
左/奥田元宋《白嶂》1987年。縦213cm×横582cmの大作である《紅嶺》は立山連峰がモチーフとされている。元宋は赤い岩絵具を塗り重ねた作品を多く描いた。《白嶂》は三陸海岸がモチーフとされ、山の背後から上る月が印象的。
右/奥田元宋《紅嶺》1987年
日本画家の奥田元宋と人形作家の奥田小由女。それぞれの作品の世界観はもちろん、この夫妻ならではの穏やかな空気感を体感できるのが、その名を冠した美術館です。夫妻は「ふたりの美術館」をつくることを長年の夢とし、作品が散逸しないように大切に保管して故郷の広島県三次市に寄贈しました。
常設展示室では、年間通して2人のさまざまな作品を堪能できます。圧巻は、元宋の代表作《紅嶺》と《白嶂》。「元宋の赤」と呼ばれる鮮烈な赤で山を描いた《紅嶺》は、激しくも温かな自然の美にのみこまれ、一歩も動けなくなるほど。隣には対照的に月明かりに照らされた断崖絶壁の山を描いた《白嶂》が並べられ、静寂の中の凜とした美しさに引き込まれます。この美術館には元宋の初期の作品からあり、戦前は人物画や花鳥画などを中心に制作し、戦況悪化で三次に戻ってからは自然を描き始めた作風の変化を楽しめます。
夫人の奥田小由女は、初期の頃は白を基調とした抽象的な造型作品で注目を集めました。元宋と結婚前後から色彩豊かな女性像へ変化。その優美さに見惚れてしまいます。元宋が亡くなって制作された《月の別れ》には夫への思いが込められ、胸が熱くなります。
2人の作品以外に、幅広いラインナップの企画展も見逃せません。空間の贅沢さも魅力で、随所に緑や自然光が取り入れられ、壁に庵治石が使用されるなど表情豊かです。おすすめはロビーからの眺め。池の水面に周囲の景色が映る様子が美しく、夜は格別。元宋の作品に出てくるように、山の背後からのぼる月の姿を時期が合えば見ることができます。満月の夜は21時まで開館し、コンサートも開かれ、幻想的なひとときを楽しめます。