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せとうち美術館紀行 第13回 大原美術館

幅広い作品群を収集し、成長を続ける、日本初の私立の西洋近代美術館

第1回大原美術館に関しての対談2

アーティスト支援や子どもの教育プログラムを積極的に推進

鬼本イメージ

赤木:
作品収蔵の方針について新しいものをどんどん取り入れているとおっしゃっていましたが、その方面で特色ある活動や方針についてお話しいただけますか。

鬼本:
ひとつは今のアーティストさんたちを支援するという形で、「ARKO (Artist in Residence Kurashiki, Ohara)」というプログラムを実施しています。元・児島虎次郎のアトリエを使って作品制作をし、最終的にできた作品を展示するという制作から公開までサポートするプログラムです。2010年は浅見貴子さんという作家が制作されました。新旧の融合ではないのですが、有隣荘で現代美術の展覧会も行っています。今あるものを使いながら新しい人たちを支援しています。

赤木:
どのくらい前から行っているのですか。

鬼本:
2005年からです。

赤木:
有隣荘での現代美術の展示というのは?

鬼本:
もう少し前で2003年からです。

赤木:
ここ10年の間にいろいろなことを新たに立ち上げているということですね。

鬼本:
年々いろいろ増えています。

赤木:
「人が集まり、情報を受・発信する博物館」という点についてもお聞かせください。

副館長イメージ

副館長:
もともと大原孫三郎、児島虎次郎というコンビで創業されたわけですが、戦後、大原總一郎が総合美術館へと幅広いものにしていきました。展示室も分館、東洋館などは總一郎時代に広げ、「大原ルネッサンス」として新しく変えていった経緯があります。

そして2002年に今の館長・高階秀爾が就任し、そのあたりから「第三創業」ということで将来を見据えた形で展開を広げていっています。鑑賞者に対してミッションを発信していこう、アートとアーティストに対して新しい創造活動の支援をしていこうというスタンスで、現存する作家を招いて作品を制作してもらい、展示し、その中で優れた作品を収集していくことを行っています。その一環が、「ARKO」です。

また 「AM倉敷(Artist Meets Kurashiki)」事業として、滞在の難しいアーティストさんが倉敷に来て、感じて、自分のアトリエで倉敷をイメージしながら作品を作っていただく、あるいは絵画に限らず、インスタレーションなどの活動をしているアーティストさんをお招きして、その期間だけ特別な展示を行うという活動にも力を入れています。

また、あらゆる鑑賞者に美術を見ていただこう、なかでも子どもたちに対して文化にかかわる場をどんどん提供していこうと考え、専門スタッフを備えました。倉敷という場をもっと盛り上げていこう、倉敷から日本全体へ発信し、その次は日本から世界へ発信していこうというミッションを再確認し、特に重要な事業として、子どもたちへの教育普及活動を行っています 。

赤木:
具体的にはどんな活動なのでしょうか。

鬼本:
実は總一郎時代から、ギャラリーコンサートとして作品を見ながら音楽を聴いたり、美術講座・レクチャーとして講師の先生を呼んだり、教育的な活動を行っています。びっくりすることにこの2つのプログラムは今も続いているんですよ。

赤木イメージ

赤木:
私の母が、高校を卒業したばかりのときに大原美術館のギャラリーコンサートを聴いたと話していました。

鬼本:
長年のファンの方がいらっしゃいます。近年は大人だけでなく、未来の鑑賞者であり、将来の美術家を担う子どもたちに何かできないかといろいろなプログラムを行っています。

一番古いのが「未就学児童対象プログラム」です。年間25の幼稚園・保育園が参加し、1つの園が1年間を通して1回でなく、3回から多いところだと7回来ることもあります。春・秋・冬など継続してきています。

1993年から始めた事業で、もともとは隣にある「若竹の園」(孫三郎の奥さんが園長をしていた)と一緒に何かできないかということがきっかけでした。複数回来るので成長に合わせ、最初はぐるっと美術館を見るだけ、次は作品を見ながら作品のパズルをする、最終的には作品の模写までやってしまう、というプログラムになっています。

今年で9回目になる「チルドレンズ・アート・ミュージアム」も行っています。いろいろな世代の人たちに楽しんでもらいたいと、他の美術館でも夏によく行われている展覧会に即したワークショップというだけにとどまらず、夏休みの2日間、美術館のあちこちで同時多発的にワークショップを行うお祭りみたいな活動になっています。参加している人だけでなく、参加してない人にも「何をやっているのかな?」と思っていただく目論見があります。

実は私は3年前に別の美術館の人間として「チルドレンズ・アート・ミュージアム」を見たのですが、客観的に面白いなと思いました。毎年やっているので試行錯誤しながらプログラムを入れ替えるなどして続けています。美術館から離れない、美術館の作品から離れないことを基本的な目的としてやっています 。

赤木:
大原美術館だからこそできるというこだわりを感じます。

鬼本:
そうでなければここでやる意味がありませんので。最終的には、子どもたちが次は自分で来る、美術館という壁を取っ払って自分自身の目で作品を見るというふうになってほしいと思っています。親子でも楽しめるので家族の絆も深められるのではないでしょうか。

 

学校単位での受け入れも実施

副館長:
「チルドレンズ・アート・ミュージアム」の話をしましたが、年1回の夏祭りに限らずいろいろとやっていきたい、学校単位で来ていただきたいと「学校まるごと美術館」も行っています。案内書も作っているので、言っていただければいつでもお送りします。すでにいくつかの学校に来ていただいています。

赤木:
ホームページでも案内されていますね。

対談イメージ

副館長:
周辺の学校が来られているのですが、近い学校は10年ぐらい継続して来られています。休館日の月曜日に年1回、1年生から6年生までの全学年、全校生徒が美術館に来て、学年ごとのプログラムを行っています。すでにかなりの年数やっていますので小学校を卒業したら最低6回は美術館に足を運んでいる、未就学で来ているものを含めると、中学生になったときに10回近く来ていることになります。

鬼本:
子どもにも楽しめる美術館として1996年から行っています。倉敷市内の学校に限っているわけではないですが、先生方にも事前に研修に来ていただき、熱心な先生だと冬開催の場合でも夏休みくらいから準備を始められており、そこまでしていただかないとお互いなかなかできないということで、今のところは2校が実施しています。

赤木:
その場合、学校の先生とプログラムの内容について協議や検討をされるのですか。美術館側から提案もされるのですか。

鬼本:
「美術館に行こう」という学校からの希望ですので、まず学校から「こういうことがしたい」という要望があります。それで「こういう形ならできます」「それはできない」という話になります。こちらから提案するのではなく、学校の先生からの希望があってこそやりたい、という思いがあります。

赤木:
それは大事なことですね。学校側からどうして美術館に行きたいのかという気持ちをもって来てくれることがすごく大切だと思います。そのあたりを私も教員になる学生にちゃんと伝えなければと思います。

 

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