
面河山岳博物館から続く遊歩道から、幻想的なまでに美しいエメラルドグリーンの水が見える。
あまりに水が透き通っていて深さがわからないぐらい川底がくっきり見える。透明な水は場所によってエメラルドグリーンに輝き、仁淀ブルーとは違う美しさだ。
面河渓ははるか昔の地球の営みを体感できる場所。変化する岩の景観に痕跡をたどれ、水の美しさにも関係しているから見逃せない。
散策は面河山岳博物館から始めよう。このあたりは三波川帯(さんばがわたい)と呼ばれる約1億年前にできた緑色の変成岩(へんせいがん)が土台になっている。だから川床に緑の岩が多く、エメラルドグリーンが際立って見えるのだ。
ところが5分ほど歩いて錦木(にしきぎ)の滝に来ると雰囲気が変わり、岩が黒くなる。約1500万年前に現在の石鎚山周辺で火山活動が起こり、三波川帯の上に火砕流(かさいりゅう)が堆積した。滝から上流は火山灰が固まった黒い凝灰岩(ぎょうかいがん)なのだ。板状の割れ目や、水や石で浸食された深い谷が山水画の世界をほうふつさせる。
さらに上流に行くと、白い岩が多くなった。マグマが地下深くでゆっくり固まった花崗岩(かこうがん)が地表に露出しているのだ。花崗岩の一枚岩が高さ約100m、横幅200mにわたってそびえる亀腹(かめばら)は、スケール感に圧倒される。河原に下りて、白く滑らかな岩肌をさらさら流れる水に足をつけてみた。驚くほど冷たい。ここは川が生まれ出る石鎚山のすぐ麓なのだ。この大自然をもっと感じたくなった。
「自然だけでなく、歴史、文化などの話も交えて面河渓の魅力をご案内します」と松本勝さん。
面河渓はコケの宝庫。地面や岩、倒木、遊歩道の欄干にまで緑のじゅうたんを広げている。 樹木にぶら下がるように生えるコケを見られるのも、空気中の湿度が高い深い谷ならでは。 500種類以上が生息すると考えられ、詳細は面河山岳博物館で調査中だが、近づいて観察するとさまざまな色、形、手触りを楽しめる。
面河渓散策は、遊歩道の入り口にある面河山岳博物館に立ち寄ってからスタートするのがおすすめ。石鎚山や面河渓の誕生の過程や、豊富な生物が紹介されている。
どこからか鳥のさえずりやカエルの鳴き声が聞こえてくる。愛らしい草花やチョウにも出会える。面河渓を歩いていると、どんな動物や昆虫がいるのか、どんな草花が四季を彩るのかを知りたくなる。
それを教えてくれるのが面河山岳博物館だ。約3000点もの資料が展示され、石鎚山系や面河渓の誕生の歴史を岩石を見ながら学べ、昆虫の標本や植物模型などから種類や特徴を知ることができる。
感動するのはジオラマ。ムササビ、テン、クマタカ、ヤマドリをはじめ、希少なニホンモモンガやニホンカモシカなどのはく製が、森にいるかのような姿で展示され、こんなに生き物がいるのかと驚かされる。夜行性でめったに会えない天然記念物のニホンヤマネもいるという。
ここで知識を手に入れ、実際に散策しながら見て、姿を想像することで自然の豊かさをより実感できる。知りたい意欲もどんどん高まって季節を変えて訪れたくなった。
面河渓の自然だけでなく、石鎚山の山岳信仰や登山についても紹介。祭礼「お山開き」の様子が石鎚山のパノラマ模型で描かれ、石鎚山系の壮大なスケールの中に面河渓があることもわかる。