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「和の宿ホテル祖谷温泉」の露天風呂「せせらぎの湯」。2つある露天風呂は男女入れ替え制。宿泊客は両方の湯を満喫することができる

「和の宿 ホテル祖谷温泉」の露天風呂「せせらぎの湯」。2つある露天風呂は男女入れ替え制。宿泊客は両方の湯を満喫することができる

徳島県 三好市

山と渓谷と湯けむりと源泉掛け流しの愉悦。

神秘とロマンが誘う秘境に佇む温泉郷

「秘境」という言葉は旅情をかきたて、訪れる土地への期待感を高めてくれる。国内には三大秘境というのがあり、岐阜県白川郷、宮崎県椎葉村と並ぶのが徳島県祖谷渓谷だ。平家の落人伝説が残る一帯は、実に神秘的な雰囲気。西日本第二の高峰である剣山を水源とし、西へと流れる祖谷川の流域に広がる渓谷は、全長約10kmにも及ぶ。両岸には高さ数十mから100mの岩山がV字型に屹立し、鬱蒼と生い茂った木々が周囲を取り囲んでいる。渓谷の底にはゴツゴツとした奇岩の間を縫うように、エメラルドグリーンの水が輝いている。

祖谷川の本流である吉野川沿いの景勝地・大歩危も含めた一帯には、名湯が湧く温泉宿が点在しており、これらを総称して「大歩危祖谷温泉郷」として旅人を惹きつけている。

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ケーブルカーで降りる珍しい温泉の歴史を紐解く

「和の宿 ホテル祖谷温泉」の泉脈は、1925年に発電所の建設工事をしているときに発見された。湯量が豊富で湯温も適温。工事に従事していた人たちは、湧き出る湯で疲れを癒したという逸話が残されている。以降、幾度となく温泉開発が計画されたが、祖谷は交通の難所であり、開発には多額の資金が必要なことから頓挫してしまった。1965年、ボーリング工事がようやく行われ、温泉掘削が叶う。祖谷川の岸辺には2つの露天風呂が造られ、無料で開放された。湯浴み客は県道から約170mの急斜面を降り、入浴後は昇るという過酷な状況であったが、年間約2万人が利用したとされている。

1972年、ついに「ホテル祖谷温泉(後に現名称に改称)」を開業。源泉を引いた内風呂や客室、食堂などを整え、野趣に富んだ露天風呂とともに多くの客を惹きつけた。1984年には川底にある露天風呂に楽々と往来できるケーブルカーを敷設。傾斜角42度の断崖を5分ほどかけて降りていくケーブルカーは、珍しさもあり大きな話題となった。観光シーズンには「待ち時間2時間」を記録したこともあるという。その後ケーブルカーは何度かリニューアルされ、2023年からはデザイン性に優れた新車両が運行を開始した。

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露天風呂「せせらぎの湯」。
渓谷を眺めながらの入浴は格別
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直角に降りるかのような斜度
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壁画絵師・木村英輝氏がデザイン。内部は阿波藍がモチーフ
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山眠る冬、名湯の宿でお籠りの贅沢を

泉質は、硫黄が香るアルカリ性単純硫黄泉。表面には白い湯の花が浮き、白く濁って見えるがこれも泉質の良さの証だ。アルカリ成分が多いため湯にはこっくりとしたぬめりがあり、湯上りの肌はしっとりと潤うのが特徴となっている。露天風呂は加温も加水もなく、源泉掛け流し。豊富な湯量を誇るこの温泉ならではの贅沢と言えよう。

ときには雪が降ることもある冬の祖谷渓谷。源泉温度は38度であるため、最初はぬるく感じるかもしれない。そこでせせらぎに耳を傾けなら1時間ほど、じっくりと浸かるのがおすすめ。リラックス効果が得られて、身体を芯から温めてくれることから湯冷めがしにくい。

露天風呂を満喫したら、今度は源泉を引いた展望風呂「雲遊天空の湯」へ。大窓に迫る山肌が一幅の絵画のようで圧巻。露天風呂・展望風呂ともに立ち寄り入浴ができるので、他の温泉との湯くらべを楽しむ人も。湯上りには山菜や蕎麦、雑穀など祖谷地方に根付いている食文化を体現した食事も楽しみだ。

山眠る冬、名湯のぬくもりはひとしおに沁み入る。新緑や紅葉の時期とはまた違ったひっそりとした秘境の風情を味わいながら、「宿籠もり」を堪能する大人の旅を満喫したい。

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館内の浴室。インフィニティプールを思わせる大胆な開口により自然との一体感を味わえる
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本館3階の一般客室。露天風呂付きなどタイプは色々
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客室に置いてあるのは徳島県に根付いている遊山箱。中には茶と茶菓子が入っている
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「美肌の湯」とも称される祖谷温泉と祖谷渓谷の天然水を活用したオリジナルの温泉化粧品も好評
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地元野菜、ブランド牛として知られる阿波牛
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蕎麦などを素材にした「祖谷和食」が名物

