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せとうち島めぐり

大久野島おおくのしま

広島県竹原市

ウサギの楽園で、平和を学ぶ旅

竹原市忠海の沖合3kmに位置する芸予諸島の一つ、大久野島。400羽〜500羽のウサギが暮らす、日本を代表するウサギの楽園です。また、瀬戸内海国立公園のリゾート地として、島全体が国民休暇村となっています。国内外から多くの観光客が渡島し、平和な風景が広がります。
一方で、大久野島は先の大戦で日本の地図から消されていたのをご存知でしょうか。

島内には、あちこちに戦跡が見られます。古くから内海航路の要衝だったため、日露戦争後に構築された砲台跡等もありますが、注目すべきは大久野島にしかない毒ガス製造に関する戦跡です。

1929(昭和4)年に、旧陸軍は毒ガス製造工場を島に設置し、猛毒のイぺリットガス等の化学兵器を秘密裏に製造していました。それを隠蔽するために、旧陸軍は日本の地図から大久野島を消したのです。

島に着いてすぐ、桟橋付近でウサギが出迎えてくれるでしょう。春には満開の桜が咲き誇る光景も見事。ウサギと桜のコラボ写真をたっぷりと撮ったら、思い切って毒ガス資料館へ足を運んでみてください。当時、島で毒ガス製造に従事した人はのべ約6000人と言われています。戦争の凄惨さを知り、平和の尊さをひしひしと感じられるはず。

島内の戦跡を巡る場合、毒ガス工場の電力を賄っていた発電場の跡地がおすすめ。第二桟橋から歩いて3分ほどです。ここでは、女子動員学徒による風船爆弾の気球部分の満球テストも行われたそうです。無骨な廃墟の建物から、ひょっこりウサギが顔を出すかもしれません。

ゆっくりと過ごせる人は、戦跡以外にも島最高峰にある“ひょっこり展望台”へ行ってみては。穏やかな瀬戸内海を360度見渡して、安らぎの時間が過ごせます。
美しい自然、ウサギのいる風景、豊かな時間が続きますように。そう願わずにはいられない春爛漫の島旅でした。

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第一桟橋付近で、満開の桜と寄り添うウサギ
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島へのアクセスは…忠海港から大久野島の第二桟橋まで、船で15分。盛港から第二桟橋まで、船で15分。三原港から第一桟橋まで、船で40分。

トリセツ

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うさぎのいる風景
ウサギは、かつて地元の小学校が数羽放ち、自然繁殖したそう。桟橋付近や宿泊施設の「休暇村大久野島」等、人がいる場所ではウサギも多く見かけます。ウサギの餌は島内で販売していないので、忠海港の乗船場で購入するなどして持参を。ただ、残った餌のゴミや栄養過多も問題になっています。ウサギと環境に配慮しながら、楽しんでくださいね。
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大久野島毒ガス資料館
1988年に開館した毒ガス資料館。竹原市や周辺市町、毒ガス障害者の数団体でつくる「大久野島毒ガス障害者対策連絡協議会」が建設し、竹原市に寄贈しました。旧陸軍による毒ガス製造で、実際に使われていた製造装置や防護服、従事者の日記など、当時の資料や遺物が展示され、戦争の悲惨さ、平和の尊さ、命の重さを伝えています。
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大久野島ビジターセンター
第一桟橋から歩いてすぐ、2003年に開設されたビジターセンターがあります。大久野島を中心とした瀬戸内海国立公園の自然環境や島の歴史について紹介しています。センターの南側すぐ近くには、大小様々なサイズのウサギ耳のオブジェ「ウサギの耳の集音器」が設置され、耳をあてると波や風、船の汽笛等の“島の音”が聞こえます。
小林 希さん

取材・写真・文 小林 希さん

旅作家・元編集者。著書に『週末島旅』(幻冬舎)や『週末海外』『大人のアクティビティ!』(ワニブックス)など。2014年に広島(香川県)で島の有志と『島プロジェクト』を立ち上げ「ゲストハウスひるねこ」をオープン。2019年に(一社)日本旅客船協会の船旅アンバサダーに就任。産経新聞などで連載中。

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