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せとうち美術館紀行 第5回 高知県立美術館

高知県立美術館 多様なジャンルの芸術文化を満喫

高知県立美術館に関しての対談5

NPOと協力して地域を活性化

山木:
他にも独自でやっておられることがあれば紹介してください。

館長:
休廃校活性化プロジェクトという活動をしています。地域おこしは芸術以外の観光でということもありますが、我々ができることは芸術文化ですばらしい地域をつくること、創造性にあふれた地域をつくることが使命だと思っています。けれども我々だけではできない。美術館職員以外のいろいろな活動をされている方々と手を組まないと果たすことはできません。困難はありますが、NPOの方々をはじめ、他の分野で仕事をされている方々と力を合わせてやっています。
高知で今一番活動している「ART NPO TACO」というNPOがあります。江の口川沿いに蔵があり、そこを活用してギャラリーを開いています。その蔵が一つずつ増え、ギャラリーの隣は演劇などの発表の場、練習の場になっています。そういうところと協力し、本当の意味で、市民がものを生み出す場にかかわっていきたいと思います。

山木:
それでは河村さん、休廃校活性化プロジェクトについて紹介してください。

河村:
高知県の郡部、田舎のほうには少子高齢化が進み、子どもがいなくなって休校、廃校になった校舎がたくさんあります。そこを拠点にして美術館などのイベントをやっているのが、休廃校活性化プロジェクトです。決まった形式があるわけではなく、秋の一日あるいは二日間、その校舎を使って展覧会やワークショップをするというものです。
高知県は広い県で、交通の便も決して良いとは言えません。それなのに美術館がたくさんある県というわけでもなく、高知県立美術館が1館だけです。
そうなると、同じように税金を払っていただいているのに、いつも美術館の展覧会を見て、ワークショップに参加できる高知市内の方々と他の市町村の住民の間に、文化サービスを享受する点で大きな隔たりが生じてしまう。それは問題だと感じています。
そういう思いがあって、土佐清水という、ここから車で3時間ぐらいかかる場所で4年ほど前に休廃校活性化プロジェクトを始めたわけです。
先ほど山木先生が、「この美術館ではいろいろきめ細かなことをやっている」とおしゃってくださいましたが、それは結局、この美術館に来る人にしか役に立たないことです。いくらここで一生懸命いろいろな企画をしても、ここに来られない方、あるいは全然興味のない方にとって、この美術館の存在意義は見えてこない。
そう考えたら、まずは美術館を知ってもらわないといけない。そして、館長が先ほど申しましたように、芸術文化の力で地域を元気にしたいという思いもあります。
ではどうすればいいのかとなると、地域のよいもの、地域に残されている魅力的なものを芸術や美術のフィルターを通して再発見、再活用していくということを地域の人とやっていくという休廃校活性化プロジェクトのプランが生まれました。

館長:
最初の3年間は土佐清水でやりましたが、実は向こうにもNPOでやってくれている人がいて、その人の活躍も大きいです。例えば我々が手を引いてそれで終わりとなるとあまり意味がないですよね。
その3年間に近辺のNPOと協力して休廃校活性化プロジェクトをやったことによってNPO自体も力をつけ、当館の予算でなくても独自で別の地域でアートプロジェクトをやるなど成果が広がっています。やはり事業をする以上は、何かを残していかないといけません。

山木:
NPOのメンバーを見ていると、うちの大学院の修了生もずいぶん育てていただいているのではないかなと思います。

河村:
彼らはアーティストとして参加してもらったので、NPOではありません。

山木:
いずれにしても、修了生です。そういう意味で鳴門教育大学を巣立った人たちを育ててくれているという感謝の気持ちが湧くのですけれど(笑)。

館長:
そういうことに関心を抱くアーティストの方も増えてきていますので。

山木:
そうですね。若い方がそういうことに関心を持って協力をするということ自体が、新しい動きとして歓迎すべきだと思います。すばらしいことですよね。

河村:
最近は、地域とアート、もっと広げたら福祉とアートというように、アーティストの方が自分の作品をギャラリーで展示するのではないかたちで、広い意味で社会との関わりみたいなものを考えて発信されている方が増えていると思います。ささやかですがそういうこともできたらと思います。
ちなみに2カ所目の休廃校活性化プロジェクトは、いの町でやろうと思っています。いろいろな事情で2011年3月になりそうなのですが。旅行者の方も見に来られることは可能ですが、基本的に旅行者があまり通らないところなので(笑)。

山木:
それを探すのも楽しいのでは?(笑)

河村:
たしかに、壮大な計画としては、私たちがやっていることが観光客を呼ぶようになればいいなと思います。何もない、本当に道しかないようなところですけれども、それを見るためにちょっと行ってみようかなというふうにいろんな人が来るようになれば本当の活性化だと思います。
さらに言えば、自治体の協力も必要です。その校舎がアトリエやアーティスト・レジデンスとして、アーティストの方が一定の期間住んだり、作品を創ったり、発表したりということになれば、本当の意味での地域の活性化につながると思います。

フリーマーケットでアーティストと市民が交流

山木:
影山さん、最後に何かありませんか。

影山:
アートフリーマーケットを企画してやっています。フリーマーケットは誰でも参加できることが基本ですけれど、この企画では私たちが人選をして、アーティストさんが自分の作品を一般市民の方に販売し、コミュニケーションしてもらっています。

山木:
ユニークですね。

影山:
今年で5回目になります。

山木:
中間マージンは取らないのですか(笑)。

影山:
参加費だけいただきます。

山木:
画期的でユニークですね。その背景には、同時代の美術を市民に広げたいというのがあるのですか。

影山:
敷居を下げたいと思っています。ギャラリーは、なかなか行きづらいものですから。

山木:
アーティストの人が作品を販売するというのは、市民とアーティストがつながる良い機会ですけれども、日本のアーティストはそういう企画を自分で組まない気がしますよね。この前、ロンドンに行ったのですが、芸術家が集まっているアトリエ用のアパートでは毎週土曜日に自分の作品を市民に売っていました。どの部屋もパーティーの状態で賑わっており、けっこう値段が高くても売れていました。しかし、日本ではそういうアーティストと市民の橋渡しが必要なのかもしれませんね。

館長:
確かに日本の場合は、橋渡しをコーディネートする団体の役割が薄いと思います。我々よりも、そういうことを専門にするひとが育つとよいのですが、我々もそういう役割を果たすことができると思います。

山木:
そうですね。同時代の美術を広げるために美術館の大事な機能だと思います。そして、美術館を身近に感じていただくよい企画ですね。

河村:
美術館のイメージがかえってよい効果を持つこともあります。ストリートダンスなどのパフォーマンスの雰囲気に馴染めないでいた年配の方々が、美術館のホールでブレイクダンスの公演をやったときには、観にいらしてくれました。美術館のイメージがプラスに作用したのかもしれません。

館長:
それについては私たちも意識してやっています。例えばクラブに行くとなると、年配の方々はやはり二の足を踏む(笑)。同じようなイベントを美術館でやれば、年齢にかかわりなく、どなたでも、何の気兼ねもなく行けます。そういうことを意識したプログラムを組むことはあります。

山木:
いわゆるコアな企画も、質が高いものであれば、一般に浸透するよいチャンスなのですね。

館長:
そうです。

山木:
今日は十分なお話を聞かせていただきました。とても有意義なお話を伺えました。長い時間どうもありがとうございました。

館長:
こちらこそ、ありがとうございました。

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