淡路島の南端に浮かぶ、沼島。鱧専門漁師の安達一富さんは「ここらのハモは、皮が違うよ」と、日焼けした顔をほころばせます。その柔らかな皮と、ふっくらした身が特徴です。鱧で有名なこの島で、今や唯一の専門漁を行う一家となりました。
「鱧は夜行性のため、夜中に親父と叔父貴と3人、2杯の船で漁へ出る。昼間は泥の中で眠っていた鱧が、餌を喰いに出てくるからね」と安達さん。鱧の漁法は「延縄(はえなわ)漁」。1本の幹縄に55本の枝縄を吊り下げ、それぞれの先に針をつけた縄を使います。「夕方の内に、船のエンジンを走らせて、縄を次々に投げ入れ、沈ませる。それを、夜中に順番に引き上げるんや」。島周辺の軟らかい泥にいるのが、良質な鱧。生きたまま浜へ運びます。
精悍な顔を持つ鱧は、強い生命力の持ち主です。江戸時代には、船で海を渡り、淀川を上って京の御所まで、生きたまま献上するようになりました。「骨の多さから、どう扱えばいいか都の人には分からなかったのを、島の漁師が食べ方を教えたと、親父が、そのまたじいちゃんから聞いたようやね」。これが骨切りという独自の技です。
さらに大阪町人の隆盛で鱧料理が広まり、沼島といえば鱧、というほど有名になりました。
朝に浜に戻った後は、仲買人に売るほか、自らシメて3枚におろし、骨切りを行うことも。漁師料理として伝統的な食べ方は「鱧鍋」だそうです。ここ4~5年は漁獲量も増加。1㎏以上の大きな鱧が獲れるのも沼島の特徴で、「これならフライもうまいよ」とにっこり。鱧のことは誰にも負けないと、頼もしい姿です。
- 鱧はアタマを割る前なら、噛まれることもあるとか