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うみかぜ紀行

ミルク仕立てのドライブ・スイーツ

玉岡かおる・文

「スイーツ」という言葉はいつから普及したのだろう。巧い表現である。ここには饅頭もショートケーキも、冷たいアイスクリームも温かいぜんざいも、甘いものなら全部ひっくるめられてしまう。

だからドライブしていてサービスエリアや道の駅で休憩を取るとき、

「何がいい?」

と訊かれてお茶にしたいなら、とりあえず、

「スイーツ」

と答えたらいいから便利。この一言で、イカ焼きやバーガーなどのがっつりソース系でないと表明できる。しかも最近ではこのカテゴリはとても充実しており、冷たいものだけでもアイスクリームにソフトクリーム、ジェラートにかき氷と多種多様。

だが、単にソフトクリームを指名しても

「何にする?」

とふたたび訊かれる悩ましさ。昔はソフトクリームといえばバニラに決まっていて、チョコとミックスがあれば御の字だったのに。今や、抹茶やストロベリー、マロンなどはまだオーソドックスなほう。観光地に行けば、史跡のイメージを洋風にしないようにとの配慮からか、和の素材を使い、黒ゴマや紫蘇、ほうじ茶のソフトなんていうのも珍しくない。また、その土地の特産ということで、とうもろこしソフトに梅ソフト、わさびソフトに黒豆ソフトと、和と洋のハイブリッドのラインナップだ。さらに、醤油ソフト、塩ソフトに味噌ソフトとなってくると、もはやスイーツの概念から離れ、独自の道を行く感じ。まっ黒なイカスミソフトやシシャモソフト、なんていうのをみつけた時には仰天したなあ。

だがまだまだ大胆なラインナップに、テンションは上がる。

高知では旬限定で焼きなすアイスがあるし、広島ではキーマカレーを添えたカレーソフト、岡山では桃やマスカットではあきたらず、赤唐辛子でトッピングした赤鬼ソフトなるものまで出現した。どう見ても、もう甘さを意味する”スイーツ“を超えている。

素材もアイデアも、より独創的なイメージで突っ走る豊かな現代。ミーハーな私は、珍しいソフトがあると、すぐどんな味か試してみたくなるが、その一方で、子供の頃から食べ慣れたミルクの味がするソフトクリームも捨てがたい。どんな仕掛けも狙いもなく、ただシンプルに、冷たさと甘さを万人に提供する幸せな味。スイーツのホームポジションとでも言うべきか。

しかしあらためて気づくのは、いずれもその味は原料であるミルクに由来していることである。

子供たちが小さい頃、蒜山高原へのドライブでは必ずサービスエリアで買わずに帰れなかった味があったのを思い出す。そう、発泡スチロール箱に詰めてもらうアイスクリームと、瓶入りの牛乳だ。給食が脱脂粉乳だった世代だからか、乳脂肪分の高いジャージー牛乳のあの甘さは、幸せという言葉そのもの。それはまさしくスイーツの原点ではないか。

おかげで子供がすっかり巣立った今も、ドライブ途上、わざわざ車を降りて、自分のために一瓶、買って帰る。健康的なその甘さは、子供のように元気を回復させてくれそうだ。

挿絵

PROFILE

玉岡かおる
作家。兵庫県在住。1989年、神戸文学賞受賞作『夢食い魚のブルー・グッドバイ』(新潮社)でデビュー。著書多数の中、『お家さん』(新潮社)で第25回織田作之助賞。文筆のかたわら、テレビコメンテーター、ラジオパーソナリティなどでも活躍。