和の宿 ホテル祖谷温泉

住所/徳島県三好市池田町松尾松本367-28
TEL/0883-75-2311
営業時間/チェックイン15:00・チェックアウト11:00
立ち寄り入浴7:30〜18:00(札止め17:00)
料金/宿泊料金1泊2食付23,250円〜(1室2名利用の1名料金)
露天風呂(展望風呂・ケーブルカー代含む)大人1,900円、展望風呂大人700円
駐車場/あり

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2022年10月、開業から50周年を迎えた宿。よりスタイリッシュで心地よくなったと評判だ

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2022年10月、開業から50周年を迎えた宿。よりスタイリッシュで心地よくなったと評判だ

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興味深い風物を求めていざ、秘境ドライブへ

今回、旅の終点はかずら橋。徳島自動車道井川池田ICからかずら橋に至るドライブルートは、祖谷川沿いか吉野川沿いかの2本ある。運転に自信があれば祖谷川、時間に余裕があるなら吉野川を選択するのが良いだろう。後者のルートは国の名勝に指定された「大歩危小歩危(おおぼけこぼけ)」を通過する。吉野川が侵食した結晶片岩の渓谷で、舟下りやラフティングスポットとして人気だ。一風変わった地名は「大股で歩いても小股で歩いても危険である」ということから付けられたそう。ルート上には温泉への立ち寄り入浴ができる宿泊施設や道の駅があり、休憩を挟みながらゆっくりと目的地を目指せる。

祖谷川ルートの途中、200mの谷底を見下ろす断崖には小便小僧のブロンズ像が建っている。かつて旅人や近隣の子ども、祖谷街道工事の作業員が、断崖に立って度胸試しをしたという逸話に基づいて、1968年に造られた。ここで車を止めて撮影をする人も多いが、絶対に柵を超えてはならない。

小便小僧からさらに進み、「和の宿ホテル祖谷温泉」を超えたところにあるのは、「ひの字渓谷」。蛇行する祖谷川が平仮名の「ひ」に見える。目的地の「祖谷のかずら橋」は、山に自生するシラクチカズラを編み連ねて作られた吊り橋。谷からの高さは14mもあり、踏み板の隙間からは渓流がチラチラと見える。しかも足を進めるごとに橋はゆらゆらと大きく揺れるため、途中で足がすくんで動けなくなる人がいるほどスリル満点。橋は一方通行なので、後戻りは許されない。恐怖を押し殺して、兎にも角にも前へと進んでいく。

渡りきってホッとしたら、近隣の土産物屋が気になり始めた。パッと目に飛び込んできたのは、炭火で焼いた田楽。この地方特産の源平いもや石豆腐、こんにゃくを串に刺して、柚子味噌をたっぷりと塗っている。満遍なく焼けるよう人形浄瑠璃の木偶(でこ)を操るように回すから、地元では「でこまわし」と呼ばれている。

帰途、時間が許せばもう一風呂に立ち寄って旅を締めくくるのもいい。

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この時期の舟下りは、防寒対策をしっかりとして冬ならではの風情を味わって
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愛らしい小便小僧の姿が笑いを誘う。なぜか小銭を投げる人が多い
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「ひの字渓谷」は自然が生み出した不思議な景観。海外の格付け雑誌で2つ星を獲得している
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祖谷渓谷には平家の落人伝説が伝わっている。かずら橋も追っ手が見えたらすぐに切り落とすためのものと言われている
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源平いもや石豆腐、こんにゃくをを刺した「でこまわし」の提供店は複数あり。
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柚子味噌は各店の自家製なので、味の違いを楽しみたい
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充実の温泉施設が魅力!日帰り入浴も楽しみ

大浴場・露天風呂ともに泉質は炭酸水素塩泉で、しつらえには阿波の青石を贅沢に使用。大浴場にはジェット浴や寝湯があり、さらに塩サウナや薬湯よもぎ湯なども心地よい。和洋の多彩な客室があるが、温泉宿では珍しいシングルルームも完備。お一人さまのご褒美旅でも人気。

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祖谷渓温泉 ホテル秘境の湯

住所/徳島県三好市西祖谷山村尾井ノ内401
TEL/0883-87-2300
営業時間/チェックイン15:00・チェックアウト10:00
立ち寄り入浴15:00〜20:00(札止め19:00)
土・日曜・祝日は12:00〜18:00(札止め17:00)、火曜休み
料金/シングルルーム1泊朝食付き9,680円〜、1泊2食付き
(1部屋2名利用の場合の1名料金)17,600円〜、いずれも入湯税別途150円
駐車場/あり

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※年末年始の営業状況については各施設にご確認ください。

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