ホーム > 瀬戸マーレ vol.55 > 砥部で見つけた、使っていると楽しくなる器
愛媛県 砥部町

磁土に陶土をブレンドし、土の風合いを残しつつ、磁器の強度がある温もりある器。柔らかな色合いが合う。

愛媛県 砥部町

砥部(とべ)で見つけた、
使っていると楽しくなる器

江戸時代から続く焼き物の里、砥部。
伝統を大切にしながら現代の暮らしになじむ器が作られていて、窯元巡りをするのが楽しい。
窯元ごとに、作家さんそれぞれに個性があり、お気に入りがきっと見つかる。

伝統と個性が光る砥部焼の現在

松山市から国道33号を南下する。カラフルな陶器のタワーが見えたら砥部町だ。街のあちこちに砥部焼のオブジェがあり、焼き物の里に来たことを実感する。陶板の道と呼ばれる遊歩道にはさまざまな陶板があり、アート鑑賞をしているよう。坂を登った陶祖ヶ丘には、江戸時代から大正時代までの茶碗を埋め込んだ壁(古陶碑)があり、変遷を見渡せておもしろい。

砥部焼は、ぽってりと丸みを帯びたフォルムと白磁に藍色の絵模様が美しく、丈夫で、日常使いに向いている。暮らしに寄り添うように、近年は持ちやすい薄手のものやカラフルでかわいいデザインのものが増えている。約100ある窯元では多彩な砥部焼に出会え、作家さんの思いを聞きながら、魅力に触れられるのが楽しい。

街のいたるところに砥部焼のアートがある。
陶板の道から砥部ののどかな街が見渡せる。
窯元は案内板を目印に徒歩やレンタサイクルで巡ろう。事前連絡が必要なところもあるので注意。
陶板の道を散策して陶祖ケ丘(とうそがおか)へ。散策にちょうどいいコース。
陶祖ヶ丘にある古陶碑。砥部焼が陶器から磁器に変わったことがわかる。
TOPに戻る

〝好き〟から生まれる丁寧な手しごと

キュートな絵柄に一目惚れしたのは、森陶房。3代目になる森光太郎さん、香織さんご夫妻が現代の暮らしに寄り添うデザインや形の器を作っている。砥部焼ではあまり見たことのないバレリーナやくじら、傘などのモチーフが、呉須(ごす)と呼ばれる藍色で描かれ、躍動感があってかわいい。「バレエは私の子どもの頃の習い事のひとつで、傘は生まれて初めてもらったプレゼント。自分の好きなものを描きたいと思っているんです」と香織さん。器から愛情を感じるのは、〝好き〟があふれているからなのかもしれない。手に持つとしっくりとなじみ、驚くほど軽い。「白磁は冷たい印象がありますが、成形からすべて手づくりなので、微妙な揺らぎがあります。そこから出る柔らかい雰囲気を大切にしています」。

初代から受け継いで作り続けているものもあり、50年前から使っている器が割れたからと買い足しに来る人もいるそう。

「作りたいものはいっぱいあります。技術を高めて、伝統を守りながら丁寧に作りたいと思います」。新作が楽しみだ。

香織さんは生まれ故郷で瀬戸焼を作っていたが、結婚を機に砥部へ。「砥部焼の良さは土。粘りがなくて作りにくいですが、手作りで焼成してここまで硬くなるのはなかなかないです」。
初代が考え、50年以上前から作り続けている絵がわりシリーズの図案。今も受け継いで作り続けている。
バレリーナやこけしの表情が少しずつ違うのも手書きならでは。フリル状のリム(縁)がかわいい小皿も人気。
素焼きした皿に一筆書きで絵を描く。「直しがきかないため緊張しますが、描くのは楽しいです」と香織さん。

森陶房

住所/愛媛県伊予郡砥部町北川毛714
TEL/089-962-2482
営業時間/[ギャラリー]9:00~17:00
定休日/水曜日
※臨時休業や営業時間を変更する場合があるため、事前に電話で確認を。
駐車場/あり

TOPに戻る

技術を磨き、オリジナリティを追求

大西陶芸では、砥部焼のイメージをくつがえす美しさに出会えた。家族4人で作っている窯元で、父・光さんの「人の真似はするんじゃない」という言葉どおり、それぞれが独自の作風を追求している。

なかでも目が引き寄せられたのは、イッチンの器。イッチンは、軟らかい化粧土をチューブに入れ、絞り出して絵柄を立体的に描く技法で、娘の白石久美さんが砥部焼に本格的に取り入れたものだ。

