HOME > せとうち美術館紀行 > 第10回 広島市現代美術館

せとうち美術館紀行 第10回 広島市現代美術館

広島市現代美術館 身近で心に響く現代美術に親しもう

広島市現代美術館に関しての対談4

ワークショップと展示ができる作家探し

山木:
ところで、アーティストを選ぶ選考基準はあるのですか。子どもたちと積極的に関わってくれるアーティストを探し出すとか、なにか秘訣があるのですか。

山下:
それはいつも苦しんでいるところです。地域密着型のアートや、そういうところに出ている作家さんなどを積極的に見に行くようにしています。作家さんがその場にいる場合は、ワークショップの説明をして、時期やテーマが合うときに来ていただくというかたちで探しています。でもそういうことをやっていらっしゃる作家さんはすごく少なく、夏場は各美術館で引っ張りだこの状態になっています。「今年の夏は全然あいていません」といわれることも多いです。

山木:
地域密着型で子どもに対応できるアーティストは、人気があるということですね。具体的に言うと、魅力的なワークショップができるアーティストということですか。

山下:
そうですね。その部分がとても大きいです。また、展覧会の会期が2ヶ月間とか1ヶ月半とかあるので、展示ができる作家さんであることも大切にしています。その2つが揃っているアーティストはなかなか少ないと思います。たしかに、ワークショップだけをやってもらうときもありますが、やはり、そのひとの展示も行いたいと思っています。

山木:
なるほど。普段から情報収集していないと、そういうアーティストを見つけ出すことも、オファーすることも難しいですよね。

山下:
そうです。

山木:
アーティストは喜ばれるでしょう?

山下:
そうですね。予算がいっぱいあるわけではないのですが、規模としてわりと大きくできるということで、アーティストさんには力を傾けてやっていただいています。

「ヒミツの国」をやっていただいた志村信裕さんも、注目されている若手の作家さんの一人ですが、いろいろ提案してやってくださいました。

山木:
2009年のワークショップの「山の上の山のはなし」では、今非常に着目されている伊藤存さんや、世界的な活躍をされている小沢剛さんが参加されていますよね。

山下:
このときはちょうど小沢剛さんの個展もやっていました。彼の作品であるふとんでできた大きな山を個展の中で展示してしまうのではなく、大勢の方が何度でも体験できるよう、ワークショップのスペースに展示することにしました。

それに加えて、もう少し子どものアクティビティを満たすためのワークショップを考えましょうとなったのです。伊藤存さんはすでに刺繍の作家さんとしてすごく有名だったのですが、ワークショップもいろいろ実績のある方で、広島の川で捕った魚の絵を描くという不思議なワークショップを行いました。

山木:
伊藤さんはお人柄もとても穏やかで、素晴らしい方ですよね。ワークショップに対するお子さんとご家族の方々の反応はいかがですか。

山下:
ワークショップのプロジェクトに関しては、特に夏場は、子どもと共に行く場所を探している保護者がたくさんいらっしゃいます。ワークショップをやってそのことを私も勉強しました。

山木:
何かを学ぶ機会を求めているわけですね。

山下:
そうです。4年目ぐらいになって定着してきて、今年は何をやるのだろうと気にしてくださる方もいます。最初のうちはワークショップをしてもなかなか展示の方まで人が流れず、どうしたらいいのか悩んでいたことがありましたが、キッズガイドなどをつくって表に出すようになったことや、保護者の方々の意識も高まり、2012年度の「ス・ドホ」の特別展は見ても楽しい展示でしたから、そちらを鑑賞していただく流れも生まれました。

山木:
ワークショップに来た人が展示にも来てくれる。展示を見に行った人がワークショップの日に来てくれる。うまく連動して動いてきたということですね。

キッズガイドで作品をわかりやすく説明

キッズガイド

山木:
キッズガイドの話が出ましたが、特別展の時も、コレクション展の時も、キッズガイドという小さなかわいらしいカラーの冊子をお作りになっているようですね。どういうものですか。

山下:
当館にはアートナビゲーターがいて、展示についていつでも質問していいというかたちを整えていますが、そうはいってもなかなか質問できなかったり、「見てもわかんないや」と通り過ぎてしまったりすることがあります。だけど、「こういうところに注目したら、子どもが楽しめる」という部分がたくさんあるんですね。それを「わかんない」と素通りされるともったいないので、お子さん向けにわかりやすく作品について説明したガイドをつくったわけです。

どの年齢を対象にするかはなかなか難しく、読み物的なものというイメージで、小学校3年生以上なら一人でも読めるという想定でつくっています。

山木:
これは毎回作るように努力されているのですか。

山下:
そうです。手刷りを含めて2、3年前から出しています。ワークショップに来られた親子が展示を見るときに、キッズガイドがあるととても便利です。学校からバスで美術館に来た子どもが、「こういう展覧会だった」と保護者の方々にキッズガイドを見せ、その後、家族で来られることもあります。

山木:
どういう人たちに配布しているのですか。

山下:
来館された中学生以下のお子さんに配っています。まだ文字や文章を読めない年齢のお子さんには、お母さんやお父さんが見ながら説明していただければと考えています。お母さんやお父さんにとっても、ガイドを子どもと一緒に見ることで「こういうことだったのか」と気づいてもらえることがあると思います。

山木:
ガイドにある質問や説明はどなたがつくられるのですか。

山下:
私が展覧会担当学芸員と相談しながらつくっています。

山木:
作品の本質を理解してもらおうという主旨ですか。

山下:
はい。ただし作品のコンセプトにはすごく難しい部分があったり、社会情勢みたいなものまでわかっていないとなかなか理解できないものがあったりします。だからといって楽しめないのかというとそうでもないのが美術作品だと思いますので、そういう作品の場合は、カタチや色といったところから説明することもあります。

山木: そのご苦労がよくわかります。キッズガイドは学校から訪れた子どもたちにも差し上げているのですか。

山下:
はい、展覧会を見るときに使われるという学校と、見終わった後に配って事後学習に使われている学校があります。

山木:
もし教えていただいてもかまわなければ、どれぐらいの部数を印刷されていますか。

山下:
小さなサイズになってからは3,000部です。展覧会や学校のスケジュールによっても変わります。学校の遠足と重なると、この数でも足りなくなりそうでした。

前のページへ 次のページへ