ホーム > 瀬戸マーレ vol.20 > せトラベル 美味しい地下水が噴き出す、〝うちぬき〟を見て歩こう
情報誌「瀬戸マーレ」
もっと写真を見る

せトラベル 美味しい地下水が噴き出す、〝うちぬき〟を見て歩こう

自噴する井戸を見て、水の都・西条を実感する

きれいな地下水が自慢のまちというのは全国各地にあるが、汲み上げなくても地下から美味しい水がどんどん湧いて出るまち、というのはめったにない。
それが、ここ愛媛県東部の西条市である。地面にパイプを打ち込むと、自然に地下水が噴き出してくるのだ。

いたる所にきれいな水が噴き出している

西日本最高峰の石鎚山と瀬戸内海にはさまれた西条のまちには、〝うちぬき〟と呼ばれる井戸が2000ヵ所もある。うちぬきの水が出る地区では、今でも上水道を使わず井戸水を飲用していて、うちぬき師という地下水の水脈や深度を熟知した職人も昔からいるのだという。

うちぬきの水は、西条のまちの背後に広がる広大な石鎚連峰から流れ出た伏流水である。まちの地下には豊富な水がいつも蓄えられていて、自然の圧力で地上に湧き出てくる。
地面にパイプを打ち込むと一気に噴き出してくるというから、すごい。打ち込む深さは10数mから、場所により20m30mと異なるようだが、周囲の地形や地層など自然の条件がいくつも重なって、この奇跡のようなすばらしい現象が現れたのだ。
勢いよく湧き出る泉のひとつで、うちぬきの水を口に含んでみた。ひんやりとして少し甘い。こんな美味しい水が毎日飲めるなんて、水道水しか使えない土地から来た者にとっては、実にうらやましい限りだ。

うちぬきの井戸は、水の噴き出し口を手でふさいでも噴出が止まらない
うちぬきの井戸は、水の噴き出し口を手でふさいでも噴出が止まらない
上喜多川地区の農家が共同でつくった、うちぬきの水の野菜洗い場。収穫した野菜はここで泥を落とす。夏も冷たい水で洗えるので、野菜の新鮮さをそこなわないという。こんなきれいな水で洗った野菜なら、美味しいに決まっている
上喜多川地区の農家が共同でつくった、うちぬきの水の野菜洗い場。収穫した野菜はここで泥を落とす。夏も冷たい水で洗えるので、野菜の新鮮さをそこなわないという。こんなきれいな水で洗った野菜なら、美味しいに決まっている

水めぐりツアーで〝うちぬきのまち〟を満喫!

「うちぬき名水めぐり」のツアーに参加した。コースは市街を一巡する約6.5㎞の行程で、ボランティアガイドと一緒にうちぬきの井戸を見て歩く。

この日、ガイドをしてくれたのは〝西条水めぐり案内人〟の寺川さんだ。手にした小さな柄杓で水をすくいながら、うちぬきの歴史や井戸の話をしてくれる。先頭を歩きながらの案内も、柄杓で方向指示というのが楽しい。最初の見学ポイントは、西条市総合文化会館横の水飲み場。ここは、市外からも車で水を汲みに来る人が多い。この付近から大量に湧き出るうちぬきの水が、水路となって市街を縦断しているのだ。

水路に沿って歩くと、大きな鯉やフナが悠々と泳ぎ、サギが水辺に下りているのも見えた。水があまりにもきれいで、手に触れると冷たく柔らかい。西条藩陣屋跡のお堀端には由緒ある大手門や、郷土博物館、白壁の土蔵造りの交番もあり、うちぬきの水路とまちの歴史がとけ合った景観に心が癒される。うちぬきの水は農業用水や野菜洗いから、家庭の生活用水にも使われているそうだ。さすがは水の都・西条。水を上手に活かし、大事に使ってきた西条の人たちの思いを感じた。

ボランティアガイドの寺川さん

徳川親藩3万石の城下町。大手門を入ると、現在は
西条高校が建っている。5月上旬頃にはお堀端のつ
つじが一斉に咲き揃う

駅のホームにも、うちぬきの水が。
こんな所にも、美味しい地下水が
湧いていることに、驚く

海の中なのに
真水が噴き出し
ている

春から初夏は、うちぬきの水で
育った西条の伝統野菜「絹かわなす」
が美味しい時期だ。生鮮野菜の搾り
たてフレッシュジュースも人気

地下水の温度計が付いていた。年間ほぼ一
定しているが、夏冬には多少上下する。
ここも、水汲みに来る人が多い

「ガイドと歩く西条うちぬき名水めぐり」
実施日/毎週土・日曜日(原則)、所要時間/9:30出発、約2時間
利用人数/1組につき2~5人まで
料金/1人1,000円(軽食・ガイド料込)
集合場所/西条市観光交流センター(JR伊予西条駅東隣)
要予約/2日前の正午までに、西条市観光協会(Tel/0897-56-2605)に電話予約(受付時間/平日・土日9:00~18:00)
TOPに戻る

