西日本最高峰の石鎚山と瀬戸内海にはさまれた西条のまちには、〝うちぬき〟と呼ばれる井戸が2000ヵ所もある。うちぬきの水が出る地区では、今でも上水道を使わず井戸水を飲用していて、うちぬき師という地下水の水脈や深度を熟知した職人も昔からいるのだという。
うちぬきの水は、西条のまちの背後に広がる広大な石鎚連峰から流れ出た伏流水である。まちの地下には豊富な水がいつも蓄えられていて、自然の圧力で地上に湧き出てくる。
地面にパイプを打ち込むと一気に噴き出してくるというから、すごい。打ち込む深さは10数mから、場所により20m30mと異なるようだが、周囲の地形や地層など自然の条件がいくつも重なって、この奇跡のようなすばらしい現象が現れたのだ。
勢いよく湧き出る泉のひとつで、うちぬきの水を口に含んでみた。ひんやりとして少し甘い。こんな美味しい水が毎日飲めるなんて、水道水しか使えない土地から来た者にとっては、実にうらやましい限りだ。

うちぬきの井戸は、水の噴き出し口を手でふさいでも噴出が止まらない |

上喜多川地区の農家が共同でつくった、うちぬきの水の野菜洗い場。収穫した野菜はここで泥を落とす。夏も冷たい水で洗えるので、野菜の新鮮さをそこなわないという。こんなきれいな水で洗った野菜なら、美味しいに決まっている |

「うちぬき名水めぐり」のツアーに参加した。コースは市街を一巡する約6.5㎞の行程で、ボランティアガイドと一緒にうちぬきの井戸を見て歩く。
この日、ガイドをしてくれたのは〝西条水めぐり案内人〟の寺川さんだ。手にした小さな柄杓で水をすくいながら、うちぬきの歴史や井戸の話をしてくれる。先頭を歩きながらの案内も、柄杓で方向指示というのが楽しい。最初の見学ポイントは、西条市総合文化会館横の水飲み場。ここは、市外からも車で水を汲みに来る人が多い。この付近から大量に湧き出るうちぬきの水が、水路となって市街を縦断しているのだ。
水路に沿って歩くと、大きな鯉やフナが悠々と泳ぎ、サギが水辺に下りているのも見えた。水があまりにもきれいで、手に触れると冷たく柔らかい。西条藩陣屋跡のお堀端には由緒ある大手門や、郷土博物館、白壁の土蔵造りの交番もあり、うちぬきの水路とまちの歴史がとけ合った景観に心が癒される。うちぬきの水は農業用水や野菜洗いから、家庭の生活用水にも使われているそうだ。さすがは水の都・西条。水を上手に活かし、大事に使ってきた西条の人たちの思いを感じた。
ボランティアガイドの寺川さん
徳川親藩3万石の城下町。大手門を入ると、現在は
西条高校が建っている。5月上旬頃にはお堀端のつ
つじが一斉に咲き揃う
駅のホームにも、うちぬきの水が。
こんな所にも、美味しい地下水が
湧いていることに、驚く
海の中なのに
真水が噴き出し
ている
春から初夏は、うちぬきの水で
育った西条の伝統野菜「絹かわなす」
が美味しい時期だ。生鮮野菜の搾り
たてフレッシュジュースも人気
地下水の温度計が付いていた。年間ほぼ一
定しているが、夏冬には多少上下する。
ここも、水汲みに来る人が多い
「ガイドと歩く西条うちぬき名水めぐり」
実施日/毎週土・日曜日(原則)、所要時間/9:30出発、約2時間
利用人数/1組につき2~5人まで
料金/1人1,000円(軽食・ガイド料込)
集合場所/西条市観光交流センター(JR伊予西条駅東隣)
要予約/2日前の正午までに、西条市観光協会(Tel/0897-56-2605)に電話予約(受付時間/平日・土日9:00~18:00)