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せとうち美術館紀行 第3回 高松市美術館

高松市美術館 現代美術と匠の技に感動

高松市美術館に関しての対談4

山木:
私、現代の美術が好きなもので、どうしても話をコンテンポラリーなアートに導いてしまったかもしれません。ここらで、この美術館の大きな魅力である工芸の世界についてお話いただけませんか?

牧野:
漆芸を例に工芸の話をしたいと思います。香川の漆芸はですね、江戸時代の玉楮象谷以来、現在まで続いてるわけなんですが、象谷の子孫の人たちが継続して仕事をしています。それから、磯井如真という人が大正から昭和にかけて活躍して、低調になりかけた漆芸を再興させました。また、それまで中国趣味だった讃岐漆芸を日本独自のものにしたという功績があります。現代では磯井如真の息子であります磯井正美、そして、やはり磯井如真に学んだ太田儔という漆芸家が人間国宝に指定されて、現在、お元気でご活躍されています。それと、如真・正美・太田儔は、きんまの技法で人間国宝になった人なんですけども、彫漆の人間国宝としては音丸耕堂という人がいまして、この人が非常にカラフルな彫漆の作品を残しています。

山木:
私、数年前に子どもたちへのアプローチでこちらの美術館が、山下義人氏だったと思うのですが、道具を広げて自分の技法を子どもたちに見せていらっしゃる場面を拝見しました。あのように、伝統的な技法・技術を分かりやすく子どもたちに伝えられる人は少ないですね。参加していた子どもたちも、大変興味を持って聞いていたという印象が残っています。ああいうワークショップも、今後続けていっていただきたいと思いました。

牧野:
あれは確かにとても魅力的なプログラムでした。伝統工芸の展覧会の機会も多いですから、そういった時にはなるべく子どもや一般の方向けの教育普及のプログラムを展開していきたいと考えています。

山木:
最近は、どこの美術館でも、ギャラリートークが盛んになってきてるんですが、日本の伝統的な文化、そして工芸などの魅力を子どもたち気付かせる機会が少ないので、今後、この美術館がそのあたりを担っていただいたら、鑑賞教育を進める立場の私としては、たいへん、ありがたいと思います。

山木:
それでは最後に、館長様のお立場からご覧になって、こちらの美術館の課題と、展望について、語っていただきたいと思います。

久米:
そうですね、昨今、美術館を取り巻く環境の変化、あるいは美術館に対するニーズが急速に多様化しています。ですから、各年代層など幅広い皆さんがどういうお考えなのか、その動向を的確に把握していくことが求められていると思います。
そのためには館内からの視点だけじゃなくて、館外からの視点ということで、皆さんの率直なご意見をお伺いすることが必要であると考えました。
  実は平成19年になりますが、外部の有識者、あるいは市民代表の方々にもお願いをいたしまして、今後、美術館としてどう運営していくべきかということと、美術館としてのあるべき姿について、忌憚のないところでご検討をいただき、昨年2月にそれを提言書として、取りまとめをしていただいたところです。これを踏まえまして、昨年の3月に、当美術館の今後の運営方針を策定いたしました。これは今後5年間をめどに、具体的に何をやっていくかを定めたものでございまして、「市民に親しまれ魅力ある美術館づくり」ということと、もう一つが「美術館の効率的な運営」を柱としています。

この中で、お話がありましたように、小学生への対応も盛り込まれております。関連して、8月の第1土曜日に「美術館の日」というのを設定しました。そこでは、市民・県民のみなさんが気軽にこの美術館に来ていただけるように、親子で楽しめるイベントなどを開催しています。そして、この日には、入館料を無料にする取り組みを始めております。

山木:
都市型の美術館として、街中にあって、買い物の帰りに市民が立ち寄れるロケーションは最高ですし、駅から近いのもメリットですね。そして、高速道路からも近い位置にありますから、近県の方々もアクセスしやすい美術館です。ですから、この美術館の発展の可能性はきわめて大きいといえそうですね。

久米:
まさにおっしゃられるとおりで、この高松市美術館は都市型美術館ということで、単に展覧会を開催する施設というだけでなくて、都市を形成する機能として、市民どうしの交流の場の創出など、街づくりと一体となった取り組みを進めていきたいと思います。近隣には、中央商店街がございます。高松の商店街、たとえば、この丸亀町商店街は全国的にも注目を集めている状況になっておりますので、ここと連携いたしまして、都市としてのにぎわいに寄与する美術館を目指していきたいなと思っております。ちょうど今年は瀬戸内国際芸術祭が開催されますので、それを絶好の機会ととらえて、この高松市美術館を強くアピールしていきたいと思っております。

山木:
ありがとうございます。香川県にも、高松市内にも、ほかの文化芸術施設もたくさんありますから、そういう施設との連携とか、共同の何か企画の開催とかが可能性として非常に大きく残されてるんじゃないかなと思います。今後の発展をお祈り差し上げます。

久米:
ありがとうございました。

ひと言ずつ個性をPR

山木:
ひと言ずつ、何かアピールしたいことをおっしゃってください。

牧野:
香川県というのは日本一小さな県だけども、非常に個性的な美術館が数多くあるんです。その中にあって、高松市美術館は幕の内弁当的なところが魅力なのかなと思います。先鋭的な現代美術から伝統工芸まで、幅広く展覧会を開催しているところが魅力だと思います。

山本:
アピールというよりも課題になりますが、開館20週年を超えて、館の状況っていうのもずいぶん変わってきました。高速道路も通ったので、近県の美術館も競争相手になってきます。そういった中で、インターネット等を活用したさまざまな情報発信の方法が求められていると思います。小学校や中学校など近隣の学校との連携も課題のひとつです。

毛利:
現代美術をコレクションしているわりには、今まで展覧会としてそれほどやってなかったという反省があります。せっかくの財産ですから、近隣の現代美術に強い美術館とともに、鑑賞して歩けるルートのような見せ方ができたらいいなと思いますね。

山木:
丸亀市猪熊源一郎現代美術館や徳島県立近代美術館など、戦後の海外や日本の美術作品について、立派なコレクションを有する美術館が四国・中国地方にはたくさんあります。そういう観点から見ると、競争ではなくて連携という流れをつくって、美術愛好家が美術館を巡る流れができたらいいですね。本日は、長時間おつきあいしていただき、ありがとうございました。

- 2010年1月10日のインタビュー取材より編集

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