- 《朝の内海》1959年頃・紙本彩色。岡山県倉敷市鷲羽山より望む櫃石島。第2期テーマ作品展(7/23~9/13)にて展示予定。
瀬戸大橋の四国側のたもとで橋を見守るかのように立つ東山魁夷せとうち美術館。さえぎるものなく眺望が開け、日本画の巨匠・東山魁夷の作品とともに景観美に浸れる空間です。
実は瀬戸大橋の色彩を提案したのが魁夷でした。瀬戸大橋の建設では豊かな環境を守り、周辺の景観との調和を図るため、日本で初めて本格的な環境アセスメントを導入。環境への影響を調査し、学識経験者などから意見を聞き、環境庁と協議して橋の形状や色彩が決められました。そのなかでアドバイスを求められたのです。
魁夷の祖父は瀬戸大橋の橋脚が立つ最北端の島、櫃石島(ひついしじま)の出身。明治に入る少し前に島を出て、江戸で回船業や船宿を営んで財をなしました。その後横浜に移り、魁夷はそこで生まれましたが、ルーツとして櫃石島が心の片隅にあったのでしょう。瀬戸内の自然の中に巨大な橋ができると聞いて抵抗も感じたようですが、人々が必要とする世紀の大事業であることを理解。それならば瀬戸内の島や海、空に溶け込む色にしてほしいと、ライトグレーを提案しました。
存在を主張するわけではなく、心に静かに染み入るような美しいライトグレーの橋は、今や瀬戸内のシンボリックな風景のひとつになっています。美術館から眺めると感慨深い気持ちになります。