名水ある所には、必ず美味しいものがあるのだ

水が良いまちには、旨いものが多い。名水が美味しい食材を育て、旨いものを嗅ぎ分けるグルメを育てるのだろうか。
初めて訪れた西条では、美味しいものを出してくれる店がたくさんあり、行く先々で、旨いものをつくることにこだわりを持つ人たちと出会った。

うちぬきの水で活かした鰻がうまい

国道11号沿いに鰻の美味しい店があると聞いて、「御料理処鈴吉」を訪ねた。名物のうな重を頼んで楽しみに待っていると、運ばれてきた重箱いっぱいに大きな蒲焼きがドーンとのっていた。箸で持ち上げると、ずっしりと肉厚だ。身は弾力があって、これくらいボリュームがあると久しぶりに、鰻を食べたぞっていう満足感がある。

ご主人の秋山さんは、季節の一品から定食や会席料理までこなす和食の料理人。だから、鰻も国内産にこだわっている。その鰻を、うちぬきの水を流しっぱなしにした生け簀で丸1日活かしておいてから使う。なるほど、美味しいうちぬきの水が、鰻をさらに旨くしていたのだ。

御料理処 鈴吉のうな重
御料理処 鈴吉
【DATA】
住所/愛媛県西条市楢木367-1 Tel/0897-57-9170 営業時間/11:00~14:00、16:30~22:00 定休/火曜日
ビュッフェスタイルのサラダバーは、1ドリンク付き
ビュッフェスタイルのサラダバーは、1ドリンク付き
奥さん、息子さんと、ご家族3人で切り盛り
奥さん、息子さんと、ご家族3人で切り盛り

名水のまちには美味しい蕎麦もある

しまなみ海道への帰り道、国道196号から北へ。少し路地を入った所に「蕎亭はる」はあった。お店は大きな屋敷をそのまま使っていて、玄関から入ると立派な床の間のある奥座敷に通された。障子越しの柔らかい日差しに、旧知の家を訪ねたような温もりで心がなごむ。さっそく、もり蕎麦を頼んだ。丁寧に打たれた蕎麦は少し緑がかっていて、手打ち特有の素朴な舌触りが心地よく、さわやかな食感だ。

蕎麦の味を決める大きな要素はもちろん粉と水だ。「うちぬきの水は蕎麦に合いますよ。水温も一定しているので使いやすいですね。ただ、真冬や真夏は汲み置きをして常温に戻して使っています」とご主人の稲井さん。東京で蕎麦の魅力にはまり、修行をして、実家でお店を始めたのだとか。蕎麦粉は常陸(茨城県)産。つなぎ粉の配分は、季節や蕎麦粉の状態を見ながら毎日調整しているという。うちぬきの水を使ったダシも関東の辛さを控えて、地元の好みに合わせている。やはり、水の美味しい土地の人は、味へのこだわりも相当なものだと実感した。

蕎亭はる の盛り蕎麦 障子越しの柔らかい日差しに、旧知の家を訪ねたような温もりで心がなごむ。
ご主人の稲井さん。 日替わりで手づくりの和菓子がつく
 日替わりで手づくりの和菓子が
 付く。この日は蕎麦まんじゅう
蕎亭はる
【DATA】
住所/愛媛県西条市大新田101-1 Tel/0898-64-2142 営業時間/11:30~18:00(売り切れ終い) 定休/木曜日

こんな楽しみも

お土産は鳴門の“天ぷら”

JR壬生川(にゅうがわ)駅近くの「ブランチコーヒー」は、美味しいコーヒーが飲めると評判のお店だ。ここでは、コーヒーを淹れるときにフレンチプレスというコーヒーメーカーを使い、挽いた豆を入れて湯を注ぐ。「フレンチプレスのフィルターは金網なので、豆のもつ成分を、油分も含めてすべて抽出できます。コーヒーの旨味は油分に含まれているんですよ」と言うのは、店主の越智さんだ。紙のフィルターでは、油分が吸い取られてしまうという。
越智さんは、味と香りにこだわって、みずから中南米にまで豆を買い付けに行き、現地で生産者の顔を見て、農園を見て、契約する。同じ国の豆でも、それぞれに味が違うらしい。「豆との出会いも、お客様との出会いも一期一会」。だから、ベストの状態でお出ししたいと、湯は一定の温度に保ち、抽出時間はきっちりとタイマーで計る。この日のおすすめは、グァテマラ産。あっさりとフルーティーな風味が印象的だった。西条の、こだわりの職人がここにもいた。


ブランチコーヒー
【DATA】
住所/愛媛県西条市周布426-2
Tel/0898-65-6646
カフェ:営業時間/11:00~17:00(土日祝は
19:00まで)
定休/水曜・金曜日
ショップ:営業時間/9:00~19:00
定休/水曜日

TOPに戻る