HOME > せとうち美術館紀行 > 第8回 徳島県立近代美術館

せとうち美術館紀行 第8回 徳島県立近代美術館

近現代美術の多彩な魅力を堪能

徳島県立近代美術館に関しての対談5

高校生や大学生を美術館に呼び込む

山木:
これからの課題は、就学前の幼稚園、保育所の子どもたちをはじめ、亀井先生が教えられていた高校生や大学生を呼び込むことが課題のひとつではないでしょうか。私は高校生や大学生を美術館に招き入れるというのがかなり重要ではないかと思うんですね。

館長・亀井:
そうですね。

対談イメージ

亀井:
「魅力発見!わたしたちの美術館」では、これまでアンケートで上位になったコレクションの作品と高校生の作品が企画展示室に一緒に並びます。

森:
高校生を呼び込もうということなんです。

山木:
すごいですね。高校生の作品とアーティストの作品を一緒に並べると聞いて、フランツ・チゼックがウィーン分離派展でクリムトらの作品と一緒に自分の絵画教室の子どもたちの作品を並べたことを思い出しました。今聞いてもすごく斬新な企画ですが、それがまた繰り返されている感じでいい企画ですね。 昨年は、開館20周年のひとつの企画として「くりえいてぃぶアート鑑賞のすすめ」という企画を仲田耕三学芸員[2011年定年退職]と一緒に大学生を中心にさせていただきました。細部を見たり、知っている知識とつなぎ合わせたり、小中学生とは違う批評力がありましたね。楽しかったので、今回も館長にお願いして2回目をさせていただくことになりました。こういう高校や大学へのアプローチというのもこれから美術館のひとつの役割ではないかと思っています。大学生はなんとかなっても高校生への働きかけはなかなか難しいそうですね。

館長:
難しいですね。ただ学校で授業の一環として来てくださる学校もあります。

亀井:
「スウィンギン・ロンドン」展では、徳島科学技術高校の総合デザインコースの高校生が授業として見学に来てくれました。竹内学芸員の解説を聞いて、彼ご手製のワークシートに一生懸命記入して勉強してくれていました。生徒さんたちは、いすをつくるなどデザインの勉強をしている生徒さんたちなんですよ。

山木:
それなら展示物に対しても自分がつくる表現とかかわらせて見ることができて興味深かったでしょうね。

対談イメージ

亀井:
はい。当初は出前授業ということで日程を調整していたのですが、先生たちが「せっかく来ているので実物を見せたい」と午後いっぱいを授業として子どもたちを連れてきてくださったんです。そのときに竹内学芸員自身も「デザインを教えている高校の教員といろんな情報交換ができたのはすごく有意義だった」と申しておりました。

デザイン教育というのはなかなか難しくて、どうやったらいいデザイン教育ができるのだろうと試行錯誤をしていると思います。教員の方も、学芸員の方は専門家という意識があってなかなか近寄りがたいと思っていて敷居が高いんですよ。その辺は森さんが感じられることが多いのではと思います。ですから専門の学芸員の方といろいろ情報交換できたというのは良かったのではないでしょうか。実際に研究や教材をどうしたらいいんだろうと相談に来られて、私たち以外のたまたまそこにおられた学芸員の方が「こんな本がありますよ」と紹介し、「すごく嬉しかった」と複数の教員仲間から聞くことが増えました。

山木:
学校教育が美術館など社会教育機関と連携したときに得られるものってすごく多いと思うんですね。専門的な知識について学芸員からいろいろ話を聞くことができれば、それを元にいろいろな教材を自分の力で開発できますから。こちらの美術館だけではないですが、特に高校の先生方にはこれから活用の方法を考えていただいたらいいなと思っています。そのあたりどうなのでしょうか、高校が地域の美術館と連携するのはなかなか難しいですか。

亀井:
そうですね。やはり授業でとなると授業時数も少ないですし、どこの学校も教員数の縮減によって、本当に忙しいんです。教材研究する時間もない中で専門の方といろいろできるというのは本当にメリットがあると思います。そのあたりを伝えるのが自分の仕事かなと考えていますので、コーディネート役をしっかりやっていきたいと思います。

山木:
こちらの美術館はかなり親切ですよね。教材をある程度できあがった形で提供して、それをどういうふうに味付けするか、実際の授業にするかを委ねているという形ですから利用しやすいと思います。

