徳島市の南の郊外、緑豊かな丘陵地に広がる徳島県文化の森総合公園。この中にある徳島県立近代美術館は、近現代美術を「20世紀の人間像」「現代版画」「徳島ゆかりの美術」の3つの柱からコレクションし、その豊かな表現や美の魅力をあますところなく紹介しています。作家と連携した催しも数多く、近現代美術を身近に感じることができます。
ミュージアムショップ
ポストカード、展覧会図録から化石、原石まで、美術館と博物館のグッズが揃う。貿易会社ならではの海外のメッセージカードが好評
TANTO(レストラン)
阿波尾鶏など地産地消の新鮮な食材を生かした料理が自慢。おふくろの味から自家製ケーキまで気軽に味わえる
知識の森
芝生広場や遊具などがあり、ファミリーで楽しめるスペースがいっぱい。週末を中心に楽しい催しが開催される
徳島県立近代美術館に関しての対談1
■出席者
鳴門教育大学大学院教授 山木朝彦さん(以下山木)
徳島県立近代美術館館長 森 惠子さん(以下館長)
同館学芸員 江川 佳秀さん(以下江川)
同館学芸員 森 芳功さん(以下森)
同館主任 亀井 幸子さん(以下亀井)
■対談日
2011年11月9日(水)
置県100年の記念事業として誕生した文化活動の拠点
山木:
徳島県立近代美術館は非常に多くの市民に知られ、親しまれていますね。同じ敷地内にこれほど多くの美術館や博物館などの文化施設が揃っているのは珍しいと思いますが、開館の経緯を教えていただけますか。
江川:
徳島県の置県100年の記念事業として、文化の森総合公園を作るという計画があったと聞いています。それで場所を探し、結果として徳島市の南の郊外に決まったわけです。すごく広くて約40ヘクタールあります。
もともと図書館や博物館は徳島市の街中にあったんですね。しかしそこは手狭で、駐車場もなく、バスはありましたが便が悪いということで、郊外に移転できる場所を探していたのです。
山木:
なるほど。
江川:
この建物には、徳島県立近代美術館、徳島県立博物館、鳥居龍蔵記念博物館、21世紀館の4つの施設が入っています。近代美術も、現代美術も、恐竜も、化石も、銅鐸も、同じ屋根の下にあるわけです。グループで来られるとみなさんそれぞれで興味が異なると思いますが、ここでは何か楽しめるものがあります。半日ゆっくり楽しんでいただけるのですね。
山木:
建物の間に流れる滝も見事ですね。
江川:
この滝はカスケードと呼んでいます。夏は子どもたちの水遊びのいい場所になっています。エントランス前に噴水がありますが、カスケードと噴水は、水のコンセプトとしてつながっています。噴水で噴き出した水がそのまま前を流れている園瀬川に流れ込むイメージでつくられました。
山木:
遊歩道には彫刻があるそうですね。散策しながら美術にも自然にも触れられるのは魅力的だと思います。
江川:
美術は展示室の中だけで息を潜めてみるものではないと思っています。緑の中で深呼吸をしながら楽しんでいただこうと、「彫刻の小径」と名づけられた遊歩道に速水史朗の《四国三郎》などの彫刻を設置しています。
近現代美術への入り口となる「20世紀の人間像」
山木:
徳島県立近代美術館が開館したのはいつですか。
館長:
平成2年11月3日です。
山木:
すでに20年以上の年月が経っているのですね。開館にあたっては準備期間があったと思いますが、当時のことを教えていただけますか。確かこちらの美術館の基本コンセプトは「20世紀の人間像」でしたね。
江川:
私と学芸員の森は開館の時からずっとおります。
「20世紀の人間像」はもちろん大切ですが、あと「現代版画」と「徳島ゆかりの美術」もあり、この3本柱でどれに重きを置いているということはありません。
山木:
3つの柱が決まる経緯はご存じですか。
江川:
私が来たときには既にアウトラインが決まっていました。お話ししやすいところからいきますと、「徳島ゆかりの美術」というのは当たり前のことだと思います。地域の美術館が地域の美術に目を向ける。地元の美術を徹底的に調べて、情報を全国に発信する。これは各地の美術館が同じように担っている役割だろうと思います。そういう意味で議論するまでもなく自然に決まったと聞いております。
