HOME > せとうち美術館紀行 > 第13回 大原美術館

せとうち美術館紀行 第13回 大原美術館

幅広い作品群を収集し、成長を続ける、日本初の私立の西洋近代美術館

第1回大原美術館に関しての対談3

少人数のワークショップや、他施設とのコラボレーションも新たに開催

鬼本:
もっと少人数でじっくり深めたいという思いから、去年からは少人数のワークショップも増やしています。そのひとつが「美術館探検」です。美術館のバックヤードを見て、美術館のしくみを知ってから作品鑑賞をするものです。

また「色を見る・色を作る」として、絵画の色、例えばエル・グレコは天然顔料で絵を描いているのですけど、それが土や植物なんだよという話をして、土から絵具を作ることもやりました。先ほどの話に出た「倉敷建物探訪」のように、作品だけでなく建物を見てもらうものもあります。

工芸館館内 イメージ

さらに本館は見るけれど工芸館は見ないということもあり、それはすごくもったいないので、工芸館を強制的に見せようと、「倉敷の器を知る~見て・触って・使って・楽しもう!」を開催しました。小学生とその保護者に来てもらい、工芸館の作品を見て日常のお茶碗に使えそうなものを選んで自慢をしてもらいました。実はそういう器は町の中にもあるということで、工芸館から飛び出して町の中の器屋さんへ行き、最終的には倉敷で作られている酒津焼などでお茶を飲むというものです。

あと、美術だけでなく、他の視点から作品を見てみようと、倉敷市立自然史博物館とのコラボレーションで植物観察をした後に植物を描いている作品を見に行きました。これでわかったことがあります。モネは植物学的には正しくないスイレンを描いていて、ピカソは植物学的に非常に正しい花を描いているということ。世の中の常識がひっくり返るようなことを植物学の視点から知ることができました 。

赤木:
見たらわかるということではないわけですね。

鬼本:
ピカソの絵は5枚花弁があり、真ん中があって、螺旋状に葉っぱがついていて花の構造をちゃんと押さえて正しく描いています。でも、モネの絵はボヤボヤしていて特徴がわかりません。そうおっしゃっていました。

赤木:
そういう見方もあるのですね。

鬼本:
そんなふうに美術と離れた人たちと一緒にやると、新たな視点が生まれてきます。

 

大学生と高校生がジュニア・アテンダントとして活躍

対談 イメージ

鬼本:
幼稚園ばかりでなく、大学生や高校生にも来てほしいと、当館ではジュニア・アテンダントと呼んでいますが、学生ボランティアを募集して、美術館探検のナビゲーターをやってもらいました。「学校まるごと美術館」などを体験した人たちの中からジュニア・アテンダントに応募してきたケースもあるんですよ。最終的には自分たちでワークショップを考え、企画して実施するまでを今年3月にやったばかりです。またやる予定ですが、大変でした(笑)。

赤木:
どのように大変だったのかお聞かせください。

鬼本:
学生さんたちはそれぞれ違う大学から来ていて、コミュニケーションをとるところから大変でした。シーンとして、本当は何をしたいと思っているんだろうという感じで。なかには「先生に言われて来ました」という学生さんもいました(笑)。そういうこともあり、最初は27人いたのが最終的には半分に減りました。一番すごかったのは、最後には高校生の女の子が仕切っているという不思議な状況になったこと。彼女は受験もあったのですが最後までやり通し、筑波大学に進学しました。

赤木:
この活動が評価されたのでしょうか。

鬼本:
そうだと嬉しいのですけれど。

赤木:
そういう時代が来ていますよ。そういうことができる高校生にぜひ入学してほしいです!

鬼本:
岡山大学の学生さんも最後は頑張ってくれていましたよ。

学生のみなさんには2つのワークショップをしてもらいました。その2つというのは、グループに分けて企画を練ってきてもらい、コンペでプレゼンし、投票して残ったもので、「名画の続きを考えよう」と「アートビンゴ」です。前者は、作品の図版の一部だけをワークショップの参加者に見せ、全体像を想像して描いてもらうというものです。

参加者はみんな同じかけらを持っているのですが、違う絵ができて、実物を見にいったらもっと違っていたと。これはわりと簡単で、必要なのは当日のファシリテーション能力、声がけや、実物を見に行ったときにいかにディスカッションをうまく誘導できるかということです。学生さんはやはり若いですね。あっという間に成長して、びっくりするくらいうまくやるんですよ。「自分に責任がある」と思うと、すごく頑張ってくれて将来が楽しみです。

「アートビンゴ」はビンゴゲームの通り、数を引いたらカードに穴を開けられるといったものです。ただしその数にクイズがついていて、作品を見ないと解けない、解けないと穴が開けられないようになっています。このクイズを考えるのが大変で、意外に学生さんは、特に大学生は頭がかたい感じでしたね。とはいえ、みんなでワアワアと楽しく、48題ほど作ってくれました。

赤木:
アートビンゴは常設でできそうですね。

鬼本:
ええ、繰り返しできるような形を作ってくれたのでできれば残していきたいと考えています。自分たちで箱をつくり、ピンポン玉に数字をかいて、最終的に「ビンゴマスター」というキャラクターが出題するという小芝居までして、「よくやるな」と思って見ていました。「さっきまでビンゴマスターがいたのに…?」「あっ、手紙が置いてある!」なんて演じていました。小学生からのアンケートで「演技の勉強をもう少ししてください」と書かれていました(笑)。

 

前のページへ 次のページへ