神戸市立小磯記念美術館は2022年秋に開館30周年を迎えました。六甲アイランドに初めて出来た美術館であり、この夏は初の試みとして漫画原画展を開催します。独創的な世界を築いてこられた青池保子氏(山口県下関市出身)の画業60年を記念し、美術や歴史に題材をとった緻密な原画300点以上を、8章構成で展示します。
氏のデビューは早く、「さよならナネット」を発表したのは中学3年生でした(1963)。1973年、専属のフリーとなり、「とにかく面白い事をやろう」と1976年から『プリンセス』(秋田書店)で連載を始めた「イブの息子たち」は、少女漫画界に衝撃を与え、性別年代をこえてファン層が拡大しました。
1977年より「七つの海七つの空」「エルアルコン-鷹-」を発表。同年から連載を始めた「エロイカより愛をこめて」は最大の人気作となりました。
1970年代末頃から1980年前半頃、氏はこれら画期的な作品群の連載を並走させ、また新書館が発行した雑誌『グレープフルーツ』において、
1981~86年に、実在する歴史上の人物たち、それも権力の高みにありながら、ままならぬ運命をたどった人々の肖像をリアルに美しく描きました。
イベリア半島統一を目指したドン・ペドロ王に関心を抱いた氏は、1984年から彼の生涯をたどる「アルカサル-王城-」の連載を始め、24年をかけて完結させました。
資料を読み込み、円熟期の画力で描いたこの歴史物語により、第20回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞しました。
1990年代以降は「修道士ファルコ」(1991~)と「ケルン市警オド」(2016~)を連載、これらは中世3部作と呼ばれています。
数百年前の欧州地域における社会と人々の暮らしが、異なる階層(王、修道士、官吏)の視点で描かれ、併せ読むと重層的に理解できる点も特筆すべきです。
秋田書店が所蔵する数百点のカラー原画から厳選した作品、今までの展覧会では出なかったモノクロ作品の数々、資料を一堂に紹介します。