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せとうち美術館紀行 第3回 高松市美術館

高松市美術館 現代美術と匠の技に感動

高松市美術館に関しての対談3

美術館の収蔵品について

山木:
ところで、こちらの美術館は、非常に質が高い作品を数多く収蔵していると、かねがね感じておりました。とくに、いわゆる現代美術と呼ばれる同時代の造形作品については継続的に優れた作品を収集されてると思います。
それからもう一つの特徴は、現代美術の中でも平面だけではなくて、立体に関わるものが多いということ、さらに、高松を中心にしたこの地域の工芸品が収蔵の柱になっていることも、収蔵作品の特徴なのではないかと思います。
こちらの美術館の収蔵の方針というか枠組み、それが美術館の個性につながっていると思うのですが、このあたりのことについてお伺いします。どういう形でこの美術館は収蔵品を集めているのでしょうか。

毛利:
美術館ができてから20年以上が経つのですが、現在の収集方針は基本的に開館当初から変わっていません。一つは戦後の日本の現代美術、それから20世紀以降の世界の美術、香川の工芸。この工芸は主に漆と金工です。
高松市美術館が一足早く開館しましたが、1980年代から90年代は、各地で美術館がどんどん建っていった時代です。バブリーな時代背景もあり、美術館の作品購入費用を何十億円も用意する自治体もありました。
しかし、高松市美術館はそれほどの額は用意できなかった。ある程度絞っていかないと、知名度のある作品を数点購入して終わりということになってしまう。そういう知恵を絞らなければならない状況がありました。
そのような条件のなかで、出てきたのがクオリティーという考え方ですね。クオリティーを維持しつつ、ある程度、ジャンルの幅を広げなくてはならない。そのような枠組みから、いま述べた収集の方向性が決まっていきました。今のところ、その方針と枠組みは、うまく機能しているのではないかと・・・。もちろんこれは予算があってのことですから、今後どうなるのだろうか・・という感じなのでが・・・。

山木:
現代美術というと、どちらかというと苦手意識を持っている人が多いかもしれません。しかし、こちらの美術館が収集されているのは各作家の中でも非常になじみやすく、魅力的な作品、そして質の高い作品が多いですね。
そして、もう一つ気づかされるのは、着実に活動の幅を広げ、作品の質を向上させている息が長いアーティストの作品が多いですね。選定するときになにか気をつけている点はありますか?

毛利:
専門家を含む公的な収集委員会が設置されています。もちろん、学芸員も収集作品の選定のために情報を収集し、提供しています。そのためには、こまめにアンテナを立てて、情報を収集する必要があります。専門誌の情報はもちろんのこと、制作の現場近くで、いろいろな専門家の意見を聞くこともあります。物故作家の方の場合にも、地道な調査が必要です。作品の質を見極める仕事は、比較的地味な作業の積み重ねだと思います。

山木:
なるほど。過去に実績がある作家や、将来展望についても発展の可能性が高い作家の作品を各方面での評価を勘案しながら収集してきた結果が、現在の収蔵品の質の高さに反映しているのですね。最近話題になっている奈良美智と村上隆、この二人の収集もずいぶん早い時期のようですね。

毛利:
そうですね。むちゃくちゃ早くもないですけど(笑)。収集した後に、非常に高騰したので、結果的には早い時期といえるでしょうね。二人ともメディアの露出も多いので、彼らのメッセージがすでに市民に伝わっているのではないかと思います。海外での評価も高く、その点でも、高松の方々に見ていただきたい作家たちの作品です。

山木:
デザインの分野で活躍されていた作家の作品をずいぶん収集されてますね。

毛利:
そうですね。粟津 潔さんのプリントなどがそれにあたるでしょうね。粟津さんの場合、プリントが比較的少ないらしいということもありまして、注目されてよいコレクションだと思います。

山木:
海外の作家では、マチスの版画作品などもありますよね。

毛利:
そうですね。マチスの作品も、いまからでは収集しづらいものの一つです。

山木:
ところで、「高松コンテンポラリーアート・アニュアル」という企画展では、これから活躍しそうな若手を選定されていましたね。この企画は毛利さんが担当したのですか?

毛利:
そうですね。

山木:
非常に興味深く、刺激的な展示内容でした。そして、こういう現代美術の企画にも積極的に子どもたちを関わらせていくという点に関心を持ちました。 このような同時代の美術の企画展に対して、市民からはどんな声が寄せられているのでしょうか? 私、以前から現代美術の一般化と申しますか、市民への浸透について期待を抱いています。ですから、どういうふうに市民が現代美術を楽しめるか、あるいはそれを通じてアート全般に関心を抱くのか、興味があるのです。

毛利:
そうですね。団体で来ていただいた小学生の皆さんは、とても反応がよいですね。良すぎるくらいです。ぴょんぴょん飛び上がって喜んでくれる子どももいます。とても率直な反応を目にします。
もう少し年齢の高い方でしたら、なかなかすんなりというわけではなくて、いろいろ考えた中での反応になります。
Vol.00(ゼロゼロ)って言ってますけど、とにかく今年は第1回目ですので、PRの方法も含めて、手探りの状態と思います。
今回、秋季の開催ということもありましたが、学校との連携がやや弱かった。そのあたりを改善する必要がありますね。あとは、県内・県外の大学生などと一緒に、いろいろな展覧会にかかわる仕事を一緒にできるような形も模索していきたいものです。

