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せとうち美術館紀行 第5回 高知県立美術館

高知県立美術館 多様なジャンルの芸術文化を満喫

高知県立美術館に関しての対談3

マルク・シャガールのコレクションは財産

山木:
マルク・シャガールに関しても体系的に集められていて、良い作品、油彩画の大きい作品を5点もお持ちですね。シャガールというのは良い意味で非常に市民に親しまれる性格を持っているのではないでしょうか。シャガールを収集していることに対する市民の反応や、これからも収集し、見せていく狙いなど、シャガールに関するこちらの美術館の姿勢や願いを聞かせていただけますか。

館長:
マルク・シャガールについては、油彩画は5点ですが、版画は1202点、合計1207点をコレクションしています。版画集はほとんど集めていて、そういう意味でコレクション自体は非常に価値が高いと思っています。
シャガール自体は一般市民の人気は高いと思っています。他館に貸出をしていない時期は、常設展として油彩は必ず展示していますし、版画についても順次展示していますが、県民の方がそれを頻繁に見に来られるかといったらそうでもありません。いつ行っても観ることができると思われているのでしょうか。シャガールを常設展以外の企画として組んだ場合でも、そんなにたくさんおいでにならない。シャガール自体は本当に財産ですので、足を運んでもらうためには、当館の収蔵作品だけでは限界があるのかもしれません。収蔵品以外の作品をお借りすることによって、新たな展覧会を組み立てることが必要だと思います。

山木:
今収蔵されているシャガールをコアにして、新たな企画を起こす。そのエネルギーになり得るということですね。

館長:
そうです。新たな企画を立てていく。もしくは他の美術館からまとめて借りる。先ほどお話しした石元先生の作品と同じなのですが、新しい企画を出していくためには収蔵品がなければだめですから、それなりの作品があることは大きな財産だと思っています。

山木:
そういえば、「美術館日記」という魅力的なブログをつくられていますよね。あれはどなたがつくられているんですか。

河村:
影山です。

山木:
あの日記の中にシャガールの作品2点を修復したとありましたが、以前から直したいと思っていらしたのですか。

影山:
開館の時からほぼ年がら年中かけっぱなしですので、作品自体もそれなりにダメージがきているかもしれません。でも、それよりも時期を見て低反射のガラスを入れたいと考えていました。作品を保護するためにカバーをしていますが、それがあると鑑賞者は見づらいですから。そのガラスを入れるにあたって弱っている画面の修復や画面の洗浄、ガラスも重くなるのでフレームの強化などをやりました。

山木:
ベストなコンデションになったのですね。展示室の壁の色も深緑色と紅色に変えられて、非常に魅力的ですね。
それで面白いなと思いましたのは、シャガールと同時代の美術作品を3点展示されていましたよね。

河村:
マックス・ベヒシュタインとジョージ・グロッス、コンラート・フェリックス・ミューラーです。

山木:
グロッスは日本では収蔵している美術館は少ないでしょう。ああいう凝ったものがあること自体が奥行きのある美術館だと思いました。しかも質が非常に高い。全盛期の作品といいますか、グロッスの場合、あれだけ描きこんだものは少ないと思います。

河村:
ありがとうございます。

展示室以外にもすばらしい作品鑑賞の場が

山木:
展示室以外の場所でも、全部で6つの作品が展示してありますね。これらはかなり大きい作品で、インパクトも強いと思いますが、小学生や中学生、市民が訪れたときの反応はいかがですか。フランク・ステラや、フェルナンド・ボテロ、和太守卑良さんの作品は、すごくおもしろいのではないかと思いますし、エントランスを入ってすぐに迎えるのが、フランク・ステラの作品ですよね。その次に、若林 奮さんの家のような作品も魅力的ですね。

河村:
ステラは作品だと気づいていないです。若林さんの「石枕」もあまりにも場所にマッチしすぎて最初からあったかのように違和感なくあるので、みなさん普通のインテリアみたいな感じで見ているみたいです(笑)。「これも作品です」と紹介すると、「へーっ」と驚かれます。ボテロの作品はみなさん喜んでいます。

山木:
ボテロの彫刻は触れてもよいのですか。

河村:
普段は触れられないのです。目の不自由な方の特別なイベントで触れてもよいということはありますが。

山木:
目の不自由な方々がボテロの彫刻に触れながら鑑賞されたとき、その印象はどうでしたか。すごくインパクトがありますから印象が強かったのではないですか。

河村:
そうですね、「大きすぎて全体がわからない」という感想もありました。でも、そのぶん、インパクトはあったようです。つるつるしていますしね。「どんなに大きいのだろう」って子どもたちは、すごく喜んでいました。

