ホーム > 瀬戸マーレ vol.27 > おだやかな瀬戸内の冬に泊まってみたい しまなみ海道の宿

高松藩のお膝元で風雅な秋のお菓子めぐり

優しさに包まれたヴォーリズ建築の洋館

しまなみ海道の因島北ICから車で約5分。白滝山の中腹に、おしゃれな山荘が見えてきた。どこか南欧を思わせるこの洋館は、明治末に来日した米国人ヴォーリズ(*)が昭和初期に建築した建物で、瀬戸内で布教活動をしていた宣教師の住宅として建てられたもの。戦後、大手企業の所有となったが、建物の劣化がひどく荒れていたのを地元出身の矢田部さん一家が購入し、屋根を葺き替え、内装にも手を入れて再生。子供のころから馴染みのあった「島の洋館」を守るために、ペンションとして生き返らせたのだった。現在、矢田部さん夫妻とご両親、娘さんの家族全員でお客様をお迎えしている。

(*)ウィリアム・メレル・ヴォーリズ
明治38年、滋賀県近江八幡に英語教師として来日。キリスト教の伝道活動を支えるために、近江兄弟社やヴォーリズ建築事務所を設立するほか、教育・社会事業も行った。ヴォーリズが手がけた建築作品は、教会・学校・商業ビル・個人住宅など優に1千件を超え、全国各地に残っている。

オーナーの奥さんが素敵な笑顔で迎えてくれた
ヴォーリズ建築作品の中でも、実際に泊まることができるのはこの建物だけ。広島県近代化遺産、文化庁登録有形文化財に指定

玄関で到着を告げると、奥さんの伸美さんが大きな木のドアを開けて迎え入れてくれた。知り合いの家を訪ねたような気安い気分だ。1階の談話室には外国映画で見るような暖炉があり、大きな窓から穏やかな陽射しが注いでいる。寝室は2階に4室、ベッドは各室に2つ。洗面台の水栓や真鍮製のドアノブが歴史を感じさせ、木製の椅子や調度品がクラシックで端正な雰囲気を醸し出している。「高級ホテルのような設備はないけれど、古い建物の味わいを楽しんでもらえたら、うれしい」と、矢田部さん。ご夫妻と話していると、いつの間にか我が家にいるようにくつろいでいたことに気付く。
ご一家の家族総出のおもてなしに、心も体もリラックスすることができる宿である。

木製の階段は80年の時を経て黒光りしている。丸く擦り減った手すりは手触りも温かく心が和む
こじんまりとした寝室は、あくまでもシンプルで気持ちがいい
談話室で奥さんに、宣教師一家が16ミリフィルムで撮影した戦前の因島の記録映画を見せてもらった
地場産の食材を使った料理/ご主人はもともと日本料理の板前さんなので、地元の人たちには割烹料理店として利用されている。旅行者も予約をしておけば、昼食や会食に利用できる
【DATA】いんのしまペンション白滝山荘

住所/広島県尾道市因島重井町1233 TEL/0845(25)0068
料金/1泊2食付一人9,000円から/食事のみの利用も可(要予約2名から)。平日(月~土)の昼食2,000円から、休日及び夕食3,000円から(料金はすべて税別) IC/本州側から:因島北IC/四国側から:因島南IC

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瀬戸内の港町に百年の歴史を刻む豪商の別邸

生口島は江戸時代から塩業が盛んで、瀬戸田港は塩を広島・大阪方面に積み出す船が出入りして賑わった。ここに屋敷を構えていた、豪商・堀内家の別邸が現在の住之江旅館本館である。

建物は明治の初めに建て替えられているが、邸内の庭には江戸時代に広島藩の殿様が乗った駕籠を降ろしたという大きな敷石が今も残っている。2階の角部屋からは、ガラス障子越しに今は近代的な高速艇乗り場に変貌した瀬戸田港を間近に見ることができる。伝統的な和風建築の落ち着いた雰囲気に浸っていると、すぐそこの桟橋に千石船や小舟が停泊している風景が一瞬見えたような気がした。今は、このレトロな建物にむしろ新鮮な魅力を感じて宿泊する若者が増えているらしい。

女将さんの心づかいと行き届いたおもてなしも住之江旅館の魅力のひとつ
館内はゆったりとした風情がただよう
手入れされた松と大きな石灯籠がみごとな庭
製塩業で財を成した浜旦那たちが寄贈した常夜灯
いま、船着場に着くのは千石船ではなく高速連絡船だ。
海岸線には南国風の並木が続き、サイクリストがたびたび通り過ぎていく

この旅館の魅力は、実はほかにもある。瀬戸内の食材のみを厳選、使用した料理が味わえるのだ。東京・銀座に「瀬戸内料理」を銘打った割烹店を出店し、地元から食材を空輸している。だから、料理を楽しみにここに来る客も多い。

