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情報誌「瀬戸マーレ」

徳島メルヘンの旅へ

阿波の国からグリム童話の世界へ変身!

吉野川の流れる徳島。
その流域、東は鳴門市から西は阿波市へと、小さな孫娘を連れて遊びに出かけた。
車であちこち回る、グリムメルヘンになぞらえた旅。
童話絵本のページをめくるように、この土地の魅力を伝えたい。

メルヘンが広がる遊歩道

困った。神戸に住む娘夫婦から、孫娘を預かることになったのだ。私の妻も旅行中。それなら私が孫を独占できる!この機会に、徳島の良さを教えてあげよう、と意気込んではみたものの、さて小学生の子どもをどこへ連れて行こう?

娘から「ウチの姫をよろしくね」と言われて思いついた。そうだ、あそこだ。

車に乗せて着いたところは、鳴門市役所にほど近い「グリムメルヘンプロムナード」。川辺りの道が、実にファンタジックな光景なのだ。

撫養川親水公園の一環であるこの遊歩道には、グリム童話をモチーフにした石造りの立体壁画が連なっている。物語のシーンの再現に、絵本の好きな孫娘は、「赤ずきんちゃんだ!」と叫ぶと、スキップしながら水辺の道を駆けていった。

よしよし。他にも白雪姫にヘンゼルとグレーテルなど、よく知っている話の壁画があるんだと、楽しそうだ。

「グリムってどこ?」と尋ねられ、「人の名前だよ。ドイツ人のグリムという兄弟が書いたんだ。ヨーロッパのドイツ」。ゆっくり話すと、ふうん、と神妙な顔で頷いている。鳴門市はドイツ北部のリューネブルクと姉妹都市である、とまでは説明しなかったが。そう、徳島とドイツには深い絆があるのだ。

遊歩道
 
石畳約230メートルの遊歩道
石畳約230メートルの遊歩道。グリム童話の一場面が再現されている壁画は、白雪姫など6つが並ぶ

ドイツ人から伝授された生粋のドイツパン

次に、鳴門の商店街通りから、南へ路地を入って「ドイツ軒」まで歩く。ここにあるのが、もっちりとした本場のドイツパンだ。「赤ずきんちゃんが、おばあさんに持っていくのがパン※でしょ?」と孫娘。うろ覚えなので、「そうだなあ…」と言葉を濁して陳列棚のパンをのぞいた。

ある、ある。ここには常時50種類近くのパンが並んでいる。そのうちドイツパンが7種類くらい。ライ麦が30%入った特製「ドイツ軒スペシャルブロート」は、歯ごたえもよく、ちょっと酸味があってクセになる美味しさだ。日本人の口になじみやすいよう、牛乳と6種類の穀物が入った「ミルヒコルン」も、うまい。

店の奥にあるパン工房には、店主の岡則充さんの姿が。パン窯からリズミカルに焼き立てパンを取り出しているのが見えた。

鳴門市には、ドイツとの友好の歴史がある。大正時代、第一次世界大戦の際にドイツ兵約千人が、ここ鳴門の板東俘虜収容所に暮らしていた。地元の人々と友好的に交流する中で、収容所に出入りしていた靴職人がパン作りを教わりパンの店を開業、そこからのれん分けしたのが岡さんの祖父、というわけだ。時代の移り代わりと共にパンの味も変遷し、現在3代目の岡さんから、本格的なドイツパンが加わることになった。師であるドイツのマイスター、フォルマー氏からもお墨付きの味である。我々も種類豊かな味を楽しめるようになって嬉しいことだ。

孫と二人、好きなパンを選んでレジへ。「ヘンゼルとグレーテルのお話で、パンをちぎって帰り道の目印にするとこが好きなの。小鳥さんに食べられちゃうのよね」。意外な展開が面白いらしい。パン窯を背伸びして見ている姿に、ふと、悪い魔女は窯へ突き飛ばされたのだったな、と童話のストーリーを思い出していた。

※ケーキ・お菓子の説もあり

ドイツパンの特徴はライ麦の風味
ドイツパンの特徴はライ麦の風味。乳酸菌発酵により、酸味のある味が生まれる

ドイツ軒のパン
右上から「ミルヒコルン450円」、左上30%ライ麦サワーの特製ドイツパン「ドイツ軒スペシャルブロート500円」、右下はドイツの朝食パン「ブロッチェン白105円」、左下「チーズビアシュタンゲン150円」。ドイツパンは木・金曜に焼く
ドイツ軒

レトロな店内。ドイツパンは、薄く切ってからオーブントースターで2分ほど焼き直すといいそう。野菜やウインナーを乗せて、オープンサンドにも合う。ドイツパンのほかに菓子パン、調理パンなども豊富。

住所/徳島県鳴門市撫養町南浜字東浜674
TEL/088(686)3698
営業時間/午前9時~午後7時 休み/日曜
※ドイツパンの焼き上がりは木曜と金曜の午後中心

ドイツ軒のパンドイツ軒店内
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おとぎの国で見つけたものは何?

