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情報誌「瀬戸マーレ」

砥部 アートに触れる家族旅行

古くて新しい焼き物の里へ

愛媛県松山市から車で30分、砥部町は230年も続く焼き物の里だ。
ぽってりとした厚みのある砥部焼の器は、白磁に藍の染付けが印象的で、日常使いに最適。
古来より陶磁器の製造が営まれ、今も町中に焼き物が溶け込む砥部町では、
代々続く伝統と併存して、現代的センスの新しい若手の活躍も期待されている。
陶芸体験もできる焼き物の里で、新しいものと古いもの、両面にふれる旅を満喫しよう。

砥部の町でアート散策

秋のある日、料理をしながらふと手を止めた。毎日使う食器がいつも同じ。主婦としては、使いやすさと収納のよさを優先にしがちだけれど、変わりない日常で、ちょっと食器の冒険をしてみてもいいかもしれない。

以前から気になっていた砥部の町へ、器探しに出かけよう。1泊2日の家族旅行で、子どもたちにも、いつもと違う風景を見せてあげたい。

そうして訪れた、この砥部町。国道沿いの砥部町役場を過ぎ、西へ折れると、そこは砥部焼の里だ。

町の通りのあちこちで、個性的な陶磁器のオブジェを見かける。台座が砥石で、色々な窯元オリジナルのモダンなアート作品。いたるところに陶板の壁画もあって、焼き物の里に来た、という実感が湧いてきた。

そんな陶芸作品を指差して歩きながら、道はいつしかゆるやかな上り坂へと続いていた。小高い丘の上に到着し、町を見下ろす。眼下に広がるのは、山に囲まれたのどかな風景だ。さわやかな秋の風が吹いてきて、とてもいい気分。窯元だろうか、レンガ色の煙突も点在している。さあ、どこから入ってみようか。

アート散策
 

老舗窯元「梅山窯」で伝統に触れる

まずは、老舗窯元の「梅山窯」を訪れた。明治15年に開窯し、100年余りの伝統の技が今も受け継がれる、砥部焼で最も大きい窯元だ。

ここには、昔使われていた「大登窯」が残っていて、見学もできる。

洞窟のようにも見える入り口に5歳の息子は初め足が進まなかったけれど、「うわぁ、すごい!」と驚いてみせると、中に入ってきた。夫や1歳の娘と共に、好奇心いっぱいになって見渡している。

ここ梅山窯では、唐草や太陽、菊の花など、自然をモチーフにした、砥部焼を代表する絵柄の器が並んでいる。

今ある砥部焼の技法が確立されたのは戦後になってから。民芸運動の指導者、柳宗悦や浜田庄司が訪れたのち、人間国宝の富本憲吉や藤本能道などのアドバイスもあったそうだ。

工房では、黙々と手を動かす職人さんたちの姿を見学できる。型抜きや削り出しなど、鮮やかな手つきは見ていて飽きない。大量の器が並ぶ様にも圧倒される。ろくろから本焼きまで全て手作業というからすごい。

隣接の販売店で、大皿やカップを手に取ってみる。厚手の器に、洗練されたシンプルなデザイン。安心して使える感じがする。この信頼感が、伝統の良さなのかも、という思いが湧いてきた。

大登窯
大登窯。坂道に沿って6基が並び、一番下で火を焚くと、炎が上がっていく仕組み

全てが手作業
全てが手作業。女性の陶工が絵付けを手掛けていた
梅山窯(株)梅野精陶所

砥部焼の販売のほか、ろくろや型どり、絵付けなどの製造工程を見学できる。
販売店の横には梅山古陶資料館も隣接。絵付け体験もあり。


住所/愛媛県伊予郡砥部町大南1441
TEL/089(962)2311
営業時間/午前8時5分~午後4時50分
休み/月曜、他あり
URL/http://www.tobeyaki.org/kamamoto/001.htm

登窯が使用されていた明治~昭和の古陶も並ぶ、登窯の中
登窯が使用されていた明治~昭和の古陶も並ぶ、登窯の中
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陶芸にチャレンジ!技を追及

