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せとうち美術館紀行 第11回 ふくやま美術館

鑑賞して、つくって、市民に開かれた美術館

ふくやま美術館に関しての対談2

美術館が主体になってアートの街おこしを展開

山木:
美術館に入ってすぐのロビーには、圓鍔勝三のレリーフがあり、吹き抜けになっている2階部分の高さにはイタリアの現代作家の作品が展示されています。こうした大きなレリーフ状の作品や壁画もこの美術館の顔といいますか、多くの市民が見る作品だと思います。この2点について教えていただけますか。

対談イメージ

谷藤:
ロビーにある《自然の恵み》というレリーフの作品は、美術館ができるときにモニュメントとして制作されたものです。海側の町から山の奥の町まで12市町村が集まった広域の美術館として建てられたことを表すために海の幸、山の幸、山の果実が描かれています。

山木:
そういう意味が込められているのですか。市民の憩いの場にはふさわしい作品ですね。

谷藤:
他にも圓鍔さんの作品は、モニュメントマップにも掲載されていますが、《仏法僧》をはじめ、福山城公園の中にいろいろあります。美術館の入口には、金色の丸い球に乗った少年像の《弟》もあります。

山木:
もう1点、ロビーの吹き抜け部分にかかっている大きな油彩画は何でしょうか。

対談イメージ

谷藤:
あれはミンモ・パラディーノというイタリアの作家の《行く者、とどまる者》という作品です。パラディーノは1980年代に出てきたいわゆるニューペインティングのスター的な作家です。非常に大きな作品で4m✕8.5mぐらいあります。当館の大きな壁にちょうどいいんじゃないかということで購入しました。

山木:
あそこにあることで映えますね。渋みがあるのに艶やかな色合いです。

谷藤:
彼にとっても最大の作品だったと思います。

山木:
ええ。そういう意味ではイタリアの作品を今後も収集されていく流れがあるのかなと感じました。現代美術まで含めてイタリアにこだわっていただくと、ふくやま美術館の特色というのがいやがおうにもまして発展するんじゃないかなと思います。

館長:
市内にもこうしたパブリックアートや圓鍔さんのいろんな彫刻があるんですよ。

山木:
そうですか。そういう意味でいえば街のパブリックアートや野外彫刻と呼応して美術館が存在しているというふうに見えてきますね。

谷藤:
美術館ができた頃から10数年かけて「ふくやまアートプロジェクト」を行い、街に彫刻や絵画を置こうと取り組んだものなのです。

山木:
となると、美術館の開館と街づくりが連動していて、街中の空間設計や美観の問題とこの美術館は、非常に密接な関係があるということですね。その「ふくやまアートプロジェクト」はまだやっているんですか。

谷藤:
美術館が主体になった事業でしたがもう終了しています。

山木:
そうですか。でも素晴らしいことですよね。街の活性化に美術館が一翼担っているというのは。

館長:
そうです、アートの街おこしですね。

所蔵品を軸に国内から作品を集め、2015年秋にピカソ展を開催

山木:
ピカソもお持ちですよね。

谷藤:
ピカソの作品は、市民からの寄付や寄託で集まってきたものです。小学生もピカソには非常に反応します。誰が見てもピカソということでわかりやすい。これはぜひ発展させようと、2015年秋に「ピカソ展」を開催したいと思っています。全国30数カ所の美術館やコレクターから作品を集め、当館にあるピカソの作品がその中でどういう意味を持ち、どういう位置づけにあるのかというのも抑えつつ、子どもたち、大人たちの入門の展覧会として楽しく見ることができるような内容にしたいと考えています。

対談イメージ

山木:
ふくやま美術館がお持ちの3点というのは、キュビズム時代の作品と、もう少し自由奔放に描き始めたピカソらしい作品と、もう1点展示されていなかったのでわからなかったのですがどういう作品ですか。

谷藤:
版画で、画家とモデルのシリーズのように、晩年に自由な感じで作った作品です。そういう意味では違ったタイプの作品3点を持っていますので、展覧会でも初期の作品から晩年までピカソの変遷を見ていけます。抽象から具象からいろんなタイプの作品がありますので、その間口の広さや想像力の旺盛さなどをわかってもらえるのではと思っています。

山木:
ふくやま美術館としてもそういう展覧会を開くことで、所蔵のピカソの作品3点がどの時代のどの位置にあるのか俯瞰して見たい、もう一度ピカソが成し遂げた画業の歩みの中に収蔵している作品を置いて、眺めてみたいということでしょうね。

谷藤:
改めてみると、総合的なキュビズムの時代の静物画というのは各地にあるんですね。いろんなバリエーションを見ることができ、非常に面白い展示になると予想しています。

山木:
驚かされるのは海外から借り受けをしなくても、国内だけで一つのピカソ展という企画ができるほど日本にピカソが集積されているということです。

谷藤:
そうです。90数点集めるつもりですが、それでもほんの一部です。どの作品も貴重で、とくに油絵はなかなか貸してもらえませんでした。それだけそれぞれの美術館で大事にしているし、人気があるということだと思うんですね。

山木:
ピカソを見に来たのにその作品がないとがっかりされる人もいるでしょうから、貸出を渋りますよね。

谷藤:
そうなんです。

館長:
それぞれご都合がありますから。かけがえのないものはやむを得ないですよね。それでも90点を超す数にオーケーをいただきました。

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