白雪姫に赤ずきんと、童話の主人公になりきる孫娘と共に、ドイツと徳島の名産品を手にした。
歴史の流れの中で、物語は今も生きているようだ。

友好の架け橋、ドイツ館

鳴門のドイツと言えば「ドイツ館」だ。先の板東俘虜収容所に関する史料など、この地に3年を暮らしたドイツ兵と地元の人々の交流を後世に伝える記念館である。

真っ白い建物を見て、「白雪姫のお城だね」と孫娘が言う。白雪姫にお城?と考えていると、「王子様と一緒に行くでしょ」。そうであった。お城での結婚式がハッピーエンドだったか。

館内の2階には、当時の写真や日用品、模型、ジオラマなどが展示されている。本物そっくりの人形で俘虜の生活を再現するなど、ドイツ兵たちの暮らしが偲ばれる。第九シアターというスペースでは、実物大の人形が演奏を聞かせてくれた。孫も座ってステージを見つめ、「この曲、聞いたことあるよ」と言った。さすが、我が孫娘だ。

地元では有名な話で、ベートーヴェンの交響曲第九番を日本で初めて演奏したのは、ここ鳴門の板東なのである。俘虜たちの生活は人権を尊重した自由なもので、勉学やスポーツのほか、音楽や演劇なども盛んだった。仲良く、地元の人々と演奏会を開いている写真もあり、実に楽しそうだ。

1階では、子どもの喜びそうなドイツの人形やおもちゃ、お菓子などが並んでいた。嬉しいことに、ドイツビールやワインも揃って、私もつい手が伸びる。

外に出て、隣接する道の駅「第九の里」へ。「軽食喫茶インビス」で、孫にせがまれ、ドイツソーセージのホットドックをかぶりついた。

ドイツと日本の友情を今に伝えるドイツ館
ドイツと日本の友情を今に伝えるドイツ館
鳴門市ドイツ館

住所/徳島県鳴門市大麻町桧字東山田55-2
TEL/088(689)0099
営業時間/午前9時30分~午後4時30分
休み/第4月曜、年末12月28日~31日
観覧料(2階)/大人400円、小人(小・中学生)100円
URL/http://www.city.naruto.tokushima.jp/contents/germanhouse/
※道の駅「第九の里」は、ページ下みどころにて紹介

鳴門市ドイツ館 展示品

藍染花とストロベリーロード

そういえば、孫娘がずっと手にしている籠には、パンといっしょに「藍染花」のブーケが乗っている。どうしたのかと今更ながらに聞くと、「ママにもらったの。赤ずきんちゃんのカゴだから」と、もっともらしく話す孫娘。赤ずきんが森で摘んだ花に見立てて、童話の主人公になりきって遊びたいようだ。

藍染花は、徳島名産の「藍染」による造花である。奈良時代に起源を発する藍染の藍は、ここ徳島の吉野川流域で広く栽培されてきた。「阿波藍」と呼ばれ、全国にその名を知られている。江戸時代には、莫大な富を築いた商人に「藍大尽」の呼び名があったほどだ。

それではと、吉野川へ車を走らせてみる。藍の産地として栄える藍住町では本藍、つまり天然灰汁発酵建てによる昔ながらの技法を受け継ぐ「本藍染矢野工場」がある。藍染花の染めもここで行われており、娘は藍染体験をしたことがあるはずだ。孫と娘、親子で藍の色に惹かれるとは、徳島の地と母娘の繋がりゆえだろうか。

吉野川に沿って更に西へ、阿波市の土成まで足をのばす。土成の国道318号では、イチゴの直売所がずらりと並んでいた。どこで買おうか迷うのも楽しい。この通称「ストロベリーロード」を走っていると、「道草している、赤ずきんちゃんみたいねえ」と、窓の外を眺めていた孫が笑顔を向けた。

吉野川沿岸
吉野川沿岸は、川の氾濫から稲が育ちにくい環境であったのを、藍は刈り入れの時期が早いことから、これが風土に合う作物として栄えた。吉野川北岸では3月下旬より菜の花が咲く
本藍染矢野工場

矢野工場2代目の矢野藍游さん。天然染料の「すくも」を大甕に入れ、石灰や糖分などを加えると、長い棒で撹拌する。すると、藍の華が浮かんできて、こうなると染めることができるそうだ。藍は生きているものだから、毎日こうして調整するのだという。

住所/徳島県板野郡藍住町矢上字江ノ口25-1
TEL/088(692)8584
URL/http://yanokozyo.com
本藍染体験は1週間前までに要予約。火・木曜の午後1時30分~約2時間。ハンカチ1枚1,000円~ほか。

本藍染矢野工場
ストロベリーロード(通称)

国道318号の土成付近では、3月~GWにイチゴの路地販売が行われる。時期は気候により変更あり。

徳島県阿波市土成国道318号沿い

ストロベリーロードイメージストロベリーロードイメージ
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お砂糖の家で甘い午後を楽しむ

