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情報誌「瀬戸マーレ」

地元通と歩く瀬戸内 【神戸淡路鳴門エリア】灘・篠山の伝統の酒文化

灘・丹波の酒造りに新たな光 震災・水害からの復興へ

震災から15年を迎えた灘に、水害を受けた丹波。
苦境を経て、酒蔵は今、復興をとげています。

江戸時代から続く灘五郷
阪神大震災で倒壊

西宮から神戸にかけての沿岸部に広がる灘五郷。
この地域で酒造りが盛んになったのは、江戸後期から。六甲山系から流れる伏流水が湧き出た宮水や、優良な酒米があり、背後の山がもたらす気象条件と、丹波杜氏や但馬杜氏らの技によって、全国屈指の酒どころとして発展してきました。今でも全国日本酒出荷量の約3割が、製造されています。

そんな歴史ある灘の地も、1995年1月の阪神淡路大震災で多大なる被害を受けました。灘は御影郷にある(株)神戸酒心館の福寿蔵では、震災で木造酒蔵がすべて倒壊。「タンクも倒れて、ビンづめ工場も全壊しました」と、同社副支配人の湊本雅和さん。寒い冬の朝のこと、仕事を始めていた時刻でした。幸い、当時の杜氏をはじめ、蔵人はすべて無事で、「がれきの中から声が聞こえたときは、泣くほどうれしかったと、聞いてます」

製麹室
製麹室。酒づくりの要となる麹を作っています

酒造りを中心としたコミュニケーションのスタートへ

壊れた蔵から手作業で木材を取り出し、新たに「神戸酒心館」として生まれ変わったのが、震災の翌々年の12月。
酒造りを行う福寿蔵を中心に、販売店舗の東明蔵ほか、「醸造だけでなく、お酒と文化を楽しんでいただきたい」と、コンサートスペースの豊明蔵、会席料理を提供する水明蔵と合計4つの場を生み出します。社名も「福寿酒造株式会社」から、「株式会社神戸酒心館」とし、新たなスタートを切りました。
日本酒とその文化を創造する本格酒蔵を目指して、「酒蔵見学はもちろん、酒米の田植えから稲刈りを一般参加で募集するなど、酒造りについて広く知ってもらう努力をしています」。さらに、「蔵人だけでなく、販売からレストランスタッフまで、社員がすべて酒の文化に携わるという、スタンスです」と、力を合わせて頑張っています。
こうして、酒造りだけにとどまらない、新たなコミュニケーションの場「神戸酒心館」が生まれたのです。

「株式会社神戸酒心館」館内
「株式会社神戸酒心館」館内
株式会社神戸酒心館

山田錦と宮水を使った、清酒「福寿」の“利酒セット”500円(写真右)。宮水は、1840年に桜正宗の山邑太郎左衛門が発見した硬水で、灘の酒造りに欠かせません。
蔵見学は、湊本さん(写真左)の独特の語り口で楽しく説明してもらえます。


住所/神戸市東灘区御影塚町1-8-17
TEL/078(841)1121
営業時間/東明蔵=午前10時~午後6時
休み/年始 入館無料
※蔵見学は、冬季と夏季
午後2時より約1時間、前日までに要予約
※田植えを行う酒造り体験は、随時問い合わせ受付中

(写真左)同社副支配人の湊本雅和さん(写真右)清酒「福寿」の“利酒セット”500円

日本酒文化の良さを広めたい

新しい試みを行いながら、「麹は手作りです」と誇る同蔵の日本酒。日本古来の酒造りで、守るべき伝統を大切にする、従来の姿勢は今も変わりません。東明蔵・水明蔵では、自家製の蔵豆富も用意。古くから、酒とともに親しまれてきた豆富を、毎朝手作りしています。
国産大豆に、水はお酒造りと同じく、上質な水を使用しているので、日本酒と良く合うといいます。


実はソムリエ出身という湊本さんに、日本酒の魅力をたずねたところ、「幅広い料理との相性の良さですね。料理の個性が強くても、懐の深い、聞き上手な面が日本酒にはあります」。日本酒初心者や女性には、発泡性の「あわ咲き」や、7%と低アルコールの「米米酒(こめこめしゅ)」がおすすめ。「お米の甘みと乳酸の酸味で、甘ずっぱさが好評ですよ」

震災後も息づく
灘の酒造り文化

清酒・大黒正宗で知られる安福又四郎商店でも、震災の被害は甚大でした。現・杜氏の高木槙夫さんは「木造の蔵はすべて潰れました」と、当時の様子を話します。タンクも倒れて大変だったと言い、「残った酒やもろみの処理をし、電気や水道が戻ったのは2ヶ月後の3月でした」。
そして、残っていた米で再び酒造りを始めたと言います。
蔵は減りましたが、「地元の人に手作りの酒を提供したい、その想いから今があります。地元のお米、山田錦に兵庫夢錦、そして灘の銘水・宮水といった、ここでしか作れない酒を作り続けたい」と語ります。

震災後に出来た縁もあるといいます。その一つが、新しい銘柄の紅天女。「紅天女は、ご存知、人気漫画の『ガラスの仮面』に出てくる幻のお芝居。作者・美内すずえさんとの出会いから生まれました」と、同社の山田有紀さん。また、大黒正宗の筆字を、香川県出身の書家・小林芙蓉さんに描いてもらうことになったのも、震災以後のことです。「より力強さをアピールしています」と山田さん。酒を介して、人とのつながりが生まれています。