この日のために予約しておいた料理とご対面! 刺身は瀬戸内のアコウ(キジハタ)、黒アワビ、赤ウニなどで、どれもが外海とは違う瀬戸内ならではの、実に繊細な味わいだ。名産のタコは柔らかいが、しっかりとした歯ごたえ。穴子の皮目だけ炙った焼霜造りなど地場産の見事な素材が光る。和え物、煮物、骨蒸しなど老舗旅館ならではの確かな庖丁さばきで楽しませてもらった。連泊して港町の風情に浸るも良し、旬の美味を楽しむも良しという、とっておきの島の宿だ。

宿泊&グルメプラン(平日21,000円から)
前菜からデザートまで、舌で味わい目で楽しめるフルコース(写真の刺身は2〜3人前。料理の内容、食材は季節により異なる)
瀬戸内のワタリガニは甘くて美味
大ぶりのカキは白味噌仕立て
土鍋のタコ飯は薄味で上品な味付け
【DATA】住之江旅館

住所/広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田264-3 TEL/0845(27)2155
料金/1泊2食付一人(平日)15,000円から(土日祝は1,000円プラス)。昼食(要予約)は名物のタコのミニ会席3,500円から。夕食のみの利用も可(料金は税別)
IC/本州側から:生口島北IC/四国側から:生口島南IC

瀬戸田港の周辺には、塩田で栄えた頃の情趣を今に残す大きな屋敷や、昭和の懐かしい商店街などがあり、街歩きが楽しい
潮音山山頂の向上寺三重塔は国宝指定
尾道市瀬戸田歴史民俗資料館

江戸時代、瀬戸田港は120余隻の船を持つ内海航路の要衝として、また特産の塩の積出港として賑わった。資料館の建物は、江戸末期の豪商の土蔵をそのまま使用している。展示は、地域の考古資料・農漁業の道具や民具など。製塩業の道具類や資料がとくに多く収蔵されている。

住所/広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田254-2  料金/入館無料
営業日時/土・日・祝日のみ  営業時間/10:00~12:00、13:00~16:30

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来島海峡をまるごと味わう豪快海の幸料理の宿

しまなみ海道最後の宿は、来島海峡の眺望を独り占め…
しまなみ海道最後の宿は、来島海峡の眺望を独り占め…

瀬戸内随一の急潮流で知られる来島海峡は、新鮮な魚介の宝庫だ。とくに冬場は名物のタイをはじめヒラメや、アジ、サバ、タコなども絶品で魚好きにはこたえられない。そんな海峡の旬の魚を、思いっきり味わえる宿にやって来た。大島から来島海峡を眺望する、海宿・千年松だ。

宿の出迎えは、てきぱきと取り仕切る美人おかみと元気なスタッフさん達。「部屋はすべてオーシャンビューで、海水露天風呂からの眺望も抜群、この宿で出す魚は契約漁師から直接仕入れているんですよ」と、部屋に向かう途中ひと息におかみさんから説明を受けた。早速、露天風呂で汗を流す。身体が温まったところで、待望の海の幸が待つ食事処へ。評判どおりの新鮮な魚は大きな舟盛りがドンとテーブルの中央に。続いて運ばれてきた「炮烙焼き」は、この宿の名物。素焼きの土鍋の蓋を取ると、どっと湯気が立ち上った。中には立派なタイが蒸し上がっている。なるほどこれは、瀬戸内海で活躍した村上水軍も食べたであろうと納得の豪快さだ。ここまでやって来たかいがあった。次々に箸をつけていると、宴会場から陽気な歌声が。まるで海賊の宴会みたいだと、こちらも愉快な気分で舌鼓をうった。

潮の香りが漂う海水露天風呂から見た真っ赤な夕焼けと、来島海峡の旬の美味、そしておかみさんの至れり尽せりの気配りがうれしい海峡の宿である。

漁場から直送の新鮮な海の幸が満載。豪華な舟盛りが人気だ(写真の舟盛りは4人前)。 写真の料理は11,000円コースから選んだもの (夕食は予約の際に、希望の料理を別途オーダーが可能)

小石を敷いた上に鯛・エビ・サザエなどを並べて蒸した、炮烙(ほうろく)焼き
伊勢海老の味噌汁は田舎味噌仕立て
アワビのステーキは肝ソースで
ほくほくの鯛飯で締めて、この夜は鯛を満喫
鯛の旨味が利いた、鯛だし醤油は自家製
食事処には、巨大な大島石を敷いた回廊が
部屋は和室のほかに洋室もあり、どの部屋も趣向を凝らしたしつらえ(写真は洋室タイプ)
常連客に人気の元気いっぱい名物おかみ、矢野真弓さん
【DATA】海宿・千年松

住所/愛媛県今治市吉海町名駒25 TEL/0897(84)4192
料金/一人1泊2食付きで、料理は3コース(5,500円/8,800円/11,000円)、部屋は平日6,000円~(休前日7,500円~)、朝食は2コース(660円/1,320円)からそれぞれ選ぶことができる(税別)
IC/本州側から:大島北IC/四国側から:大島南IC

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