残りの2つはずいぶん有識者の方が集まって、いろいろな話があったと聞いています。変な言い方ですが、当時は美術館の建設ブームの真っ最中でした。全国でいろいろな美術館が建っていて、近代美術という大きな枠を設けても、それだけでは意味を成さない時代でした。バブルが弾ける前の時代で、美術品それ自体も高騰していた。なにしろ当時はゴッホの「ひまわり」が1枚150億でしたか、それぐらいしたのです。徳島県がコレクションのために用意したお金は20億。ゴッホの絵1枚すら買えないのです。つまり、どこかで焦点を絞ってまとまりのあるコレクションをつくらないといつまでたっても何もできなかったんですね。
では何ができるか。少し前に開館した静岡県立美術館は、風景でしたか、そういうテーマで固まりました。郡山市立美術館はイギリス近代美術でしたか、それぞれがいろいろ工夫していたそうです。
そのなかでこちらでは「20世紀の人間像」というのが、現代美術や近代美術をいろんな方に理解してもらうとっかかりとして間違いなく効果をあげると当時の人たちは思ったのでしょう。20世紀の美術はいろんな表現の方法がありますが、人間像だとどんな描き方をしてもこれは人間を描いているのだなと誰が見てもわかります。それがキュビズムで風景画を描いていると何のことかわかりません。取りあえず人間を描いているのがわかれば次の段階として、「なぜ人間をこういう描き方をしたのだろう」と思慮して頂ける。そうすると美術に入っていく入り口になるのではないかと考えたようです。実際にそれは効果を上げていると思います。
企画と収蔵品とのつながり
山木:
収蔵品の多さもこの美術館の特長だと思います。現代の美術で著名なアーティストが幅広く、しかも代表作に近い作品が収蔵されていて、本当に厚みがあります。収蔵されている作品数はどのくらいですか。
江川:
資料も含めて8543点です。その中でいわゆる美術作品と言えるものは約4500点弱ですね。
山木:
収蔵庫も見せていただいたことがあるのですが、かなり大きな作品がありますね。一番大きな作品はどれですか。
江川:
埴輪でしょうか。
全員:
(笑い)
山木:
埴輪は何点ありますか。
館長:
かなりありますよ。みんなでインストレーションで沖洲(おきのす)の海岸で焼いてつくりました。
山木:
そうですか。作家は誰ですか。
江川:
柳幸典さん。その埴輪だけで展示室一室が埋まってしまいます。
山木:
一つひとつの埴輪がパーツに分かれているんですね。
館長:
みんなで小松海岸で燃やして焼き上げました。
山木:
それが一番大きい作品なのですね。
江川:
一番大きいというより、スペースを必要とする作品ですね。これは[学芸員の]森が企画したものです。柳さんがインスタレーションをするというのを提案され、当館の職員も含めていろいろな職員の方が浜で夜通しで焼きました。展覧会はもちろん好評で、終わった後にこの作品はここにおいておきたいと会員たちが思い、柳さんにお願いをしてコレクションさせていただきました。
山木:
そういう企画とつながったコレクションの収蔵というあり方も結構ありますね。
江川:
そうですね。
山木:
その逸話からわかるのは、この美術館が日本の現代美術の作家と関係性が深いということだと思います。
森さんが企画した大久保英治さんの展覧会も鮮烈に覚えています。そういう企画と収蔵品の関係というのは一般の方々にはなかなか見えないんですけれども、企画をすると収蔵品は何かしら増えていく可能性はあるのですか。
江川:
それは作品と出合うきっかけのひとつです。実際に展覧会がコレクションに結びつくのは他にもいろいろあります。今言った現代美術はもちろんそうですけれども、物故作家の展覧会でも展覧会が終わった後にご遺族との話し合いでずいぶんまとめて寄贈して頂くということはあります。
山木:
そういう作品を巡る逸話自体が美術教育にとってもなかなか魅力的な話しで、生きている作家、あるいは亡くなられた作家の美術や作品に対する思いみたいなものが、そういうプロセスの中に浮上することがあるんですよね。