
三津の渡しは、松山市道高浜2号線の一部。7時〜19時に随時運航し、年中無休(荒天時運休)、乗船料は無料。室町時代からの歴史があり、小林一茶も乗船したとか。
愛媛県松山市の中心部から西へ。瀬戸内海に面した三津浜地区は、松山の海の玄関口として栄えた港町。吹く風には潮の香りが混じり、入り組んだ路地や古びた建物がノスタルジックな雰囲気を漂わせている。三津浜商店街は30年ほど前から停滞期に入り、シャッターを下ろす商店が相次いだ。だが近年は、昔ながらの古民家や商店、倉庫などを改装した飲食店が増えており、地元客や観光客に人気。とりわけ三津浜の内湾約80mを往復する渡し船「三津の渡し」は、風物詩ともなっている。映画やドラマのロケ地になることも多い。
三津浜地区の新規開店の火付け役となった1人を訪ねて、商店街の真ん中あたりを訪れた。迎えてくれたのは「島のモノ 喫茶 田中戸」の田中章友さん。三津浜の沖合に浮かぶ怒和(ぬわ)島出身の田中さんは、18歳でアメリカに留学。帰国後は日本全国で食に関わる仕事を経験した。島に渡る手前にある三津浜で店を開いたのは2010年。もともとスポーツ用品店だった建物をリノベし、夏は自家製シロップのかき氷で通りに行列をつくる。ユーモアたっぷりの飄々とした人柄ながら、たまの一言がちょっと哲学的だったりもする田中さん。ふわふわとした食感のかき氷にかける自家製ジンジャーシロップのように、心地よい刺激を感じさせてくれる人だ。
住所/愛媛県松山市住吉2-8-1
TEL/090-6280-3750
営業時間/11:00〜18:00
休み/水曜
駐車場/あり
Instagram/tanaka_do
削り方にこだわって、ふわふわに仕上げたかき氷。
右は果肉感を残した内子町産の“キウイ”(900円)、
左は怒和島の生姜でつくる島の“スパイスィージンジャー”(750円)
シャビーな構えのベーカリーカフェ「N’s kitchen**&labo」(エヌズキッチンアンドラボ)は、築40年の金物屋をリノベして2011年にオープンした。開業のきっかけは、店主の小池夏美さんが趣味のパンづくりにのめり込んだこと。やがてイベントなどに出店し始め、腕を磨きながらファンを増やしていった。そんな夏美さんを支えるのは、カフェ担当の夫の晢さん。夏美さんのパンや焼き菓子と、晢さんの淹れるコーヒーを目当てに開店前から行列ができる人気店となった。
売り場に並ぶパンは、どれも独創的。研究熱心な夏美さんのこだわりがギュッと凝縮されている。どれを選んでも満足すること間違いなしだが、N’sを代表するパンといえば、コーヒーアイシングをトッピングしたシナモンロール。大ぶりでずっしりとしているけれど、気づけばペロリと食べられる。サンドイッチやパニーニなど食事系パンも充実しており、ついつい買いすぎてしまうかも。店頭の自動販売機もぜひチェックを。
住所/松山市住吉1-3-33
TEL/090-8979-1520
営業時間/12:00~16:00
※売り切れ次第終了
定休日/不定休
駐車場/あり
Instagram/nskitchen_labo
三津浜地区のご当地グルメといえば、ちくわや削り粉、牛脂などが入ったお好焼き。「三津浜焼き」と呼ばれており、界隈の提供店は20店にものぼる。そばやうどんなど「台付き」であることから、広島風お好み焼きに似ているが、半分に折って半月型に仕上げるのが特徴。こぢんまりとした店構えながらも次々と客が訪れるのは「お好焼き みよし 駅前店」。大きな鉄板前に陣取れば、焼き手を務めるお母さんの見事なコテさばきを見ることができる。お子さん連れやグループ客におすすめのテーブル席があるのも嬉しい。焼きたてを頬張れば、薄い生地にカリッと焼けた麺、甘みたっぷりのキャベツの組み合わせが絶妙。
住所/松山市住吉1-4-17
TEL/089-952-3262
営業時間/10:00~18:30
定休日/無休
駐車場/近隣有料P利用
三津浜地区で移住や新規出店をサポートしているのが、空き家バンク事業を行っている「ミツハマル」。そのオフィスがあるのは、大正時代の建物を活用した旧濱田医院だ。荒れ果てた建物を2年間かけて改装し、2016年に「古民家デパート」と銘打って、テナントの受け入れを開始した。2023年に「フィナンシェ専門店crelo(クレロ)」を開いたのは、村上慎さん、美由紀さん夫妻。美由紀さんは子どもの頃からお菓子づくりが好きで、特にフィナンシェは周りからも好評だった。「せっかくだったらフィナンシェ専門店をやってみない?」と慎さんが勧めて、開業に至った。国産バターとフランス産アーモンドプードルを贅沢に使用したフィナンシェは、プレーンやアールグレイなどの定番に加え、季節のアレンジ商品も。また、専門店ならではの「焼きたてフィナンシェ」は食べ歩きにぴったり。潮風に吹かれながら味わえば、美味しさもひとしお。
住所/松山市住吉2-2-20 旧濱田医院1F
TEL/0893-24-1146
営業時間/11:00~16:00
※売り切れ次第終了
定休日/月・木・日曜
駐車場/あり
HP/https://crelofinancier.com/
三津浜生まれ、20代後半で海外放浪の旅へ出た徳永孝さん。「イタリアのフィレンツェでは、ホームステイのような形で一般家庭に滞在しました。その家のマンマの手料理がボクの原点」と話す。とにかく時間だけはあったという徳永さんは、マンマにくっついて見よう見まねで料理を習い覚えた。「でも、テクニックよりも考え方、生き方を学べたことが大きい」と話す。
マンマは、パンやドレッシングはもとより、オリーブオイルやチーズなどつくれるものはすべて自家製。そしてハーブは自家の畑から、魚介類は地元の市場でと、素材を身近なところから調達していた。その精神を学んだ徳永さんは、帰国後の2003年に「FLOR」(フロア)を開業。店は母親が営んでいた喫茶店「アルプ」の2階、セルフビルドで内装を仕上げた。以降、長く2階の店として愛されていたが、2年前に1階へと移動。徳永さんのお母さんが大切にしていたこの場所で、新たなスタートをきった。
潮風、豊富に獲れる魚介類や柑橘、街角を自由に歩く猫。彼を料理人へと導いてくれたイタリアと三津浜は、どこか似ている。今日も徳永さんはイタリアのマンマが教えてくれた料理を、自身の母親(マンマ)が愛していた場所で提供している。
住所/松山市住吉1-5-1
TEL/089-952-1454
営業時間/11:30~13:30(L.O.)、18:00~20:00(L.O.)
定休日/火曜
駐車場/あり
HP/https://sites.google.com/site/trattoriaflor/
※掲載価格などは、変更される場合がございます。