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せとうち美術館紀行 第6回 平山郁夫美術館

平山郁夫美術館 日本画の巨星、平山郁夫の足跡を俯瞰できる美術館

平山郁夫美術館に関しての対談5

平山郁夫が直接子どもに語りかける

山木:
川崎市岡本太郎美術館などでは、岡本太郎がいろいろ多角的に活動する作家だったゆえにですが、作家の関心や人間像を見せることで子どもたちの気持ちを引っ張っていくというアプローチをしています。平山画伯の場合も世界中を歩いて、いろいろな絵を描いて、いろいろな発言をして、非常に積極的に動くアーティストだった部分があると思います。そういう人間・平山郁夫を見せるというアプローチもあり得るのではないかという気がしますが、いかがですか。

別府:
そのことに関連してなのですが、実は、平山先生自身が直接子どもに語りかけたいという意識をお持ちでしたのでそういうビデオを作ってあるんですよ。

山木:
そうなのですか。こちらにありますか。それは売っていないのでしょうか。

別府:
売ってはいないです。

館長:
美術館のハイビジョン室で流しています。

別府:
郵送だけではなかなか見てもらえないから、現館長が館長として就任される前に、ご自身で広島県内すべての小学校と中学校に直接ビデオを配って回りました。

館長:
当時、小中学校は800校ぐらいあったのですが、約半分を回りました。「実際に小さな頃に描いた絵がありますので、ぜひ美術館に見に来て下さい」とお願いしました。

山木:
素晴らしいですね。なんというタイトルのビデオですか。

別府:
「ふるさとに学ぶ」です。

山木:
見せてもらいたいですね。DVDなどにしていますか。

館長:
ビデオテープです。時間は12、13分です。

山木:
平山画伯が直接子供たちに語りかけるという方法はすごく有効な方法ですから、復活された方がいいかと思います。DVDに焼き付けることができますよね。

別府:
それが権利関係が難しくて販売できないのです。教育目的だということで学校向けに作り、ビデオテープは配ったのですが。

山木:
おうかがいした範囲では、それを現代型のパソコンで見られるとか、DVDプレイヤーで見られる形にして、教育目的に限定して広めていくと絶大な効果があると思います。作られた時期が時代に先駆けていた。先駆けすぎていたのかな(笑い)。よくあるのですよ、優れた教育実践が周囲の環境が整備されていなかったことで、なかなか利用されないということが。今なら本当にどんぴしゃです。平山画伯がどんなことを言われているのかぜひ聞いてみたい。

館長:
映像メディアについて言えば、さらに、15分間番組でやったのが、100本あるんですよ。
作品について、どういう思いを込めて、どういうことを描きたかったかと語っています。
たとえば、瀬戸内の海の景色について語っているのですが、潮の流れは満ち引きによって変わります。実家が海に面し西向きだったので、海面反射の状況によって海の色が同じではないわけです。天候気象によってもどんどん変わってきます。だから海はこういう色と決めつけちゃうとだめなのですね。時々刻々といろんなものが変化する。
そういえば、私は直接聞いていませんが、兄が小さい頃に海を一生懸命眺めているから、母が「どうしてそんなに海を眺めているの?」と聞いたら、「同じ波が二度と来ないのを見ていたらおもしろくて」と言ったそうなのです。そういう観察力は凄かったようです。
25年前ぐらいになりますが、NHKの「ようこそ先輩」という番組の第1回にも兄が出演しています。隣の小学校が母校で、その小学校が建て変わる前に撮影されたものです。

山木:
文化人が自分の出身校に来て授業をするという番組ですね。おそらく、それも興味深い内容でしょうね。

子どもを対象にしたワークショップを開催

山木:
他に子どもたちに対して工夫をしていることや、アピールしたいことはありますか。

成瀬:
絵画コンクール関係ですが、上位入賞した子どもたちや、それ以外の子供たちを対象に絵画教室を開催しています。夏休みは子どもを対象にした模写教室を行いました。館内でも模写できるのですが、尾道大学の美術科の学生や日本画の先生をお招きして、風景を描いたり、模写の場合はどういう所を観察したらいいのかと言うところを話してもらったりしています。

