徳島県牟岐町
徳島県牟岐町
牟岐(むぎ)港の約3.3km沖合に、昔ながらの漁村風景が残る出羽島があります。集落が出羽島港をぐるりと囲むように広がり、島内には車道も自動車もありません。島民がネコ車(手押し車)を押しながらカタコトと荷物を運ぶ光景は、ノスタルジックで懐かしさを覚えます。
島を歩くと、幕末期から昭和初期にかけて建築された伝統的な民家が軒を連ね、漁業で栄えてきた歴史を垣間見ることができます。
特に、「ミセ造り」と呼ばれる建築様式は、島ならではのユニークな構造。建物の軒先に上下に分かれる折りたたみ式の板戸があって、上半分をはね上げれば庇(ひさし)になり、下半分を広げれば縁台になる仕組み。縁台は、島の人たちが腰を落としておしゃべりする交流の場や、漁具を繕ったりする作業場になっています。
港のすぐ近くにある「波止の家」は、島内で唯一開放されたミセ造りの伝統的な家屋で、建物の展示と休憩所を兼ね備えています。
島が漁業の黄金期を迎えたのは、島の漁師・山村雪太郎が室戸岬沖でカツオの巨大な漁場「阿波沚(あわはえ)」を発見した大正時代。全国から漁船が集まり、カツオの加工工場が何軒も建ち、その富によって立派な家々がつくられていきました。輝かしい歴史の面影を残す集落は、2017年に国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定。今も少しずつ修復が行われ、いぶし銀の美しい街並みが守られています。
近年は、移住者やUターンした人たちが空き家を活用し、宿やお店を開くなど新しい風も吹いています。今年5月、島出身の木村空さんと夫の悠さんがオープンさせた「お宿 青木邸」に宿泊。波の音が優しく響く夜、ミセ造りの縁台で島の人たちと団欒(だんらん)したひとときは、忘れられない思い出になりました。
また、島の南西にある大池には、希少な白亜紀(約1億4千万年前)の藻類・シラタマモが自生しており、太古の自然が悠久の時を刻んでいます。
自然と歴史のタイムカプセルを開けるような気持ちで、海を渡ってみませんか。
住所/ 徳島県海部郡牟岐町牟岐浦出羽島
旅作家・元編集者。著書に『週末島旅』(幻冬舎)や『週末海外』『大人のアクティビティ!』(ワニブックス)など。2014年に広島(香川県)で島の有志と『島プロジェクト』を立ち上げ「ゲストハウスひるねこ」をオープン。2019年に(一社)日本旅客船協会の船旅アンバサダーに就任。産経新聞などで連載中。