大黒正宗のファンは多く、「酒屋さんと連携し、ファン主催の交流会もあります」。たくさんの人の力をもらって、灘の酒は今も息づいています。

酒造り歴43年の高木さん
酒造り歴43年の高木さん。もとは酒造技師で、先代の丹波杜氏から杜氏を引き継いだのは11年前
株式会社安福又四郎商店

物語に登場する、梅の木の精「紅天女」をモチーフにした清酒(写真右)。同蔵の古い写真に写っていた、梅の古木と似ていたのを見つけたのがきっかけ。
現取締役の安福晴久さんと専務の安福啓子さん(写真左)。


住所/神戸市東灘区御影塚町1-5-10
TEL/078(851)0151

(写真左)現取締役の安福晴久さんと専務の安福啓子さん(写真右)物語に登場する、梅の木の精「紅天女」をモチーフにした清酒

丹波の地で育む
若手パワーが生み出す酒

その昔、灘を支えた丹波杜氏で知られる酒どころ、丹波。山に囲まれた地形は、神戸から車で1時間半、驚くほど自然が豊かな土地です。

嘉永2年(1849年)創業の西山酒造場では、2004年の台風23号により、被害を受けました。「事務所が水に浸かり、復旧作業に一週間かかって大変でした。幸い建物自体は無事でしたが、冷蔵庫が止まったのには困りました」と同社の稲上芳郎さん。スタッフが一丸となって復旧作業に徹し、大変な経験を経て、結束が固くなったとも言います。

現・杜氏の八島公玲さん始め、現在の蔵人は、20~30代の若手が大半を占めています。丹波に限らず、全国から集まったスタッフは、「良いお酒を作りたい、そんな思いを持った人ばかり。海も山もある、兵庫県という土地で生まれた、美味な水、優れた米。何より人の心の温かさが、この土地の魅力ですね」と八島さん。

酒造りはまず水を知ることから。それには5年はかかるそうで、敷地内の井戸も「毎月1日と15日の神事を欠かしません」。周りに砂利を敷き詰めて、大切にしています。その上で、新商品にも積極的に取り組んで、この地ならではの味を追求しています。

井戸
若手の蔵人たち
若手の蔵人たち。力を合わせています

高浜虚子が命名した「小鼓」

同蔵の清酒・小鼓。命名したのは俳人の高浜虚子です。「先々代の社長が門下生だったようです。西山泊雲と言い、その弟も泊月という俳号がありました」。虚子は、「ここに美酒あり 名付けて小鼓といふ」と言い、主屋には文人やホトトギス門下生が集ったといいます。文人にも愛された日本酒。丹波の文化サロンとして、華やいだことでしょう。

高浜虚子が命名した「小鼓」
株式会社西山酒造場

瓦ぶき木造二階建ての主屋(写真右下)は、国の登録有形文化財に登録。
小鼓の最高峰の酒、「路上有花」と「天楽」は、大和の女性をイメージさせる、やさしい女性的な味(写真左下)。

住所/兵庫県丹波市市島町中竹田1171
TEL/0795(86)0331
※蔵見学は、11月下旬~3月中旬。
午後2時から約1時間、前日までに要予約

(写真左)小鼓の最高峰の酒、「路上有花」と「天楽」は、大和の女性をイメージさせる、やさしい女性的な味(写真右)瓦ぶき木造二階建ての主屋
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見どころ

●蔵の料亭さかばやし(神戸酒心館内)

酒蔵の雰囲気の中で、蔵出しの酒や旬の料理を味わえる、蔵の料亭です。


住所/兵庫県神戸市東灘区御影塚町1-8-17
TEL/078(841)2612
営業時間/午前11時30分~午後2時LO、5時30分~9時LO
休み/年末年始


蔵の料亭さかばやし(神戸酒心館内)
●櫻宴(桜正宗記念館内)

別棟の酒蔵で、しぼり立て原酒など、種類豊富なお酒と、和風料理を楽しめます。


住所/兵庫県神戸市東灘区魚崎南町4-3-18
TEL/078(436)3030
営業時間/午前11時30分~午後2時LO、5時~9時LO
休み/火曜


櫻宴(桜正宗記念館内)
●白鹿クラシックス(ショップ、レストラン&カフェ)

江戸、明治に建てられた土蔵で、昼はイタリアンや吟醸ビーフカレー、夜は和洋創作料理を味わえます。


住所/兵庫県西宮市鞍掛町7-7
TEL/0798(35)0001
営業時間/午前11時~午後10時(9時LO)
休み/火曜


白鹿クラシックス(ショップ、レストラン&カフェ)
●蔵BAR(白鷹禄水苑内)

金・土・日曜、祝日限定のバー。
蔵出し限定酒に、酒の肴も用意された、落ち着いた空間。


住所/兵庫県西宮市鞍掛町5-1 TEL/0798(39)0235
営業時間/正午~午後4時30分
スタンディングバーについては、~午後6時30分
禄水苑定休日を除き毎日営業


蔵BAR(白鷹禄水苑内)
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