砥部焼観光センター「炎の里」では、
絵付けやろくろなどの陶芸体験コーナーがある。
創作意欲が湧いてきたら、気軽に体験してみよう。
オリジナルの器を作って、楽しい時間を過ごした後は、
砥部焼の器で料理を味わいたい。

初めての絵筆に興奮する

次に向かったのは、砥部焼観光センター「炎の里」。展示販売のほか、製造工程の見学ができ、ろくろを回したり染め付けをしている職人さんたちと言葉を交わすことができた。

砥部焼の一筆描きの技法は「付け立て」というのだそう。「手描きのいい点は、一つ一つ味が異なるところ。だから、店に来て器を手にとってもらうのがベスト」と教えてくれた。自分に合うもの、好きと思えるものが肌で感じられるということだろう。さらに、「毎日の仕事が伝統につながると思います。仕事のほかに、個人の作品を創作していて、ここで働くほとんどの人が作っていますよ」。

そんな話や懸命に働く姿に、私も何か作ってみたくなる。2階に体験コーナーがあると聞き、早速、絵付けに挑戦することにした。

すると、息子も「やる!」と言い出した。「ママとパパの顔を描いてあげるよ」と口にするものの、彼が絵筆を持つのは初めてのこと。少し心配だったが、夫と娘に見守られて、色選びも大胆に筆を使い始める。へえ、頑張るじゃない、と嬉しくなる。

そう、ここはクリエイターの町なのだ。見たばかりの職人さんの手つきを思い出しつつ、私も筆を走らせながら、あらためて感じ入った。

(写真左)ろくろを回す手つきも鮮やかな、梶原英佑さん(写真右)一気に描く「付け立て」の技法は、筆を使って一つ一つ手描きされている
(写真左)ろくろを回す手つきも鮮やかな、梶原英佑さん。型抜き、手びねりなどの技法もある
(写真右)一気に描く「付け立て」の技法は、筆を使って一つ一つ手描きされている

気分は陶芸家に
気分は陶芸家に。絵付け体験は30分くらい。料金は315円~で、器によって異なる。
このほか、ろくろ体験(要予約)もあり
炎の里(砥部焼観光センター)

100はある砥部の窯元のうち、「炎の里」には80もの窯元の作品が展示販売されている。販売点数は7,000~8,000と、多彩な器ショッピングが楽しめる。別棟に、千山窯、登窯もあり。


住所/愛媛県伊予郡砥部町千足359
TEL/089(962)2070
営業時間/午前8時30分~午後6時
休み/なし(12/31のみ)
URL/http://www.tobeyaki.co.jp

炎の里(砥部焼観光センター)
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料理を生かす器の美

砥部焼の器で料理を愛でる

お腹がすいてきたので、創作料理の「Jutaro」へ向かう。砥部焼の器で料理やお茶を楽しめると聞いて、ぜひ立ち寄りたいと思っていた店だ。店内は、木目調の床とテーブルが心地よい、おしゃれなカフェの雰囲気。窓際の席に座り、息子たちがおやつをねだるなか、まずはランチを注文する。メインは3種の中から、ご飯は2種から選べるようだ。

私たちがいただいたのは、白身魚のあんかけに、瀬戸内海のヒジキご飯。味噌汁は、ほんのりと甘い麦味噌で懐かしい気分にさせてくれる。

さきほど目にした柄や形の砥部焼を、新鮮な思いで眺める。形の異なる、小ぶりの器を幾つも用いたり、手持ちのお盆に並べたりと、自宅でも応用できそうだ。食後には、お待ちかねのデザート、「愛媛産レモンのチーズケーキ」を追加オーダーした。レモンの香りが口の中でさわやかに広がる。器はもちろん砥部焼だ。コーヒーの味と香りに、夫も満足気な様子。

その後は、再び「炎の里」の展示販売店へ戻り、購入する器をあれこれ見てまわる。今宵の宿、松山へ向かう道中も、すやすやと眠る子どもたちの寝顔を見守りながら、やっぱりあの器も買おうか、なんて思いを巡らせていた。