阿波の特産、和三盆糖。
阿讃山脈に車を向けて、名高い高級砂糖を孫娘に味わわせてあげよう。
メルヘンの世界に思いを馳せて、伝統の生きる阿波の地へ。

和三盆糖を作る家

茅葺き屋根の母屋からなる「岡田製糖所」では、220年の歴史を持つ阿波和三盆糖が今も変わらない製法で作られていた。「和三盆糖というお砂糖を作っているお家だよ」と話していたので、見るなり「お砂糖の家ね!」と跳ねるように駆け出した。今度はヘンゼルとグレーテルの気分らしい。

古い日本家屋の引き戸を開けて、お店の中に入ると、白とピンクの和紙の包みが目を引いた。和三盆糖だ。試食用に置かれているのをつまんでみると、口の中でほろりと溶ける上品な味わいがどこか懐かしい。「こっちは何かな?味が違うよ」と孫娘に言われるまま手にしたのは、霰糖。製糖する過程で、最後にふるいにかけたあと、小さな塊が残るという。それを天日干ししたのがこの霰糖で、数も貴重な上に味もよりこっくりしている。お日さまの味だ。

和三盆糖は戦後、輸入砂糖に押されて、現在はそのほとんどが和菓子に用いられるのみ。だが、豊かな風味は自然の恵みそのものだ。こういう郷土の味を、孫には肌で感じてもらいたいと思う。

岡田製糖所の趣きある居宅
岡田製糖所の趣きある居宅。敷地内では、江戸時代から変わらない技法「研ぎ」による職人技が今日も行われている

和三盆糖
 

職人の指先が伝える

サトウキビというと、沖縄など南国のイメージが強い。和三盆糖の原料である竹糖は、サトウキビの在来種で、ここ上板町で育てられている。

江戸時代、この周辺は日当たりがよいものの、水はけも過ぎるほど良く、水田が作りにくいやせた土地であった。そんな風土に合うのがサトウキビであると、旅の僧に聞いた土地の若者が、日向のくに、今の宮崎県までその製法と苗を求めて旅したと伝えられている。こうしてサトウキビ栽培の礎が築かれた。山の地の難を、利へと生かしたのだ。まるでヘンゼルとグレーテルが機転を利かせたように。

岡田製糖所では、サトウキビのしぼりから精製までを行う。竹糖を「締場」でしぼり、「釜場」であく抜き、煮詰め、冷却して出来上がった白下糖を、さらに「製法場」で手作業の蜜抜きにより精製する。この蜜抜きは、水で研ぐという独自の製法で、他では見られない。和三盆糖という名の由来は盆の上で三度研ぐから、という説が有力なようだ。

製法場を特別に見せていただいた。職人さんが全身の力を両手に込めて、黙々と働いている。口に入れると一瞬で溶ける砂糖は、こんなふうに人の技や力、そして膨大な時間によって作られているのだ。スゴイものである。

売店に戻って、お茶をいただいた。「このお家、赤ずきんちゃんのおばあさんの家にも似てるかも。あ、白雪姫の小人の家かな」と、メルヘンの世界に遊ぶ孫娘。聞けば、童話のストーリーには困難や怖い場面が意外にあるものだ。人生の教訓が詰まってもいる。可愛いだけじゃない、しっかり大地を踏みしめて、たくましく育ってほしい。

姫、おじいちゃんはそう願っているよ。

江戸時代からほとんど変わらない技法
江戸時代からほとんど変わらない技法。全身全霊の力を込めて甘い和三盆糖は作られている

みどころ

●ハレルヤスイーツキッチン

徳島銘菓「金長まんじゅう」の「ハレルヤ」が、和洋のスイーツを集めてリニューアル。スイーツカフェや、工場見学、体験コーナーもあり。


住所/徳島県板野郡松茂町広島字北川向四ノ越30
TEL/088(699)7611
営業時間/午前10時~午後6時
休み/なし
URL/http://hallelujah-sweets.com

ハレルヤスイーツキッチン
●フラワーショップ慶

おしゃれな花が店内に揃い、アレンジ、ブーケ、スクールも併設。
藍染花はオーダーも可。


住所/徳島県徳島市西大工町1-13
TEL/088(653)6012
営業時間/午前10時~午後8時
休み/不定
URL/http://www.flower-k.co.jp/

フラワーショップ慶
●ベートーヴェン「第九」交響曲演奏会

大正7年6月1日に、大麻町板東のドイツ俘虜が、日本で初めてベートーヴェンの第九を演奏したことにちなんで行われる演奏会。


日時/6月の第一日曜 午後1時30分開演
場所/鳴門市文化会館
入場料/前売り一般2,000円、小中高生500円(当日は一般2,500円)
問い合わせ/NPO法人鳴門「第九」を歌う会事務局 088(686)9999



ベートーヴェン「第九」交響曲演奏会
●道の駅「第九の里」物産館

俘虜収容所のバラッケ(バラック)を再移築した物産館。旬の産直コーナーから、鳴門土産の地場産品まで各種取り揃っている。

住所/徳島県鳴門市大麻町桧字東山田53
TEL/088(689)1119
営業時間/午前9時~午後5時(軽食コーナーは午前9時30分~午後4時30分)
休み/第4月曜(祝日の場合は翌日)、年末12月28日~31日

道の駅「第九の里」物産館
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