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高梁市成羽美術館

左/《酒津の農夫》1914年 油彩・画布。ベルギーで学んだ光の表現や技法を日本の風土で試みた作品。絵の具をチューブから直接キャンバスに盛った力強いタッチを見ることができる。
右/《無為堂》1926年 油彩・紙。体調を崩し、医師から湿気のない家を建てることをすすめられてつくった家。戸や土間、すかし彫刻のデザインが美しい。逆光を背景に虎次郎の娘がこちらを見つめている。※展示時期についてはお問い合わせください。

岡山県
日本に印象派の画風をもたらした児島虎次郎を訪ねて

高梁市成羽美術館

西洋の模倣ではない
日本の油彩画を表現

高梁市成羽町は洋画家・児島虎次郎の生地。一般的には倉敷市にある大原美術館の礎をつくった美術収集家のイメージが強いですが、日本に印象派の画風をもたらした画家の一人です。高梁市成羽美術館はその作品や活動をいろんな視点で楽しむことができます。

成羽の旅館・仕出し業を営む家に生まれた虎次郎は、幼い頃から絵が上手でした。祖母の反対はありましたが念願かなって美術学校に入学。成績優秀で2年飛び級で卒業します。その名が一躍知れわたったのは、恩師の黒田清輝のすすめで博覧会に出品した作品が1等賞を受賞し、宮内省買い上げとなったことでした。この快挙に経済的支援を行っていた倉敷の実業家・大原孫三郎は喜び、ヨーロッパへ留学の機会を与えました。

虎次郎が目指したのは西洋の模倣ではない日本の油彩画。ベルギーで印象派の技法を学び、色の濃淡と筆致を活かして自然や人を明るく大らかに描きました。《酒津の農夫》からは真夏のギラギラした光や雰囲気が伝わってきます。キャンバスに展開された色鮮やかな色彩や光、繊細な表現を見ると、色彩画家と呼ばれたのがわかります。

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日本の画学生に
本物の西洋画を見せたい

ヨーロッパに留学した虎次郎は、当時西洋画に直接触れることが難しかった日本の画学生たちに「本物を見せたい」と思うようになり、作品の購入を大原孫三郎に願い出て収集を始めました。ちなみに孫三郎は虎次郎の勤勉な性格を気に入り経済的援助を行ったのですが、その関係は美術学校入学まもない頃から生涯続き、強い友情と絆で結ばれていました。

クロード・モネの《睡蓮》はアトリエに出向き、本人から直接購入。エル・グレコ《受胎告知》、アンリ・マティス、ゴーギャン、ロダンなど数多くの作品を数度の渡欧で日本に持ち帰りました。第1回の収集品の展覧会は1921(大正10)年に開催され、全国から人が集まり長蛇の列ができるほどの大反響。初めて見る西洋美術に画学生だけでなく多くの日本人が感動しました。その様子を見て孫三郎はさらに充実させなければと考えたようです。

どんな絵を購入するかはすべて虎次郎が選択。その虎次郎を全面的に信頼した孫三郎。2人の関係性と情熱がなければ、日本の近代洋画史の発展は違ったものになっていたかもしれません。

アート作品のような建築家・安藤忠雄設計の建築。虎次郎とモネの縁でジヴェルニーの睡蓮が株分けされ、美術館の庭で毎夏花を咲かせている。
古代エジプトの芸術性に感銘を受け、エジプト遺物の収集も行った。写真は念願のエジプトに立ち寄ったときのもの。
1920年。気難しいことで知られるモネが虎次郎には好意的だった。ジヴェルニーにあるモネ自邸の睡蓮の庭にて虎次郎撮影。

ヨーロッパで多くの画家と交流

渡欧した虎次郎は、大都会のパリではなく郊外のグレー村が気に入りました。しかし大きな影響を受けたのはベルギーの美術アカデミー。ここで印象派の技法を学び、校長の紹介でフランスを代表する画家のアマン・ジャンと出会い、それがきっかけで多くの画家と交流するようになりました。モネもその一人です。カメラ好きの虎次郎は、多くの友人や画家と過ごした時間を写真に残していて、そのコレクションのデータもこの美術館が所蔵しています。 写真/海外渡航の旅券用に撮られた若き日の虎次郎。1908(明治41)年、神戸港からパリへ旅立つ。

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白馬会が吹かせた
日本洋画の新風を鑑賞

現在開催中の特別展「白馬のゆくえ」では、黒田清輝らが中心となり、日本洋画に新風を吹き込んだ白馬会の作家の作品を紹介。それまでの日本洋画が歴史上の出来事など固い主題で暗い表現だったのに対し、自由な作風で自然の光や空気感を活かして描くことを奨励し、児島虎次郎も刺激を受けました。次代を切り開いた作家たちの感性に触れることができます。

「白馬のゆくえ―
近代日本洋画の黎明」
9月5日(土)~
11月29日(日)

黒田清輝や久米桂一郎たちを中心に、白馬会で活躍した画家と児島虎次郎など、同時代を生きた画家の代表作を展示。日本洋画の黎明期の新鮮な息吹を感じられます。

イチオシ!ミュージアムショップ

メジェドきんちゃく 1,100円
当館のエジプトコレクションにちなんだオリジナルグッズ。メジェドはエジプト神話に登場する神。
一筆箋 385円
虎次郎の抜群の描写力を感じられる作品《登校》が一筆箋に。着物姿の姉妹の表情が可愛い。
DATA 高梁市成羽美術館

住所/岡山県高梁市成羽町下原1068-3 TEL/0866-42-4455 営業時間/9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日/月曜日(祝日の場合は翌日)、12/28~1/4、展示替え期間、臨時休館2021/2/8~3/31
料金/一般1,000円、小中高大生500円※展覧会により異なる。 駐車場/あり

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岡山県
大原美術館へ珠玉のコレクションを見に行こう

大原美術館

大原美術館は児島虎次郎が亡くなった翌年の1930(昭和5)年、その業績と収集したコレクションを公開するために孫三郎の手によって設立されました。日本最初の西洋美術中心の私立美術館で、虎次郎が収集した作品を核に、その後も収集が続けられ、西洋や日本の近代から現代まで幅広いジャンルの作品を鑑賞できます。

倉敷美観地区
DATA 大原美術館

住所/岡山県倉敷市中央1-1-15
TEL/086-422-0005
営業時間/9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日/月曜日(祝日の場合は翌日)、12/28~31
料金/一般1,500円、小中高生500円
駐車場/なし

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