップをしますとお知らせをして、今度のワークショップではこういうことをしますのでと、計画の概要やサポートの内容を伝達します。ワークショップの当日には、ボランティアの方々と一緒に、子どもたちかかわります。

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