地元の食材を用いたメニューが人気のランチ1,380円
地元の食材を用いたメニューが人気のランチ1,380円。
松花堂弁当をベースに考案され、器とのバランスもよい
Jutaro(ジュタロー)

炎の里を出て左手に見える建物がJutaro。


住所/愛媛県伊予郡砥部町千足359「炎の里」敷地内
TEL/089(960)7338
営業時間/午前11時~午後8時LO
休み/第3木曜
URL/http://www.just.st/?in=309536
※デザートの種類は季節による

ランチにプラス200円で「愛媛県産レモンチーズケーキ」をいただけるJutaro(ジュタロー)
ランチにプラス200円で「愛媛県産レモンチーズケーキ」をいただける。Jutaroは、前身がフルーツ屋ということもあり、果物を用いたデザートの味も評判
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新進気鋭の砥部アート

若手作家の工房やギャラリーが立ち並ぶ、陶里ヶ丘。
代々続く窯元だけでなく、県内はもとより県外出身の作家も活躍している。
斬新なデザインや色、形など、新しい風を受け入れているのも、砥部の魅力だ。

個性が光るクリエイティブな集落

翌日、心新たに出向いたのは、若手作家が多く住む「陶里ヶ丘」だ。

セレクトショップの「トークギャラリー紫音」に入ってみた。若手や女性作家の器を扱い、砥部焼のカフェスペースもある。

個性的な器はどれも魅力的で悩んでしまう。お店の人に選び方について聞くと、季節感を意識するのも一つの方法だとか。秋らしいデザインを見比べてみる。

気に入ったものを何点か選んでから、周辺を散策。と、車に荷物を運んでいる一人の女性に出会った。陶芸家さんだろうか。話しかけてみたら、杉浦綾さんという作家さん。話がはずんで、工房にお邪魔させてもらうことになった。

スギウラ工房の杉浦綾さんは、ご主人の杉浦史典さんと共に陶芸家で、県外から移り住んで11年という。東京の美大を卒業後、陶芸の道に入り、愛知県で瀬戸焼を学んだ。そのとき、砥部では焼き物を作って生活している人が多くいると知り、ここに飛び込んできたそうだ。

それまで学んだ手法とは異なる砥部焼の世界で、周囲の人々に助けられてここまできたのだと笑顔で話してくれた。砥部という懐の深い土地で、ものづくりをしながら生活できることに喜びを感じているという。

ご夫婦で作風も異なり、それぞれの感性で作品を作るお二人の姿に、私も器の使い方をもっと楽しみたいと思った。

杉浦史典さん綾さんご夫妻
杉浦史典さん綾さんご夫妻。作品作りの秘訣を聞くと、史典さんは「陶芸以外のこと、音楽や美術、経済にも触れて、そこからエネルギーをもらいます」。綾さんは「普段の食事で、器に気を配ることかな。コーディネートをして、どんな雑多の日も、それでリセットするような」とのこと。作品は、砥部焼観光センター「炎の里」にて販売

ユニークな表情が印象的な、史典さんの陶人形「風神」
ユニークな表情が印象的な、史典さんの陶人形「風神」。このほか、史典さんの作る器は、真っ白でストイックな作風が特徴
トークギャラリー紫音(しおん)

住所/愛媛県伊予郡砥部町五本松885-13
TEL/089(962)7674
営業時間/午前10時~午後6時
休み/火曜、第3水曜
URL/http://www.gallery-shion.com

濃い藍色のカトレアが印象的(写真左)濃い藍色のカトレアが印象的(写真右)店内
(写真左)濃い藍色のカトレアが印象的。和紙染めで描かれている(写真右)店内
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砥部のアイドルに会いに行く

行動展示型の動物園

砥部のもう一つの目玉、それは「とべ動物園」だ。早起きした息子は、「エサをあげるんだ!」と大はりきり。

広々とした園内には、行動展示型の獣舎がある。人気のホッキョクグマ、ピースの表情を、強化ガラス越しに見ることができた。愛らしいレッサーパンダが、しなやかに動き回る様子も間近で観察。息子は何度も販売機の前に立っては、エサを手にして動物たちに駆け寄っていた。娘も、絵本でしか知らなかった動物を間近に見て、嬉しそう。

