徳島は、四国山地や讃岐山脈といった山に囲まれながら、太平洋にも面する、表情豊かな土地。そんな徳島の秋祭りに欠かせないのが「ボウゼの姿寿司」です。ボウゼは関東ではイボダイ、関西でウオゼと呼ばれる魚で、秋が旬。さっぱりと上品な味で、すだちを添えると風味がぐっと豊かになります。
県栄養士会・会長の原田満智子さんは、「ボウゼの姿寿司は、秋祭りのごちそうでした。塩焼きや煮物、干物にしても美味しい魚ですが、姿寿司にするのは徳島の特徴ですね」と話します。農産物の豊かな徳島では、今も収穫祭として、祭りの風習が残っており、県内各地で秋祭りが行われています。「親戚のお祭りにお呼ばれして、お土産としてもらうことも。甘酒が必ずセットになっていて、それも楽しみでした」。
ボウゼは、今では県南の太平洋側の港でよく獲れますが、「その昔、讃岐(香川県)に近い海で獲れたボウゼを塩漬けにして、樽詰めされたものが、阿讃山脈(讃岐山脈)を越えて伝わったようですよ」と原田さん。県境に連なる山々を越えて、讃岐から阿波へボウゼが運ばれたのは200年以上も昔、江戸時代の頃です。「普段は、宮川内の大家〝小判屋〟一軒にしか立ち寄らなかった商人が、秋祭りの時期に限り、農家を一軒一軒まわって、ボウゼを売ったと伝えられてます」。
大名、農民ともに質素倹約な暮らしをしていた阿波の国。ハレの日のごちそうの魚として、心待ちにされていたことでしょう。このボウゼを丸ごと姿寿司にして、親類へ配ったり、だんじりを担ぐ男衆にふるまったりされてきました。そんな光景も少なくなっていますが、「今でもお祭りだから作ろうか、という人もいますよ。子どもの頃の思い出が蘇るんですね」。
故郷の味、懐かしい母の味として、今も人々の記憶に残るボウゼの姿寿司。実り豊かな秋に、旬の味を求めて訪れる人もいます。
- 阿波人形浄瑠璃が上演される、犬養の農村舞台
(徳島市八多町・五王神社) - (写真上)手製の花笠が美しい宅宮(えのみや)祭り
(徳島市上八万町・宅宮神社)
(写真下)関船(せきぶね)(海部郡海陽町・大里八幡神社)