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うみかぜ紀行

夢の灯りを架ける橋

玉岡かおる・文

年じゅう灯っているイルミネーションにも、やはりシーズンはあると実感するこの季節。やたら街でクリスマスの灯がさざめき出すからだろうか。ライトアップも電飾も、冬の風物詩に入れてしまっても違和感はない。

明石海峡大橋の虹色の灯りも、大気が凍える冬場には、いつも以上にファンタジックに見えるようだ。ご存じ、本州と淡路島を結ぶ世界最長の吊り橋である。

昼間に見ても圧倒的なそのスケール。灯りなどなくてもすぐにそれとわかる存在感は、遠く播磨の山中や着陸まぎわの飛行機から見えたりすると、そこが自分の住んでいる場所だとわからせてくれる目印になる。加えて、夜ともなれば灯りが点いて、一目瞭然のランドマークとなって輝く。

「あれはね、毎時0分になったら虹色。毎時30分になったらそれぞれの月の誕生石の色。五分間だけ色が変わって、時報代わりになってるのよ」と教えてくれる次女の、妙に詳しい知識に感心すると、さらに追加のこんな情報。

「平日と土日でも色が違って、神戸ルミナリエの間は限定バージョンが点くし、年末になるとまたまた変化するのよ」

新年へのカウントダウン用プログラムだそうで、12月29日からは赤オンリー。大晦日の31日には、カウントダウン30分前から限定バージョンが灯るのだ。

「ほかに、オーロラみたいなのや、ピンクリボン(乳がん予防)キャンペーン用のや、GW期間中は緑一色とか、紅葉の期間はオレンジ色とか、バリエーションがいっぱい」

まるで広報マン並みの知識である。

「よく知ってるねえ」

と感心したら、当然顔で次女は答える。

「だって何年あの橋を見てるっていうのよ」

なるほど、彼女はこの橋が見える教室で中学高校を過ごした。あるとき、あまりに帰りが遅くて大騒ぎになったことがあるが、実は橋に灯りが灯るのを見たいばかりに暗くなるまで居残りし、クラスメート数人で橋の点灯を見守っていたのだった。反省文を書かされて無罪放免となったが、卒業してからでは見られない教室からの夜景は、きっと今でも彼女の記憶の中で輝いているのかも知れない。その後、大学にも仕事にも、この橋を見ながら通った電車での時間が、それだけの知識を積ませていったとはすぐに納得できる。

私も知っていることといえば、灯りは、楽しいイベントばかりを輝かせるのではなく、阪神淡路大震災の記念日にはただただ白く神々しい灯が慰霊の思いをささげて灯る、ということ。そう、人生、楽あれば苦あり。喜びも悲しみも、人々の暮らしとともに刻むのがランドマークの使命でもあろう。

「今年はトモダチと、橋を見ながらカウントダウンで年を越すからね」

かつて見果てぬ夢と思われた架け橋は、今ではここで育った子供たちが日夜ふつうに見慣れて育つ風景の一部となった。そしてその折々の記憶と連動しながら、橋は、彩りの粒で次の世代へ夢を架ける。

挿絵

PROFILE

玉岡かおる
作家。兵庫県在住。1989年、神戸文学賞受賞作『夢食い魚のブルー・グッドバイ』(新潮社)でデビュー。著書多数の中、『お家さん』(新潮社)で第25回織田作之助賞。文筆のかたわら、テレビコメンテーター、ラジオパーソナリティなどでも活躍。