そんな子どもたちの姿を目にして思う。心から楽しい時間を持つこと、好奇心を持って新しい体験をすること。それが感性を育ててくれるのかもしれない、と。

インドゾウにエサを見せると、鼻を大きく振り上げる賢さと人懐っこさに感動
インドゾウにエサを見せると、鼻を大きく振り上げる賢さと人懐っこさに感動
とべ動物園

所在地/愛媛県伊予郡砥部町上原町240 TEL/089(962)6000
営業時間/午前9時~午後4時30分(入園時間) 休み/月曜(祝日の場合は翌日) 入園料/450円
URL/http://www.tobezoo.com

みどころ

●砥部焼陶芸館

焼き物の陶工たちが運営する、34の窯元による陶芸館で、販売を行うほか、見学に絵付けや手びねりの体験もできる。


住所/愛媛県伊予郡砥部町宮内83
TEL/089(962)3900
営業時間/午前8時30分~午後5時
休み/元日
URL/http://www.togeikan.com

砥部焼陶芸館
●道後温泉 本館

夏目漱石の「坊っちゃん」で有名な道後温泉。日本書紀にも登場して、日本最古とうたわれている。明治27年に建築された堂々たる本館は、国の重要文化財で、三層楼の造りが情緒深い。本館上の振鷺閣(しんろかく)には、伝説の白鷺が据えられ、毎朝6時に開館を告げる、太鼓の音も風流。浴場は2種類あり、1階から3階それぞれ、浴衣やタオルの貸し出しから、休憩場所や茶菓サービスなど、利用形態によって料金が変わる。


住所/愛媛県松山市道後湯之町5-6
TEL/089(921)5141
営業時間/2・3階=午前6時~午後10時(札止2階は9時、3階は8時40分)、
階下=~午後11時(札止10時30分)
※利用時間は、3階は1時間20分、他は1時間以内
休み/12月に1日
料金/大人400円~、子供150円~
URL/http://www.city.matsuyama.ehime.jp/kanko/kankoguide/kankomeisho/dogoonsen/honkan/index.html

道後温泉 本館
●砥部焼伝統産業会館

古陶から現代作品まで展示。また、「砥部の里めぐり 陶街道五十三次」とネーミングして、名所旧跡を選定し、スタンプラリーを行っている。愛媛県外客は、5ポイント以上で「陶板メダル」をもらえる。スタンプ台は、当館の受付まで。


住所/愛媛県伊予郡砥部町大南335
TEL/089(962)6600
営業時間/午前9時~午後5時
休み/なし
料金/入館料大人300円、高・大学生200円、小・中学生100円


砥部焼伝統産業会館
●えひめこどもの城

遊びや自然の体験のための大型児童館。
「こどものまち」「イベント広場」「冒険の丘」「創造の丘」「ふれあいの森」など一日楽しめる施設で、各種イベントやレストランもあり。

住所/愛媛県松山市西野町乙108-1
TEL/089(963)3300
営業時間/午前9時~午後5時
休み/水曜
料金/入園料は無料。駐車場1回300円。遊具利用料金は、四輪バギー大人(高校生以上)500円、中学生200円、ボート500円ほか
URL/http://www.i-kodomo.jp


えひめこどもの城
●和風料理 砥部開花亭

瀬戸内の海の幸・山の幸を用いた郷土料理を中心に、会席、しゃぶしゃぶ、鍋など、和食を多彩に味わえる。器はほぼ砥部焼を用いて、座敷や個室もあり。
ランチは1,050円~で、種類も豊富。写真は、秋の味覚、芋炊きや釜飯を盛り込んだ「華の膳」(限定15食、2,625円)。

住所/愛媛県伊予郡砥部町拾町16-1
TEL/089(958)5551
営業時間/午前11時30分~午後10時(ランチは~午後2時)
休み/なし

和風料理 砥部開花亭
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