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情報誌「瀬戸マーレ」

アートのすすめvol.5 玉川町の山々と川のせせらぎに包まれて 美を愛する心を伝える 町の小さな美術館

今治市玉川町の自然に囲まれた「今治市玉川近代美術館」。個人の所蔵コレクションをもとにした作品群には、画家・松本竣介を中心とした、近代絵画を代表する画家の名が連なります。同館では、美術を愛する心をさりげなく、けれど確実に伝えています。

癒し空間が広がる 郊外に佇む近代美術館

自然に囲まれて佇む同館
自然に囲まれて佇む同館

今治市玉川町の郊外で、ひっそりと佇む小さな美術館。館内に一歩入ると、欧州の教会に入ったような静けさに包まれます。そのせいか、気どりのない心温かな歓待を受けたように、和やかな気持ちで美術作品を見ることができます。

山と田畑に囲まれて、すぐそばには玉川が流れる、豊かな自然も魅力の一つ。訪れるだけで、心が癒されます。そんな環境の中で鑑賞できるのは、明治の巨匠・黒田清輝、藤島武二から、大正・昭和の藤田嗣治、松本竣介、池田満寿夫などです。また、野間仁根をはじめとする郷土出身作家から現代作家まで、日本の洋画史をたどることができます。

さらに、ピカソやシャガール、ルオー、クレーからダリ、アンディ・ウォーホールなど、西洋絵画の巨匠の名も連なり、幅広く鑑賞できるのも特徴です。

松本竣介作品を中心に「宙」2階建て建築

1階の第二展示室
1階の第二展示室。彫刻も配置
(写真左)徳生忠常氏と、創立功労者の大川栄二氏(写真右)館内
(写真左)徳生忠常氏と、創立功労者の大川栄二氏(写真右)館内

同館は、玉川町出身の実業家で故・徳生忠常氏が全資金を提供して、「故郷のために文化の土壌を残したい」と、昭和61年に設立されました。「美を愛する心がみなさまの生活の中に生き続けられれば」との氏の言葉が、館内入口に記されています。

館内の作品群は、個人の実業家のコレクションがもとになっています。収蔵作品のうち、メインになっているのが「松本竣介」。透明感のある風景画や人物画を描き、36歳で夭折した明治45年生まれの画家です。

館蔵作品は、この松本竣介が影響受けた画家など、彼を中心に据えることをコンセプトとしていて、興味深い収集がなされています。

この松本竣介の息子、松本莞(カン)氏による設計で、今治市玉川近代美術館は建築されました。2階展示場が空中に浮かんでいるような、大胆な吹き抜けのデザインが、当時の注目と称賛を得たといいます。2階別室の第3展示室は、まさに教会をイメージして作られています。

音楽会や朗読会など角度や視点を変えた紹介も

2月に行われた、村山槐多詩集朗読コンサート
2月に行われた、村山槐多詩集朗読コンサート

作品を、知識からではなく、そのまま体感できるよう、同館では様々な工夫を行っています。キャプションを最小限にしているのもその一つです。

収蔵作品「樹」の作家、明治29年生まれの村山槐多を、様々な角度から深く知るためのイベントも行われました。22歳で夭折した同作家の書いた詩を集め、フルートとバイオリンの演奏に合わせた「朗読会」を、2010年2月に開催。寡作の作家の、内なる宇宙を探る企画として、好評を得ました。

2010年秋には、「松本竣介」の特別企画展も開催予定。絵画の持つ力を信じる、同館の試みは続きます。

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PROFILE

せとうち美術館ネットワークアドバイザー
文京大学国際学部 国際観光学科専任講師
井上 由佳

1976年東京生まれ。

慶応義塾大学総合政策学部卒、教育学博士(PhD,ロンドン大学)専門:博物館・美術館教育、英国における教育、国際理解教育

せとうち美術館ネットワークアドバイザー 文京大学国際学部 国際観光学科専任講師 井上 由佳
国宝「伊予国奈良原山経塚出土品」

昭和9年8月26日、玉川町木地、楢原山頂(1,042m)奈良原神社境内で、雨乞い祈祷のため掃除中に、社殿東南隅から偶然に発見された、経塚からの出土品。昭和12年7月4日に国宝に指定、法改正後、昭和31年6月28日にあらためて国宝指定。


公開/特別企画展中は公開。
近日では、2010年10月16日(土)~12月19日(日)
(月曜定休、入館は4時30分まで)

尚、保存の必要性から、年2回以内、延べ60日以内

(写真上左)全高71.5㎝の銅宝塔(写真上右)宝塔を包んでいた瓶ほか、銅経筒、椀形土器や銅鈴・鉄鈴・鰐口なども (写真上左)全高71.5㎝の銅宝塔 (奈良原神社所有)
(写真上右)宝塔を包んでいた瓶ほか、銅経筒、椀形土器や銅鈴・鉄鈴・鰐口なども(奈良原神社所有)

イベント情報

特別企画展
「松本竣介 その透明な生」

期間/2010年10月16日(土)~12月19日(日)
(月曜定休、入館は4時30分まで)
主な出品作品/「建物」「ニコライ堂の横の道」
「Y市の橋」「顔(自画像)」など40点を予定。


※ギャラリートーク
日時/2010年11月3日(祝)午後2時~午後3時30分
演題/「父、松本竣介のおもいで」
講師/松本莞

DATA

住所/〒794-0102 愛媛県今治市玉川町大野甲86番地4
TEL/0898(55)2738
開館時間/午前9時~午後5時
休み/月曜日及び12月27日~1月1日
料金/一般500円、大・高生400円、小・中学生250円
団体割引20名以上2割引、高齢・障害者割引2割引き
HP/http://museum.city.imabari.ehime.jp/tamagawa/index.html

今治市玉川近代美術館 アクセスマップ

せとうち美術館ネットワークとは

瀬戸内の美術館が相互にネットワークを形成して、地域全体としてのアートの魅力を発信する組織が「せとうち美術館ネットワーク」です。ネットワークでは「子どものアート感想文」募集などを通じて、教育普及活動にも力を尽くしています。

せとうち美術館ネットワークの詳細については、ホームページにてご紹介しています。
http://www.jb-honshi.co.jp/museum/

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