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愛媛県 砥部町

「道の駅 霧の森」内にある「茶フェ〜ゆるり〜」では「極上煎茶 月の雫(880円)」など銘柄指定で新宮茶を味わうことができる

愛媛県 四国中央市

山霧に包まれて育つ甘露なお茶で一服。

村の存続をかけてお茶栽培に挑戦!

愛媛県四国中央市新宮地区(旧新宮村)には、かつて山茶と呼ばれる日本在来種のお茶が自生しており、自家用のお茶として飲まれていた。換金作物としては煙管用の葉タバコが主流であったが、戦後は需要が激減。それに代わる作物として、当時の村長はお茶に着目した。静岡県で品種改良された「やぶきた」が1953年に農林水産省の登録品種となり、「山茶が自生しているのだから栽培条件は悪くないはずだ」と考えたのだ。村民を代表し、脇久五郎が茶栽培に挑戦することになった。

銅山川から立ち込める朝霧、昼夜の寒暖差、水はけと日当たりの良い傾斜地など、新宮の気候や地形は確かにお茶の栽培に適していた。また寝食を惜しんで研究を重ねた久五郎の努力もあり、挿木育苗にも成功。これを村内の農家に配布し、新宮はお茶の産地として歩み始めた。

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施設内はお茶づくし体験も一服も思いのまま

お茶どころ・新宮を多くの人にアピールし、地区を活性化させるために1998年に設立されたのは、「霧の森」。オープンと同時に販売を開始した「霧の森大福」は、一口サイズの大福の中心にクリーム、その周りをこし餡、抹茶を練りこんだ餅で包み、最後に手作業でたっぷりの抹茶をまぶしたもの。一躍大ヒット商品となり、新宮茶が広く知られるきっかけとなった。

「霧の森」の敷地に足を踏み入れた瞬間、どこからともなくお茶の馥郁(ふくいく)たる香りを感じる。それに導かれるように向かったのは、お茶の飲み比べや抹茶点てなど新宮茶体験ができる「街道茶店・聴水庵」。出迎えてくれたのは日本茶インストラクターの石川安代さんだ。今回は、好きな銘柄のお茶を選び、フライパンで加熱してほうじ茶を作るほうじ茶炒り体験を受講することにした。「家庭で飲み残した緑茶が湿気たとき、この方法を使えば美味しいほうじ茶になるんです」と石川さん。緑茶の色が茶色に変わり、あたりには香ばしい香りが広がる。炒りたてのほうじ茶はお土産として持ち帰りできる。

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緑の山々に囲まれたのどかなロケーションが癒してくれる施設。敷地内にはコテージもある。
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笑顔が素敵な石川さんは、スタッフにお茶の淹れ方などを指導するリーダー。やわらかな人柄も人気
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家庭にある調理器具で簡単にできるほうじ茶炒り。1種類500円(茶葉は持ち帰り)、できれば予約を
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お茶やお茶スイーツを味わうなら、新宮茶専門のカフェ「茶フェ〜ゆるり〜」へ。和モダンテイストの店内中央には囲炉裏があり、温もりを感じさせるインテリアが心地よい。

まずはひと息つきたい。注文したのは極上煎茶「月の雫」。湯呑みや急須、茶筒、砂時計などが運ばれてきた。

お茶は、テーブルに置かれたポップを見ながら自分で淹れられるが、せっかくならと一煎目はスタッフさんにお願いをした。コツは湯温を下げて、ゆっくりと茶葉を開かせること。これにより鼻へと抜けるお茶の芳香、苦みと甘みの絶妙のバランス、口の中に残るまろやかな余韻が生まれる。また湯温を上げて、抽出時間を短くした二煎目は渋みが強くなり、三煎目は苦味や香りが勝ってスッキリとした後口。淹れ方に気を使うだけで、お茶はこんなにも美味しくなるのかと、うっすらと感動した。

