「つくり方はすごくシンプルなんです」と語るのは、磯野製麺の磯野社長。
名物の「いその麺」に入っているのは、小麦粉とかん水のみで、機械が新しくなったり衛生面が進化したりした以外は、創業した先代からの製法を忠実に守っているのだという。
「実は作業は簡単な行程です。だからこそ 丁寧
を大切にしています」。こう語る磯野社長は、1年通して湿度や気温を見ながら、麺の変化に気を使うと話す。麺を卸した後も必ずお店には麺の茹で時間などを聞き、常につくった麺がお好み焼き屋のスタイルに合わせられているか気を配っているそうだ。
磯野製麺では、広島市にある1か所の工場のみで1日に約1万食を製造している。その麺は北海道から沖縄まで全国450以上の店舗で使われ、好評を博している。ここまで人気が広がった理由を尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「営業努力もありますが、一番は有名店と呼ばれるところに麺を卸していたことです。有名店ならば修行させてほしいという方も多くいらっしゃいますよね。
その方々が修行を終えて地元に戻ってお店を開くとき、師匠の店と同じ素材を使いたいと言うケースが少なくないんです。そういう広がりが一因だと思いますね。
うちの麺を選ばれた方が、また違う地方で流行らせて、そこからもまたどんどん波及していく。そういう流れがあるような気がします。そこは、お好み焼き用の麺に特化してやってきたのも理由にあると思います」。
磯野製麺の歴史は古く、戦後の復興期に端を発する。「戦後、広島では小麦粉を水で溶いて薄く焼き、ネギや削り節を載せて食べる『一銭洋食』とよばれるものが流行し、屋台で売られるようになっていました。
そこに出入りしていた先代が、『そばをつくらないか』と頼まれたことがきっかけで、昭和37年に磯野製麺が創業しました。
当時は屋台用の中華そばとしてつくっていましたが、徐々に屋台から独立したお好み焼き店が開かれるようになり、そのための麺をつくるようになっていったんです。
広島のお好み焼きの専用麺というような呼ばれ方をするようになったのは昭和51年くらいとのことです」。
その長い歩みの中で、お店に合わせた麺づくりなどはあったのだろうか。
「基本は四角い麺をつくっているんですが、『丸くしてくれないか』などちょっとしたオーダーはありました。ただ、『素材にこれを入れてくれ』というような注文は受けたことがありません。
やはり、うちの麺だから使いたいというお客さんに支えられているんでしょうね」。
創業当時から守り続けられる味に惚れたお好み焼き屋さんが、きっと数多くあるのでしょうねと聞くと、磯野社長は笑いながらこう答えた。
「自分はずっとこの麺を食べてきたから何も思わなかったけど、他の麺を食べて、ああ、うちにしかない味があるじゃないかって気付きました」。
磯野社長は、広島の「お好み焼き」とそれに関連する食文化の調査研究を通じ、「お好み焼き」を広く世界に普及させることに寄与することを目的に設立された『(一財)お好み焼アカデミー』の理事も務めている。
今後の展望を聞くと、「今まではあまりなかったお好み焼き店舗間の交流を増やしていき、情報交換を促進したいと考えています。
そうした動きにより、お好み焼き業界がさらに盛り上がっていけばうれしいですね」と語る。
磯野製麺のお好み焼き専用麺がこれほどまでに多くの人を魅了するのは、つくり方はシンプルでありながらも、こだわりの詰まった麺をつくり続けてきた結果なのだろう。磯野社長の話を聞いていると、もう1枚食べて帰りたくなった。
住所/広島市東区東蟹屋町18-15
TEL/082-298-5586
住所/広島市東区東蟹屋町18-15 2F
TEL/082-298-8903
営業時間/11:00~15:00 / 17:00~21:00
定休日/毎週月曜日,第二火曜日,第四火曜日
駐車場/有り(4台)