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せとうち美術館紀行 第2回 大塚国際美術館

大塚国際美術館 世界の美術館を楽しもう!

大塚国際美術館に関しての対談4

宗教画を観るコツは

山木:
システィーナ礼拝堂の壮大な「創世記」の壁画について、入館者はどんな感想をもたれるのでしょうか?

平田:
解説を行なう場合、まず、聖書の世界を説明させていただきます。目で見る宗教の勉強ですよね。

山木:
いろいろな絵の中に宗教的な象徴が表されています。絵を見るときに、いったい何を意味するのか、作家は何を表現したかったのかがわかると、より魅力的になってくる。絵に関する知識は興味をひく手がかりになります。宗教画を読み解くコツは何かありますか。

平田:
ムリーリョの「無原罪の御宿り」という、とってもかわいいマリア様の絵があります。ここには、下弦の三日月や白い衣と青いマントなど、純粋無垢なマリアを表すいくつかの象徴が描かれています。
ところで、同じマリア様の絵を見ても、カトリックとプロテスタントの方では印象が少々異なるのですね。そういうふうに鑑賞しているお客様の立場で受けとめ方が違うのも新しい発見です。

山木:
絵画は文化の上に成り立っているので、文化的な背景を学ぶことは、絵画を見る上で、非常に大切なことだと思います。いまのお話を伺っていて、なおさらそう思いました。
もちろん、作品の読み取りや解釈は、鑑賞者の自由です。どのような見かた、感じ方にも意味があり、重みがあります。常識的な見かたを覆す発見や優れた批評は、何にも縛られない自由な解釈から生まれることが多いでしょう。
しかし同時に、作者や時代背景を学ぶことで、見え方・見方が変わっていくことの中にも、アートの愉しみ、鑑賞者の愉悦が隠れています。

教育普及への取り組み

山木:
このあたりで、ロボットが美術館を案内する「アートくん」の話に移りたいと思います。

井上:
今年の7月、夏休みにアート君がお目見えしました。レーザーポインターで名画を解説もする優れ者です。登場するやいなや子どもたちに大人気で、展示室を子どもに囲まれながら歩く姿がよく見られました。
アートくんは館内案内をしていない時間帯は顔診断をしています。顔を近づけると館内の24の人物画から、自分にそっくりな絵を探してくれるのです。つまり自分とそっくりな絵を見に行ってもらうという企画です。
大人も子どもも抵抗無くこの企画を楽しんでくれます。じっくり鑑賞することで、作品への関心度が高まることを期待しています。山木先生には、この顔診断のワークブックの監修をしていただきまして大変お世話になりました。

山木:
作品をじっくり眺め、作品のよさを発見してもらいたいという企画ですよね。大塚国際美術館は、教育普及に関して非常に積極的な美術館です。一年前には「名画で体験パリめぐり」という企画を組んでいます。これは平成20年度文化庁芸術拠点形成事業(ミュージアムタウン構想の推進)として、取り組んだものです。こういった企画を実行するにあたっては、大学との連携を重視しています。この企画では、京都造形芸術大学や鳴門教育大学と連携し、私が勤める大学の学生・院生も積極的にボランティアとして参加しましたし、私もワークブックの監修者として協力しました。京都造形芸術大学は、当時の服装を再現しましたね。

井上:
はい、19世紀末のパリがテーマになっていますので、女性は帽子にお尻が膨らんだドレス、男性はシルクハットにステッキというスタイルです。「グランド・ジャット島の日曜日の午後」の前で、子どもたちが名画の登場人物に変身して記念写真を撮りました。
家族そろってとても楽しそうな姿が見られました。

山木:
その前には「子どもの居場所づくり新プラン」の一環として、文部科学省委託事業を引き受けておられましたね。

井上:
はい。子どもたちが絵画を楽しんで、仲良くなるという企画です。2005年から、サタデー@美術館という名前で実施しました。一ヶ月に2回開くプログラムなので、季節感あふれる企画を考えてやっていきました。

山木:
そして、N*CAPという企画もずいぶん有名になりましたね。「地域文化財教育活用プロジェクト」の一環として行われているものです。このプロジェクトは、大塚国際美術館と鳴門教育大学、鳴門市の3者が連携し、2003年に開始した地域の教育活動の母体となる枠組みです。そのプロジェクトのなかでも、すっかり定着した取り組みがN*CAPです。

井上:
これは、Naruto Children’s Art Parkの略で、年4回、実施しています。4回のうち3回は学生が主体となって企画しているので、ユニークな企画が多いです。

山木:
鳴門教育大学の学部生と大学院生が、子どもたちのためにどんなワークショップができるか工夫して、自発的にいろいろな教材を開発しています。こちらの企画・広報部の井上さんや喜井さんも参加しています。
最初の原動力となったのは、いま九州女子大学にお勤めの谷口幹也さんです。現在は、鳴門教育大学の山田芳明さんが学生たちとうまく関わって、この事業を発展させています。最近の動向はどうですか?