山木:
実は、先日、この「高松コンテンポラリーアート・アニュアル」を鑑賞する「アートで遊ぼう!」を子どもたちと一緒に体験する機会を与えていただきました。それは、子どもたちが現代の美術作品を見て、どのような反応をするのか、つぶさに見る貴重な体験でした。この展覧会に出品しているoff-Nibroll(オフニブロール)さんの映像ベースの作品と、描画という行為の意味にこだわるアーティストのしばたゆりさんの作品に、あのとき集まっていた子どもたちは、強く惹かれたようでしたね。

毛利:
前回の「アートで遊ぼう!」に参加していた子どもたちは、とりわけ勘がよい子どもたちなのですが、どのアーティストの作品にも敏感に反応してましたね。
特にしばたさんの、注意して見ないと見過ごしてしまうような表現方法などについても、鋭く見抜いていました。本当に理想的な子どもたちでした。 なんか不思議だなあと思ったら、すぐに理由を考えたり、謎を解こうとしたりしていました。

山木:
大人では気づかない発見もあったように思いますね。毛利さんがひと言、「このしばたゆりさんは描かれている動物や植物などの皮とか実など、ほんものの一部分を使って絵の具を作るんだよ」と楽しみ方のヒントを伝えたら、キョロキョロまわりを見回して、ガラスの容器に入っている顔料を探し出しましたよね。あの会場には、しばたさんが創り出したさまざまな顔料が展示してあるんですけど、絵と顔料をつなげて見るために、走り出して二箇所を行き来するような、ああいう反応は大人にはありませんでしたね。

毛利:
そうなんですよね。今回は、説明らしい説明は、あえて会場の壁には掲げなかったのです。というのも、何を描いているのかとか、誰が描いているのかという情報が、作品鑑賞をするひとの注意を、かえってそいでしまうことがよくあるんです。今回は、情報をプリントでお渡ししていたのですけれど、どのようなかたちで情報を提供するのがよいのか、いつも悩んでいます。

山木:
午前の部では子どもたちとのギャラリートークを、午後の部では一般市民とのギャラリートークを見させていただきましたが、市民の方々も、とても熱心に集中してご覧になっていました。比較して気づいたのは、子どもたちのほうが、自分が感じたことをいろいろ積極的に言葉にしていったように思えました。

毛利:
たしかにそうですね。
この展覧会にお越しになられた市民の方々は、大人も子どもも、非常に興味を抱いて作品を見て頂きました。大人の方々は、やはり、子どもとは異なるアプローチをします。
ですから、子どもの場合と大人の場合では、ギャラリートークでのこちらの話し方も、自ずと変わってくるのではないかと思います。

山木:
牧野さんは教育普及に関わられる機会が多いと伺っています。子どもたちはいろいろな美術展を見て、さまざまな反応をすると思います。子どもとの関わりについて、お話いただけますか?

牧野:
ええ、そうですね。私もその「アートで遊ぼう!」で、展覧会をじっくり見るためにクイズをしたり、ゲームをしたり、簡単なものを作る活動を取り入れたり、いろいろな工夫をしています。それ以外にも、アーティストを招いてワークショップをしたり、そのコーディネートをすることもあります。
そういうときに気づくのは、モノを作る場合でも文章として書く場合でも、なかなか書こうとしない、また作ろうとしない子がいる。でも、案外そういう子は、待っておいてあげると、とても素晴らしい作品を作ったり、書いたりします。急がしてはいけないと肝に銘じています。それから、「アートで遊ぼう!」に関しては、「じっくり見ること」を大きな目的にしてるのですが、大人のギャラリートークよりもやっぱり難しいですね。

山木:
どういう点が難しいですか?

牧野:
毛利さんは言葉オンリーでコミュニケーションをしていますが、そのためには結構技術がいると思います。子どもをまずのせるということが難しい。だから、私はよく小道具のような、クイズなどを用意しようとするんですが、とても労力がかかります。

山木:
そのクイズを作るのは、前の晩に悩んで作るんですか?
どういう感じで作るのですか? それから、その使い方についても教えてください。

牧野:
アイデアについては、毎回、試行錯誤です。使い方ですが、トークをして、合間でクイズやゲームをして、また最後には何か簡単なモノを作ったり、変化をつけるようにも心がけています。

山木:
先ほどボランティアの話が出たんですけれども、奈良美智さんの時の展示に関しては、中学生を中心に協力者があったということですね。作家とボランティアの中学生たちが、話し合う機会はあったのですか?

牧野:
そうですね。この時は観客参加型の作品が多かったということで、鑑賞サポーターと呼ばれるボランティアを募集しました。ちょうど展覧会が夏休み時期ということで、対象を中学生以上にしました。結局、半数以上が中学生になりまして、中学生と大人が協力して活動してくれました。その機会に、奈良さんにスライドレクチャーをしていただいて、交流の場を用意できました。その時のやりとりはこのボランティアニュースで書き起こしをしています。やっぱり中学生ならではの素朴な質問があって、おもしろかったですね。

山木:
読ませていただいて、大変興味深く感じました。奈良さんもずいぶんフランクに子どもたちに接して、ほんとうに魅力的な作家さんですね。

牧野:
そうですね。想像するとはどういうことかという問題をめぐって、中学生たちは、奈良さんとの話し合いのなかで、いろいろな発見をしたと思います。

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