山木:
年間にどれくらいしていますか。

成瀬:
子ども模写教室は夏休みに2日間、絵画教室もこの美術館では春休みに、広島のほうでは夏休みなど動きやすい期間を狙ってやっています。

山木:
いくつかの美術館が連合して子どもたちを招くという企画もされていますよね。

成瀬:
「こども学芸員の旅」と言います。尾道市内に美術館が5館、因島も合わせると6館ありますので、美術館ネットワークを作り、年2回機関誌を発行しています。このネットワークで「こども学芸員の旅」というのを実施しています。主に夏、尾道市内の子どもを対象に約40人を公募し、御調町のふれあいの里に宿泊し、1泊2日でそれぞれの美術館でワークショップを行いながら回っています。

山木:
すてきな企画ですね。

館長:
1泊2日で6館のワークショップをするのですから、いわば地獄のツアーですね(笑い)。

山木:
でも、楽しいにちがいない(笑い)。

別府:
子どもたちには好評なのですよ、「また行きたい」って。

今後も新しい魅力作りを

山木:
最後に、今後の展望を一言ずつ語っていただけますか。

成瀬:
絵画コンクールについては今後も継続して開催し、さらに内容を充実させてもっと広い範囲の人に知ってもらえたらと考えています。それと、小学生の来館者が少ないので、ワークショップでもいいのですが、何か親子で来てもらえるようなことができればと思います。

山木:
いいことだと思います。ぜひがんばってください。別府さんはいかがですか。

別府:
私の目標は、誰も見たことがない絵を一点でも発掘するということ。「平山先生はこんな絵も描いていたのか」という驚きの部分を来館者に感じていただきたいですね。残念ながら新しい絵が増えることはもうないわけですから、過去に描かれた絵で展覧会に一回出しただけというような作品を1点でも紹介していけたらと思います。「うちにいいのがあるよ」と言ってくだされば、どこにでも予算の許す限り調査に行きたいです。

山木:
ありがとうございます。では館長お願いします。

館長:
今は日本自体に次の展開がない時代だと思います。しかし、古いものから新しいものまで途切れずに混在させながら生き続けてきたのが日本の文化です。古くは中国から学び、明治維新後はヨーロッパから学び、それがあっという間に咀嚼され消化されて、今に至っています。その応用力というものは世界一だと思います。そういう文化の特性をもう一度しっかり見つめ、これからの展開を考えるにはどうしたらよいかということを追究したいですね。兄もそれをずっと絵で追いかけてきたと思います。
かつては船でしか辿り着けなかった場所に今はいろいろな手段で行くことができます。ここもまた、橋の恩恵を受け、大都市から車で来られる恵まれた場所の一つだと思います。それでも時間はかかります。その時間が惜しくないと思って頂ける魅力的な雰囲気の美術館にしなくてはいけません。そのためには展示作品もさることながら、美術館周辺全体が魅力的でなければいけないと考えています。

山木:
魅力的な街づくりをするということですね。

館長:
はい、瀬戸内海全体を魅力的にするということです。自然との共生といいますか、自然との触れ合いを身近に感じる機会として、美術館に来たついでに、絵にまつわる題材となった風景などを実際に見てほしいのです。そういう楽しみ方をさらにPRしながら、展開していきたいと思います。もちろん、中国や韓国などアジアからの来館者も大歓迎です。
そして、何でこの島をめぐるかという交通機関についても考えています。自転車が走りやすい環境ですから、これからは自転車で見て回るのがいいかもしれません。スピードが違えば見える濃度が違い、速く走れば通過してしまうところもゆっくり見ることができ、違った見え方がします。

山木:
レンタサイクルなどの環境整備が必要になってきますね。

館長:
それは今、尾道市をあげてしまなみ海道全体でやっています。電動アシスト自転車があれば楽に走れ、橋でも上り坂をスイスイ上っていきますので、健康づくりもかねて自転車に乗って見ていただきたいです。

山木:
ぜひいろいろな機会にこの美術館の魅力をアピールして、中国・四国地方にお住まいの人だけでなく、全世界の人が来られるようにしてください。
今日はいろいろなお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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