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「茶フェ〜ゆるり〜」の店内。小上がりやテーブル席など座席は色々
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抹茶ぜんざい 605円
使用するのは最高級のかぶせ抹茶。その持ち味を引き立てるようにスッキリとした甘みに仕上げている

「霧の森」で提供しているお茶は、「農業生産法人(有)脇製茶場」で作られたもの。車で数分のところに直売所があると聞き、立ち寄ってみることにした。「この時期の茶葉は伸び放題。そろそろ剪定をしようと思っていたところなんです」と笑うのは四代目脇純樹さん。新宮にお茶の栽培を根付かせた脇久五郎のひ孫にあたる。

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「霧の森大福」に使用しているのは、茶摘みの10日前から黒い布をかけて日光を遮ったかぶせ抹茶。茶葉が光を求めることで、えぐみや苦味が抑えられ、香り豊かな抹茶へと仕上がる。茶フェでのイートインは1個220円、テイクアウトは1箱8個入り1,296円。
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「フォンダンチャコラ」はほんのりあたたかいケーキから溶け出してくる、かぶせ抹茶のチョコレートが最高。フランボワーズとチョコの2種のソースで味変もおすすめ。添えられたアイスクリームとの相性も申し分なし。385円。
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小さな産地だからこそ新しい取り組みが叶う

純樹さんが淹れてくれたお茶をいただきつつ、面白い話を聞いた。新宮茶栽培の大転換期の話だ。病虫害に弱いお茶の栽培において、農薬の使用は必要不可欠。ところが、1982年、家族の一人が体調を崩し、農薬散布ができなかった。「祖父の博義は、今年のお茶はダメだろうと思ったようですが、収量はほとんど変わらず、かえって甘みの強い良いお茶ができたんです」と純樹さん。二代目と三代目斗志也さんは、無農薬や減農薬に挑戦しようと決意した。

豚糞や牛糞を使って土作りをし、雑草が生えにくいよう木の根元には、肥料にもなる山草を敷き詰めた。さらにはクモや蜂、てんとう虫を、害虫の捕食者とするべく生態系を構築した。農薬に頼らないお茶作りが完成するまで、10年の歳月を費やした。「祖父や父の考えに、他の生産者さんも理解を示してくれたことが良かった。新宮は小さな産地。だからこそ、一丸となってことに当たれたんです」。

今、純樹さんも山峡に新しい風を吹かせようと奮闘中。日本茶インストラクターとして普及活動に力を入れ、おしゃれなパッケージに詰めたフレーバーティを開発した。「普及といっても大上段に構えるのではなく、直販所に立ち寄った人にお茶をお出しして、茶飲み話をするゆるい感じ(笑)」。適温のお茶のような交流が、心地よく感じられた。

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「ふらりと立ち寄ってくれるバイカーやドライバーが多く、一服のお茶で和んでもらえるのが嬉しい」と話す純樹さん
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右は濃厚な甘みと豊かな香りが贅沢な脇製茶場の看板商品「希物」(50g1,050円)。真ん中は秋冬におすすめの「熟成」(200g1,300円)。力強い香りと味わいの「やまちゃほうじ茶」(100g600円)は樹齢80年以上の茶の木の葉を奉じている
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パッケージにもこだわったSHINGOOD TEAシリーズは、ティーバックで味わう多彩なお茶。手軽さと選ぶ楽しみがウケている

霧の森

住所/愛媛県四国中央市新宮町馬立
TEL/0896-72-3111
定休日/月曜日(祝日の場合は火曜日)4~8月は無休
駐車場/あり

霧の森茶フェ〜ゆるり〜

営業時間/10:00〜17:00(16:30 L.O.)
HP/https://www.kirinomori.co.jp

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農業生産法人(有)脇製茶場

住所/愛媛県四国中央市新宮町馬立4630
TEL/0896-72-2525
営業時間/9:00〜17:00
定休日/無休
駐車場/あり
HP/https://waki-tea.co.jp

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※年末年始の営業状況については各施設にご確認ください。

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日本茶インストラクター脇さん直伝 お茶の淹れ方

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