「父に道具を渡された時はどう扱えばいいのかわからなくて。しかたなく筆で描いていた輪郭線をイッチンで描き、その内側を絵具で塗りつぶしたところ、そういう描き方をしている人がいなくて自分のカラーになりました」と笑顔で振り返る。白磁に浮かび上がるブドウやバラの模様は華やかで品がある。「色のついたイッチンで模様を描くなど、いろいろ挑戦しています。いいものができてお客様に喜んでいただくと嬉しいですね」。

色のついたイッチンで描いた模様が美しい。
イッチンで描いた人気の青い葡萄シリーズ。大西陶芸の制作コンセプト「品位とモダン」が表現されている。
立体的に浮かび上がった模様に光が射すと、陰影が出てさらに美しい。
フリーハンドでバランスを考えながらイッチンで絵柄を描く。立体的に浮かび上がっているのがよくわかる。
広く明るいギャラリーには、大西陶芸4人の作家の器が並ぶ。
TOPに戻る

子どもの心を育む温かな食器

子ども食器もカラフルでかわいい。こんな温かみのある器で食べられたら、さぞかし心が豊かになることだろう。作っているのは、息子・先さんの妻・三千枝さん。結婚をきっかけに陶芸の世界に飛び込み、義姉の久美さんに絵付けを教えてもらい、めきめきと腕を上げた。

「心がけているのはお子さまが欲しいと思うような明るく鮮やかな絵付けと、安全で倒れにくい形です。割れるからと敬遠される親御さんもいらっしゃいますが、割れることを学ぶのも必要で、ものを大切にする心を育んで欲しいと思います」と三千枝さん。

久美さんと三千枝さんは、砥部焼の女性作家7人が集まる「とべりて」の活動も行っている。女性ならではの目線で砥部焼の魅力を発信しつつ、メンバーそれぞれの技法が異なる強みを活かしたコラボレーションでも注目されている。

産地を訪ねるからこそわかる砥部焼の魅力があった。手から手へ伝えられる器を大切に使い続けたい。

砥部焼になかった子ども食器を大西陶芸で作り始め、大人気に。
左:白石久美さん、右:大西三千枝さん

大西陶芸

住所/愛媛県伊予郡砥部町北川毛796
TEL/089-962-2456
営業時間/[ギャラリー]9:00~17:00
定休日/土・日曜日
※事前の連絡で土日対応が可能な日もある。要確認。
駐車場/あり

さまざまな窯元の器を
見くらべて買える

見ているだけでも楽しい器たち。使うと良さがより一層わかる。

店主がセレクトした約10の窯元の日常使いの器を見て、触れて購入できるのが「ギャラリー紫音」。お客様のニーズを伺い、砥部焼という概念にこだわらず、作家の作風が出ているもの、個性が光っているものをセレクトしていて、似たものがひとつもなく、あれもこれも欲しいと思うものばかりが並んでいる。「使って良さがわかるのが砥部焼。使って食事を楽しくおいしく味わってください」と店主からのメッセージだ。

砥部焼ギャラリー紫音
木の香り漂う落ち着いた空間でゆっくり選べる。ネットショップで事前に商品一覧や在庫を確認することも可能。

住所/愛媛県伊予郡砥部町五本松885-13
TEL/089-962-7674
営業時間/10:00~18:00
定休日/火・第3水曜日
駐車場/あり

砥部焼の器で味わう、
地産地消の料理&スイーツ

契約農家の香り高く甘いいちごに、ソフトクリームとカスタードクリームがよく合う。ざくざく香ばしいチュイルがアクセントに。1,100円~(仕入れ状況により価格が変動)

砥部に来たなら砥部焼の器でおいしいものを食べたい。その願いを叶えてくれるのが「Jutaro」。地元や愛媛県産の食材を中心に使った創作料理やスイーツをいろいろな窯元の器で提供している。同じテーブルに同じ窯元の器が並ばないように配慮され、手に取って、口元に触れて、使い心地を確認できる。気に入ったものがあれば、隣接する砥部焼観光センターで購入することも。これからの季節は契約農家の甘くておいしいいちごを使ったパフェをぜひ味わって。

jutaro
ランチタイムはにぎわうのでお早めに。

住所/愛媛県伊予郡砥部町千足359
TEL/089-960-7338
営業時間/11:00~17:00(L.O.16:30)
※ランチ、スイーツは売り切れ次第終了
定休日/第2木曜日
駐車場/あり

TOPに戻る