亀井:
ここの美術館の魅力は、役割として教育を主に担当する学芸員の方がいて、学校の先生方との連携や出前授業にしても、いろいろな学芸員の方がそれぞれ専門にあったところに出前授業に行ってくださったり、対応してくださったりしています。学芸員みんなでやってくれているというのを教育現場にいた頃にすごく感じていたので、そのあたりをもっと学校の先生に伝えていかなければと思っています。

山木:
小学校や中学校の先生方へのかかわりとしては、他にも毎年夏に行われている授業研究会がありますね。授業研究会は、市内、県内の先生を中心に多くの先生方が美術館と親しむ機会につながっていると思います。この授業研究会は何回やっていらっしゃいますか。

館長:
今年で10回目か、11回目か。

森:
今年で10回目を超えたところですね。

山木:
徐々に参加者やリピーターが増えてきている印象があります。この授業研究会については、「鑑賞教育推進プロジェクト」のメンバーだった濱口由美先生の力が大きいですね。彼女のリーダーシップがこの授業研究会を切り開いていったという感じがします。そういう意味では美術館に協力してくれる先生方に非常に有能な方が多くて、いい結果につながっているのではないでしょうか。

森:
そうですね。 また、学校だけでなく、社会人の方とも連携していろいろなことを行っています。青年会議所という若手経営者のグループがありますが、そのメンバーの方々は子どもたちの対話型鑑賞のリーダー役を務めてくれています。その研修のために閉館後の美術館に会社が終わってから集まってこられ、何度も子どもたちの話を聞き出す役を練習されたんですよ。そうして50人以上の子どもたちが集まり、いくつかのグループに分かれて楽しく鑑賞し、その後に絵を描くワークショップを行いました。すごく楽しそうに活動してくださいました。そういうことを通して鑑賞の楽しさが美術館の枠を超えて広がっていくのではないかなと思います。これは先生方に楽しんでもらうのも同じですね。

山木:
美術館という場を使い、青年会議所の方々の力も借りて教育普及の場が活性化している様子がわかりました。

学芸員の子どもや教育現場への理解が良い効果を生む

山木:
他にも、こども鑑賞クラブというのを企画展や所蔵作品展の機会に開かれていますよね。こども鑑賞クラブは学校単位ではなくて、近隣の市民の子どもたちがやってくる形でされているのですか。

対談イメージ

館長:
そうです。

山木:
リピーターが多いのですか。

館長:
多いですね。いつも来てくださる方がいらっしゃいます。

亀井:
近隣といいつつ、県南のかなり遠くのところからも来られます。

江川:
当館の教育普及はリピーターが多いんですよ。こども鑑賞クラブではリピーターの親子連れがいるし、展示解説はいつも来てくれるお年寄りのグループがいます。それぞれの学芸員がそれぞれの固定ファンを引き連れているんですよ。

山木:
それぞれの学芸員に「固定ファン」がついているんですね。それは面白い表現だし、いいことですね(笑い)。では亀井先生もこれからどんどん「固定ファン」がついてくれるのですね。亀井先生はこの4月からおいでになられたばかりですから。

亀井:
こども鑑賞クラブに行くと、「亀ちゃーん」って呼んでくれる子どもがいるんです(笑い)。

山木:
先日、「スウィンギン・ロンドン」展で、こども鑑賞クラブを見る機会がありました。そこで竹内利夫学芸員がエアギターというのでしょうか、それをされていました。

館長:
ミニチュアのギター持って来て、エアギター風に弾くまねをしていましたね。

山木:
そうです。すごくエネルギッシュで、なりきってやっておられました(笑い)。あれを見たら子どもにアピールするというよりもご本人が楽しんでいると思いました。ああいうノリはいいですね。

館長:
こども鑑賞クラブの時の森さんや竹内さん、亀井さんは、普段とは全然違いますよ。

江川:
照れがあると子どもは見破りますから。

山木:
なりきらないとだめなんですね。

館長:
そうです。

亀井:
そういう意味では学芸員の方はすごくがんばっていらっしゃると思います。

山木:
私もそう思います。子どもたちの目線に合わせてしゃがんだり、優しくスキンシップを取ったり、学芸員の方々は子どもに対する理解が非常におありになると思います。

亀井:
それでいて学芸員の方は学習指導要領の解説も勉強されていて、学校の教育にもすごく歩み寄っていこうという姿勢があります。私が現場で教員をしているときは本当に頭が下がる思いでした。学校のいろいろな実情を肌で感じ、実際にすごく勉強してくださっている。これは教育現場の教員にしたら本当に心強く嬉しいことだと思います。

前のページへ 次のページへ