山木:
なるほど。創造力を喚起しますよね、大きさという点でも。

河村:
触れられなくても、小学生たちは、とにかく大きさだけで圧倒されるようです。それに、絶対に笑いますね。

山木:
いいですね、そういう笑いが浮かぶ作品というのは。

河村:
「この彫刻の人は何を持っていると思う?」と聞くといろいろな意見が出ます。「鏡」とすぐに出るときもありますが、「まち針」とか、「飴」とか。「立体作品だからぐるぐる回って見てみたら?」と言うと後ろから見る。そして、女の人が髪の毛をさわっているのを見て、「あっ、これ髪の毛をさわっているから、鏡を持っているんや」とか、「白髪を見つけているんや」とか言います。一方向からだけじっと見るのに慣れてしまっているのか、「作品のまわりのスペースが空いているから、ぐるっと回ってみていいよ」と言わないと回りません。しかし、声をかけると、注意深く、いろいろなところを観察します。

山木:
ステラはどうですか。「これ作品だよ」って伝えると。

河村:
「これ、何?」って、まず言われます。「意味がわからん」って。

山木:
そうですか。

河村:
けれど、「意味がわからなくても、よく見て」と、作品を横から見てもらったり、安全を確認しながらですが、一人ずつ潜って作品の裏側も見てもらったりすると、裏にも色がついていますし、何重にもなっているので、そういうのを発見したら、急におもしろくなるみたいです。
見てすぐにわからないからと次に行ってしまうのでなく、ひとつ、こちらからアプローチをしてみると、すごく興味を持って見てくれるようになります。

山木:
そうですね。こちらの美術館は水が非常に豊かでしょう。入口の横に池があって、丘があるのもいいですね。行事で子どもたちが来たら、建物の周辺を利用してのんびりできるのですか。

河村:
学校の団体が来られたときは、あちらでご飯を食べていただくことがあります。

サタデーレクチャーとギャラリートーク

山木:
通が好むような、あるいは他館から貸出の依頼がくるような作品をもっとわかりやすい言葉で市民に伝える役割が、学芸員にも、我々のような学校教育と美術館をつなぐ役割の人間にも課せられていると思います。そういう意味で、教育普及がどれだけ幅広く、深く行われているかが、美術館を評価するときのひとつの視点になってきていると思います。
高知県立美術館のいろいろな取組みを見ていると、非常に多角的な観点から一つの企画に関していろいろなイベントを組まれていると感じます。土曜日に美術の見方を紹介するようなこともされていますね。

河村:
サタデーレクチャーのことですね。ずいぶん前からやっています。週末は何か美術館でやっていると思っていただけるようにという意図があります。内容はその時々によって異なり、初期の頃は月替わりでテーマを変えてやっていました。今年は映像紹介もあわせて学芸員によるレクチャーをしています。ただ学芸員も忙しく、毎日になるとしんどいので、年に1回ぐらい登場するようなかたちにしています。
当館の活動から離れたような概要的な美術史の話よりも、できるだけ収蔵品に絡めるか、身近なお話をお願いするように心がけています。例えば、当館で全くないことはあり得ませんが、北方ルネッサンスの話をするのはあまりリアルでないという感じもしますが、反面すごく繁用的なテーマにもお客様のニーズがあります。

山木:
サタデーレクチャーは、大人の方を対象にしているのですか。

河村:
基本的には高校生以上、一般向けですね。昔は日曜日などに子ども向けのレクチャーといいますか、ワークショップをやっていました。例えば、シャガールを子どもたちと一緒に見たり、彫塑の展覧会をやったときに思いきりスケッチをできるような企画をしたり、目の不自由な方を対象にボテロの彫刻にさわってもらったり。最近は土日にホールでいろいろな催しものが続き、企画展のほうもいろいろありますので控えています。

山木:
ブログに「好き嫌いも大事だけれど、見方を学ぶともっと楽しくなる、深くなる」というような言葉がありましたけれど、確かにそうですね。

河村:
どちらか一方に偏っても不自然かなと思いますし、両方をうまくバランスを取ってできればと思います。小学生が団体で来られるときは、人数や目的などに応じて対話型のレクチャーもしますし、説明を中心にご案内することもあります。できるだけいろいろな選択肢があった方がいいと思っています。

山木:
選択肢を提供してニーズに合わせるということですね。
ところで、ギャラリートークと出前講座がかなり多くなってきていると伺ったのですけれど、年間どれぐらいされていますか。

館長:
ギャラリートークは年間170回、毎週土日にやっています。

山木:
それはけっこう多いかもしれない。

河村:
コレクション展、企画展、シャガール展それぞれでやっています。シャガール展では、解説補助員がミニ作品解説として10分程度、簡単にシャガールの作品や生涯をご案内しています。企画展は、企画展の担当者が日曜日に14時から二部屋でお話しします。コレクション展は、担当の学芸員が一つの部屋だけですが、土曜日の13時から30分ぐらいご案内します。

山木:
その他にも、学校で申し込まれたときには学校対応のギャラリートークもされていると伺いました。

河村:
はい、しています。

山木:
学校からけっこう訪れていますか。ブログを見ていると高校が多いような感じがしますが。

河村:
時期にもよります。昔に比べたらちょっと減った気がします。

山木:
それは残念ですね。

河村:
学校自体は美術館を訪れているんですよ。ただ私たちに何かを依頼するということが減ったかなという気がします。昔はこういうことをして欲しいという依頼があったのですけれども。

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