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せとうち美術館紀行 第8回 徳島県立近代美術館

近現代美術の多彩な魅力を堪能

徳島県立近代美術館に関しての対談6

ボランティアで美術館にかかわる人も多い

山木:
こちらにはボランティア組織がありますね。大学生が多いのですか。

江川:
何年か前は大学生の比率が多かった時期がありましたが、一般社会人の方も多いです。ご高齢の方もいらっしゃいます。

山木:
そうですか。どういう形なのか教えていただけますか。

江川:
友好団体として、完全に美術館から独立した組織になっています。

山木:
ミーティングの場所などは提供しているわけでしょう。

江川:
もちろんです。

山木:
どんな活動をされているのですか。

対談イメージ

館長:
もともと美術館で遊びたい、美術館を使っていろんな楽しいことをしようということから始まっています。美術館のイベント時のお手伝いもしてくださいます。この前は文化の森総合公園の秋祭りで、子どもたちに美術館の作品を切り抜いたり、色を塗ってもらったりして紙相撲にして遊ぶということをしました。その事前の準備段階を全部お手伝いいただきました。アイデアもその人たちから出てきて、当日もお手伝いいただきました。

山木:
活動は1ヶ月に1回ですか。

館長:
1ヶ月に2回定期的に会合をもち、イベントのためにどういうことをしようかと自主的な研修会をしたり、自分たちのレベルアップもしたいということで研修に出かけたり、ということをされています。

山木:
企画展に合わせた活動もされていますか。

館長:
今メンバーも減っていますのでそこまではできていないですね。

江川:
回数を決めているわけではありません。最近は年1、2回一緒に活動し、ボランティアの方たちが自主的に企画したイベントを美術館でやっていただき、美術館を盛り立ててくださっています。

山木:
なんていう組織ですか。

館長:
ビボラボです。

山木:
何人ぐらいいらっしゃるんですか。

江川:
流動的で、だいたい30人前後ですね。

山木:
学芸員がそこにかかわって企画展の話をするといった橋渡しはないのですか。

江川:
もちろん毎回会合には美術館からも人が出ております。ボランティアの方々からも「こんなことをやりたいと思うけれどできるかな」「こういう道具を使わせてもらえるかな」という相談がありますから。ただ企画展ごとにという発想ではないんです。

山木:
なるほど。他にもボランティア活動はありますか。

森:
「魅力発見!わたしたちの美術館」という展覧会では、ビボラボとは別にボランティアさんにかかわってもらって準備をするなどいろんな形で活動を展開しています。

山木:
ビボラボだけではなくていろいろなボランティアがかかわってくれているということですね。

江川:
はい。他の美術館だったらポスターの発送作業を手伝うボランティアや、ギャラリートークを毎回やってくださるボランティアとか結構ありますが、うちの場合はもっと自主的な形でかかわっていただこうという発想なんです。ビボラボというボランティア組織は歴史があり、美術館とつかず離れずではないですが対等な形でお互いに助け合う感じでやってきました。 先ほど森が言った「魅力発見!わたしたちの美術館」で手伝ってくださったのは、イベントごとに「こういう仕事があるので手伝ってくれませんか」と呼びかけて集まってくれる人たちで、1回限りのボランティアだったりします。

山木:
なるほど。

サイトを充実させ、有用な情報を提供

山木:
美術館の利用の仕方の一つとして、こちらでは美術館サイトの充実さもあげられると思います。いろいろな作家の名前や作品のコンセプトから、技法など、かなり体系的にきっちり紹介されています。また、展示を企画した学芸員のエッセイも掲載されています。これらを総合的に読んでいると、一般市民の美術愛好者や大学生、高校生あたりにすごく有用な情報をたくさん提供してくれているなと思います。

対談イメージ

江川:
徳島県の美術記事の一覧もあるんですよ。

山木:
そうなんですか。

江川:
はい。開館以来つくっている切抜き帳や新聞記事のデータベースを一般の方々が利用できるようになっています。

山木:
アクセス数の分析などもなさると、意外と県外の方も多いんじゃないですか。

江川:
多いですね。海外からのアクセスもあります。

山木:
そうですか。サイト全体がわかりやすくて、比較的調べやすいと思います。そして、こちらの美術館が提供している情報量と匹敵するのは、ウィキペディアを除けば、大日本印刷株式会社が運営している「アートスケープ」(artscape)ぐらいだろうと思います。地方の県立美術館としては、際立った質の高い情報提供をされてますね。

江川:
ありがとうございます。

山木:
ひとつの県立美術館でありながら志が高いといいますか、徳島県立近代美術館のことを考えると、イギリスのテイトギャラリーのあり方と近いなと私はいつも思うんです。教育というものを非常に重視して、サイトの充実と実際のプロジェクトを関連づけようとしている。学芸員も教育に対する熱意が非常にあって、教師教育や学校との連携を図ろうとしている。テイトギャラリーが成功したのは、そういう教育に対する熱意の方向づけをネームバリューとうまくつなげたからだと思います。テイトギャラリーは、開館当時から一般市民のために、教育普及のために非常に力を注いできた美術館で、他の優良な美術館とは違う出発の歴史を持っているんですね。徳島県立近代美術館も教育力が非常に充実していますから、それが世界的なネームバリューとつながってくる機会があるのではないかと思います。

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