井上:
いつも40人の定員以上の子どもたちが応募してくれています。募集するとすぐにいっぱいになってしまうぐらいの人気の企画です。参加してくれる子どもたちのなかには、リピーターも多いですし、兄弟で参加するケースも多いんです。

山木:
そして、先ほども出ましたが、「地域文化財教育活用プロジェクト」として、非常に画期的なのが、「鳴門市小学4年生プログラム」ですね。鳴門市のすべての公立小学校(16校)の4年生が、大塚国際美術館を訪れる機会が持てるという素晴らしい企画です。これは鳴門市教育委員会の全面的なバックアップがあってできたプログラムですね。

井上:
いま、私たちは、中学生に対しても積極的なアプローチを展開しようと努めています。たとえば、今年度は平成21年度文化庁 美術館・博物館活動基盤整備事業として、フレスコ画ワークショップを行いました。フレスコ画について実際に体験してもらおうというプログラムです。表現活動と鑑賞を積極的に結びつけるためのプログラムです。

山木:
そういえば、こちらの美術館は、高校生の入館者も非常に多かったですよね。

田中:
高校生は、近畿地方のとくに私学の高校からよく来ていただいていますね。修学旅行に組み込んで頂いている高校もあります。そういう状況ですので、高校生向けのガイドを考えるのも課題ですね。

山木:
また、美術科教育学会や地中海学会など学会の会場として美術館を提供して、学術研究の世界との関わりも深めていらっしゃいますね。

田中:
私ども、社会教育機関としての美術館の使命を全うしたいという気持ちで、いろいろな取り組みにチャレンジしてきました。子どものときに当館で名画を見ていただき、大人になったら海外に行って原画を見るという、そんな理想を思い描いて魅力的なプロジェクトを展開していきたいと思っています。

厳しい規制を順守してできた美術館

山木:
建築に関しても教えてください。

田中:
当初はお城のような建物を建てたいという夢があったのですが、国立公園の中に建てるのですから、たいへん厳しい制限があります。自然公園法によると外にでている部分が、13mを越えてはいけない。広さの制限もあり、結果として、地下5階、地上3階の建物になりました。設計は坂倉建築研究所、施工は竹中工務店です。
空調は氷蓄熱システムを四国で初めて利用しています。9000坪の面積を空調するのに、四国電力と共同開発していただいて、電気代が安く、いわゆるエコにもなっています。

山木:
厳格な自然公園法を順守しながら建てられた建物ですが、いったん中にはいると、快適な空間が広がり、自然光もよく入っています。

田中:
山の傾斜をうまく利用しているので、採光もよく、たしかに、地下に居る感じではないですね。

和と洋の融合、今後の展望

山木:
今後の展望を教えてください。

田中:
一つは注目されている作品を再現すること。もう一つは文化芸術活動の中心として地域に貢献していきたいということです。システィーナ・ホールの大空間をうまく利用して、室内楽コンサートとか、将棋や歌舞伎を行ってきましたが、これも文化センターとしてこの美術館を機能させたいという願いの表れと受け取っていただければ幸いです。

山木:
歌舞伎とか将棋は、和と洋のコラボレーションというか、画期的な試みですよね。 おわりに、現館長である大塚明彦氏の理想を教えてください。

田中:
初代館長が国内に眼を向けていたのに対し、2代目館長はグローバルな展開を視野に入れています。ようやく関東圏での認知度も高くなり、全国の美術愛好家に知られる存在になりました。そして、これからは中国・台湾・韓国・タイなど、アジアの人々にいらして頂きたいと思っています。個人ビザでの日本への渡航が可能になりましたので、中国からもたくさんいらして頂きたいと思っています。

山木:
グローバル化はパンフレットからも意気込みがうかがえるところです。パンフレットや音声ガイドで4カ国語を用意されていますが、反応はどうですか?

田中:
おかげさまで、音声ガイドの利用率が上がってきました。今後は映像を駆使した、新しいタイプのガイドの開発を視野に入れています。

山木:
「地域文化財教育活用プロジェクト」に加わっている鳴門教育大学の研究者として、また、「せとうち美術館ネットワーク」のアドバイザーとして、大塚国際美術館の発展を心から期待しております。本日は長時間おつきあいしていただき、ありがとうございました。

田中:
こちらこそ、ありがとうございました。

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