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せとうち美術館紀行 第8回 徳島県立近代美術館

近現代美術の多彩な魅力を堪能

徳島県立近代美術館に関しての対談2

厚みのあるコレクション

山木:
昨年の「開館20周年記念展」では、名品ベスト100をつくって図録にされましたね。そのベスト10位にはどういうものがあげられましたか。実際に得票総数はどれぐらいあったのでしょうか。

森:
得票総数は3324票ありました。1位はパブロ・ピカソの《赤い枕で眠る女》、2位はパウル・クレーの《子供と伯母》です。

山木:
ピカソはその作品が1位ですか、意外ですね。《ドラ・マールの肖像》かと思いました。

森:
3位は靉嘔の虹色の作品《Time to Fly》ですね。4位がバリー・フラナガンという彫刻家の《ニジンスキ-の野兎》。これは親しみやすい彫刻です。

山木:
昨年(2010年)私の発案で、仲田[耕三]学芸員と組んで「くりえいてぃぶアート鑑賞のすすめ」という企画を実施しました。その中で、このベスト100から恣意的に二人が作品を選び、大学生に見せて、自由に語ってもらいました。選んだのは、やなぎみわ、アルベルト・ジャコメッティ、マグダレーナ・アバカノヴィッチ、ヘンリー・ムーア、四谷シモン、山下菊二の6作品です。大学生ののりが非常に良くて驚いたんですけれども、この作品のラインナップを見ても、いかにエッジが効いたといいますか、先鋭的な部分を切り取って現代美術を収集しているかということがよくわかります。
アントニー・ゴームリーの巨大な翼の作品も印象に残りますが、あれは何メートルぐらいありますか。あれが一番面積をとる収蔵作品ではないかと思うのですが。

対談イメージ

江川:
だいたい一部屋を占めますね。でも分解できますので。

山木:
分解できるのですか。知りませんでした(笑い)。
巨大な作品で、すごく面白いですね。話題の作品です。

館長:
実は何箇所かでつなげています。組み立てるときも大変ですけれど、崩すときも大変です。

山木:
そういう作品の組み立て方などがわかるのも学芸員の醍醐味ですね(笑い)。

館長:
そうですね。

亀井:
私は初めて見ました。「おっー」と思いました。

山木:
良かったですね(笑い)。

江川:
ゴームリーの作品は、横が8メートル58センチです。案外小さいですね。

山木:
見た感じのほうが大きく見えますね。やなぎみわの写真も横が広くて大きいですね。かなり雄大な作品がこちらの美術館ではたくさん見られます。他にもコアな美術ファンが喜びそうな、癖のあるアートをたくさん収蔵されていますね。

江川:
「20世紀の人間像」という切り口を決めた時点で、美術史上大切なというものからはちょっとずれてしまったのですね。人間像を表現した重要な作家たちということで、四谷シモンのように美術の本道からはちょっと外れた、だけど戦後の日本の人間像を考えたら絶対に欠かせない作家、そういう作家が収蔵品に入っています。

山木:
本当にそうですね。

収蔵品を貸し出し、コレクションの重要性を紹介

山木:
目玉となる収蔵作品の大部分を貸し出して、去年でしたか、展示をされましたよね。どういう美術館でされたのですか。

館長:
八代市立博物館未来の森ミュージアムと、愛知県の碧南市藤井達吉現代美術館です。

山木:
碧南市藤井達吉現代美術館の場合は入館者も多かったんですよね。

館長:
そうですね、1万人を超えたらしいです。ここは市立の美術館なので、小学校、中学校は必ず教育の一環として見に行くようにということで入館者数が多かったのだろうと思います。それと碧南市でピカソを見ることができるというのが一番大きかったですね。

江川:
碧南市の美術館は開館してまだ間もなく、現在コレクションをつくっている段階なんですね。美術館の方々にすれば、どういったコレクションが大事か、将来どういうことをやりたいのか、それを形にして取りあえず見せようということがあったようです。

館長:
美術館の地位や存在感を碧南市の中で示したということですね。

山木:
なるほど、リサーチも兼ねていたのですね。

コンセプトに沿ってぶれずにコレクションを収集

山木:
ところで、野外においてある作品群もすばらしいですね。立体部門はどなたか専門の学芸員がいらっしゃるんですか。

江川:
はい、おります。

対談イメージ

山木:
こういう優れた彫刻が多いというのはひとつの売りですね。

江川:
ありがとうございます。屋外展示場というのは公共的な場所と考えて、それを念頭において集めたようです。

山木:
子どもたちにも野外の彫刻は受けますよね。

館長:
大好きですね。

江川:
見つけたら駆けていくんですよ。

山木:
どの彫刻が一番人気がありますか。

館長:
フェルナンド・ボテロの《アダムとイヴ》でしょうか。

山木:
ボテロは面白いですね。男の人と女の人の違いを見つけて喜んでいますね。

江川:
あの作品は子どもだけじゃなくて大人や海外の人にも人気があります。外国のお客様は「すもうレスラー」といっています(笑い)。

山木:
ボテロの作品もこちらが収蔵されてから知名度が非常に上がった時期があり、現在の地位を確立していますね。こちらの美術館は非常に収集の観点がしっかりされているので、結果的には価値が上がったいい作品を収集されていると思います。

館長:
収集するにはいい時代の最後でした。

山木:
なるほど。今や手に入らないすごいものがたくさんあります。

館長:
おそらく奈良美智さんの作品はもう手に入らないですね。

江川:
奈良さんの作品は、人間像という視点を持っていたのでいち早く飛びつきました。「これは現代の人間像だ」と。まさかこんなに大ブームになるとは思いませんでした。もちろん気配はありましたけれど。

対談イメージ

山木:
奈良さんの作品は、立体と平面の両方をお持ちですね。

館長:
はい。両方あります。

山木:
油絵の大きい作品をお持ちですね。

江川:
まず立体の作品を学芸員が見つけてきました。でも奈良さんといえば平面じゃないかと。奈良さんが世の中に出てきた頃はそうだったんですよ。

館長:
今は立体作品もつくっていますが、あの頃は平面作品が中心でした。

江川:
それなら平面作品も探してセットで並べると面白いのではないかとなったんですね。

山木:
よく双璧としていわれる、村上隆の作品はないのですか。

江川:
いろいろ意見はありましたけれど、縁がなかったということです。ところで、靉嘔のレインボーシリーズをよく見たら、「なんだこれ」というようなすごいことを表現しています。

対談イメージ

館長:
靉嘔の作品のなかには、深読みする大人には、あれっ?と思うのもあるかもしれない。

山木:
大人と子どもでは同じ作品でも違って見えるんです。虹色の楽しいイメージといいますか。

館長:
はい。ですから子どもが来て、塗り絵として色を塗ってもいいように色鉛筆などを置いています。子どもたちは虹色に楽しく塗っていますよ。

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