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せとうち美術館紀行 第11回 ふくやま美術館

鑑賞して、つくって、市民に開かれた美術館

ふくやま美術館に関しての対談5

気軽に遊びに来て、美術を通して豊かな心を育ててもらいたい

山木:
先ほど学習指導要領のことを申し上げましたけれども、館長は書や日本美術を専門的に研究し、東京国立博物館に長くお勤めになってこられました。私自身は今後日本の美術を一般市民、そして小学生や中学生、高校生という若い世代に浸透させていきたいと思っています。館長のお立場として美術館の将来を語っていただけませんか。

館長 :
私がいた東京国立博物館はむしろ骨董品を扱っているところなので、博物館と美術館はちょっと違うかなと思います。この美術館に着任して何か新しいことをやろうと見回してみたのですが、すでにいろんなことをやっていて、建物自体も30年ぐらい前に作ったものにしては非常にさまざまな機能や設備を持っています。大変素晴らしい美術館にお世話になっているという気がするんですね。 美術館は、人間が作った古い文化財を公開する場所であり、現代人が活動している美術活動の成果を検証する場所という2面性があると思います。そこが博物館とちょっと違うところです。

私も学校(筑波大学芸術学系教授)の経験がありますけれど、基本的なことを教え込むのはやっぱり学校です。そして教育の教より、育の方に比重があるのが美術館です。ですからたたき込むとか教え込むということではなくて、美術館はとにかく来てもらって遊んでもらうことが大切だと考えています。いろんな美の畑があり、その畑のどこでもいいから飛び込み、自分自身を育ててもらうということが理想的です。作文や絵を描いてもらうのもいいし、対話型の鑑賞指導をしているといいましたけれど、「これはこうなんだ」と教え込むのではなくて感じたことをしゃべってもらう。そして「どうなの?」と聞き出すような対話型の鑑賞というのが大事です。そういうことを通して子どもたちの心がだんだん豊かになり、深められていき、高まっていくのだと思います。

ですからあまり規制せず、自由に遊んでもらえる美術館がいいのではと考えています。ここ何年か前から学芸員主体でやってくれている学校との連携、例えば子どもたちに対する接し方や、「生きる展」のような公募が、将来的に大きな役割を果たすんじゃないかという気がしています。

対談イメージ

山木:
日本美術一般の動向についてはどうでしょうか。

館長:
日本美術の将来ですか。難しいところですけれども、これも自由でいいんじゃないかなと思います。

例えば、書。高校の書道部などは音楽にのって床に大きな紙に大きな筆で書いたりしています。古風な先生は「あれは書ではありません」とばっさり断ち切ることがありますけれど、私はまずは筆で書くという感覚が広まっていくこと自体がいいんじゃないかと思うんですね。

とにかくいろんな表現の仕方があれば飛び込んで経験して、だんだんその人なりの本物を見つけてもらえればいいのではないでしょうか。

山木:
書の世界も、日本美術の世界も、もっと自由に、多くの人がアクセスしやすいような形態で展開してほしいという願いでしょうか。

館長:
そうですね。遊びに来てもらうということで言うと、幸い当館は福山城のそばにあり、一つの大きな文化財の中にあります。お城を見に来るのでもいいし、桜を見に来るのでもいい。そのついでに美術館にも寄ってもらっていろんな美の畑に飛び込んでいただきたいと思います。当館は展示の制限はまずありません。もちろん予算的なことや物理的なことで平安時代の彫刻などの展示は難しいですが、海外の作品も、日本の作品も、時代の古いものも新しいものも展示しています。この土地に馴染んだ作品も展示します。2014年秋には福山藩・水野家ゆかりの刀展を開催しました。

そうしたいろんなものを紹介し、全員が見に来てくれなくてもいい、関心を持った人が遊びに来てくれるというのでいいんですね。 2015年春に開催するキネティック・アートの特別展はずいぶんユニークです。一般的に美術館に飾ってある作品は、平面であれ、立体であれ静かに飾ってあるものです。しかしキネティック・アートは動いたり、光ったり、伝動仕掛けで動いたりします。他にもトリック的な展覧会も好評を博しています。まずは子どもたちに関心をもってもらう、遊んでもらうといった企画展示ができればいいと考えています。

対談イメージ

山木:
館長としては学芸員の方々の自由な企画、考えを展覧会というかたちで実現させてあげたいという気持ちを強くお持ちなのですね。

館長:
それは私自身が東京国立博物館でやっていましたから。自分で温めた企画で研究の成果として展示できれば一番幸せだと思っているんですね。 現在開催中の「夜の画家たち」展(2015年1月24日~3月22日)は良い特別展だと思っています。

ただ美術館の運営は現在、特別展に比重がかかっており、その特別展をどのように開催するかということで、美術館としての規模や展示内容、時期、予算ということを総合的に考えないといけません。そこが難しいところです。

山木:
まさにいろいろなご経験を生かして腕の見せ所かと存じます。

館長:
学芸課長が非常に心を砕いて計画しておりますので(笑)。

山木:
ふくやま美術館が多種多様な魅力的な特別展を次から次へ繰り出して、美術愛好家だけでなく、子どもを含む多くの市民を魅了し、来館者を増やしてきたご努力を心強く感じました。

館長:
学芸員の思惑通りにというのがなかなかいかないところがありますけれどね。それはしようがないですね。

山木:
これからも期待しております。本日はどうもありがとうございました。

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