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せとうち美術館紀行 第12回 呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)

戦艦大和を建造した呉の歴史に日本の近代化と未来を見る

呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)に関しての対談3

来館者は年間100万人、入館料とミュージアムショップの売上げで運営をまかなう

井上:
大和ミュージアムが地元に及ぼした経済効果は大きいですか。

ショップ イメージ

館長:
呉はいわゆる工場の町でもともと観光的な地域財産がない町です。大和ミュージアムができてから純粋に観光目的で来られるお客様が増えました。当館でいえば、入館料とミュージアムショップの売上げなどでかなりの年間経費をまかなうことができます。

井上:
運営媒体は呉市直轄ではないのですか。

館長:
呉市が指定管理者制度で運営の一部を民間に出し、一部は市の職員がやっています。最初は全部市の職員だけでやっていたのですがミュージアム運営のノウハウの蓄積がなく、特に広報が弱いものですから、いろんなノウハウを持った企業5社ぐらいで運営グループを作り、運営の約4分の3を民間で担っています。単独の業者さんではなかなか難しいです。いろんな要素が入っているので。

井上:
その全体統括をしているのが戸髙館長なのですね。

館長:
一応そうです。学芸員は市からきますから、市のほうで参与の辞令をもらってその権限で市の職員を指導しています。運営グループのほうは運営グループの職員のトップとして指導するという形で、二重権限になっています。市の学芸員さんは、大和の研究をしていたような学芸員を配置してもらうわけではないので、館に来てから、しっかり勉強してもらっています。

井上:
そのような運営形態は設立当初からですか。

館長:
いえ、最初はオープンと同時に民営にしたいという意向で進んでいたのですけど、なかなか上手なやり方を思いつかないうちにオープンが来てしまったのでしばらくは直営でやっていました。しかし長期的に考えると難しいので、3、4年目に指定管理者制度のやり方を研究し、現在のような運営になっています。

井上:
観光目的のお客様は日本人が多いですか。

館長:
もちろんそうです。外国の方もいらっしゃいますが、多いというところまでではないです。ただいろいろな国の方が来られます。台湾や中国、オープン当時はアメリカやイギリスのマスコミも来られました。

井上:
日本人は全国からですか。

来客 イメージ

館長:
全国です。オープンから10年1ヶ月ぐらいで延べ一千万人の来館者があります。年間でいうと100万人ずつぐらいで、近県から来る人だけではとても出ない数字です。7割くらいは県外で、近畿、関東が多くて、最初の頃は北海道や沖縄の駐車ナンバーもありました。

井上:
その集客力は他のミュージアムにとって「うらやましい」の一言ですね。

館長:
友だちが博物館や資料館の人間が多いのですが、最初の頃は「すごいね、良かったね、うらやましいね」と言っていました。でもすぐに「もうお前の話はわかった」と(笑)。半分はみんな冗談ですが、どこも閉館の話ばかりで、非常に大きいところも管理運営が成りいかないところが多い。採算が難しいんですね。そういう中で当館に突出してたくさん来ていただいているのは本当にありがたいことだと思います。

井上:
逆に言えば、戦艦について知りたければ日本ではこの大和ミュージアムしかないのでは?

艦長:
そうでもありません。みなとをテーマに扱っている博物館など全国で31館が加入し、みなとの博物館ネットワーク・フォーラムというのをつくっています。その会長を私が務めていますが、それぞれの館が地域に合わせた非常にユニークな活動をしています。ただ頑張っていますけれど、なかなか思うように多くの方に見ていただけていないというのが共通の悩みです。

井上:
大和ミュージアムの一人勝ちといっていいぐらいかもしれないですね。

館長:
それは過言ですけれども、本当にたくさんの方が来てくださっています。今期も100万人以上の方にお越しいただきましたが、当館のスケールで来館者が100万近いというのはほとんどあり得ない数字です。来館者が100万という博物館は日本で3つ、4つしかないですから。当館より上位は東京国立博物館と、時々、江戸東京博物館があがってくるぐらいです。ただそれらはスケールが桁外れに大きかったり、投入予算が桁外れに大きかったりします。ですから投入予算に対する来館者数では当館が日本一ですね。ほとんどお金がかかっていませんから。ほぼ自前でやっていて、敷地面積も小さく、設備面積に対する来館者数もたぶん一番だと思います。そういう意味では博物館として何とか一定の成果が出て良かったなと思います。

井上:
呉駅からのアクセスが便利なのもいいですね。

ショッピングセンター イメージ

館長:
呉駅と当館の真ん中にショッピングセンターがあるのがいいでしょう。当館と合わせて開発したのですよ。それまでこのあたりには何もなく、ミュージアムをつくるにあたって単独で建ててもしようがない、人が来たらやはりご飯を食べたり買い物をしたりするだろうということで、呉市が土地を確保して、ショッピングセンターを建てるという計画で業者を公募したのです。歩道橋が真ん中を突きつけているのがすごいですよね。歩道ですから実際は事故があったときの責任はどこにいくかなど面倒な問題がいっぱいあるはずなんです。しかし互いの担当の方が、頑張って真ん中に通すようにされたのですね。そのおかげでお客様も便利だし、私たちも本当に良かったと思っています。

またショッピングセンターの上部はすべて駐車場になっていて、収容台数は1500台ぐらいあると思います。私は最初、「広島から40、50分かかる単線の駅に人を呼ぶのですか」と言ったのですが、今のお客様はほとんどが車で来られますので駐車場がどのぐらいきちんとフォローできるかが大事なんです。当館の敷地はもともと小さくて、駐車スペースはあまりとれなかったので、そういう意味でも向かい側にそういう施設をセットでつくったわけです。ショッピングセンターで1000円以上買い物すると駐車場が3時間無料になりますからお客様にとってはメリットがありますよね。それに駅から歩道橋を歩いているとどこにも行かせないで大和ミュージアムに来てしまう(笑)。

歩道橋イメージ

井上:
確かにほとんど降り口はありませんでした(笑)。

館長:
そのように当館だけの単独の話でなくて町全体の設計として相互利益のある形が取れたのが良かったと思いますね。時間が長くかかったということがそういう所で良い結果を生んだ面もあります。

井上:
そこまできちんと考えてつくられたミュージアムはほとんど聞いたことがありません。

館長:
他のミュージアムの場合は、先に建てる場所があり、すでに周囲が固まってしまっていてミュージアム以外に手がつけようがないというのが現実です。当館の場合は、駅からミュージアム側がほとんど更地だったという環境の中でつくることができたのが良かったのだと思います。

 

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