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「美術館に行こう。」-私の美術館体験記 応募作品のご紹介

美術館体験記 岡山県・井原市立田中美術館 写真

倉敷市 三宅さん(男性)

訪問日:2014年12月4日

信長が好んで演じたという幸若舞に「人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢幻の如くなり」というフレーズがある。
自分の年齢がその50歳に達したせいか、「人間が生まれてこの世で何を為すべきか?」という3人称的な問いが、「この後、私は何を成し遂げるべきか」と1人称に変化して自分自身に投げ掛けられてくる。そんな自問自答にヒントが欲しくて、田中美術館を訪れた。

入口でいきなり金箔の五浦釣人の像に圧倒され、とにかく美術館に入り料金を支払う。その際にお金を置くお皿は「いまやらねばいつできる わしがやらねばたれがやる」との有名な句が鋳造されたものだった。
エレベータでまず3階に上がるという順路を案内され、3階に行くとその句のオリジナルの書に出会えた。田中98歳の書らしい。自分で覚悟することが人間の努力を確実にするものだそうだ。仕事に厳しい人だったことが説明表記されている。
3階には平櫛田中の代表作である「鏡獅子」の試作3体の他に、檜の大木を彫刻して途中で、どうも気に入らないと制作をやめた作品もある。
「ここまで作って、なんで止めてしまうのか、もったいない」という素人の感想が頭をよぎる。しかし、すぐに「これも仕事に厳しく完成度を追求した田中の姿勢なのだな」と納得する。
田中の彫刻作品は、幼児や実在の人物を彫った写実的なものや伝説上の人物を一種デフォルメした作品、晩年の気楽坊のようなキャラ重視の作品もあった。どの作品も気迫をまとっている。
彫刻作品の表面あるいは作品人物の皮膚の上に数ミリか数センチの気迫の膜が覆っていて、作品に接する空気の質が硬質で重い。とりわけ、転生という代表作は、迫力という言葉では言い表し尽くせない気迫、いや‘鬼迫’とでも表現すべきパワーにみなぎっている。これらの作品のほとんどが、その周囲を見回せるように展示されているため、見事な作品の背後に回り込んで立体的に鑑賞できるのも嬉しい。

試作・アトリエも含めて日本彫刻界の巨人の作品に接することができ、まさに平櫛田中という巨星を仰ぎ見るという感慨を持てた。その巨星の「六十七十ははなたれこぞう おとこざかりは百から百から」の書は、まだ洟垂れ小僧にも満たない私に「どんなことでもいいから一生涯こつこつとやり通しなさい」と語ってくれたように思う。

尾道市 平川さん(女性)

2014年3月15日

私自身、美術に、そんなに興味ある人ではなかったのですが、月に一度、広島に行く時に、県立美術館とかひろしま美術館に、時々立寄ったりしていたところ、丁度、NHKの講座で美術館めぐりのコースを目にし、参加する事になって、5年です。その美術館めぐりの友達ができ、その方が、このせとうち美術館ネットワークの話をして下さり、私達も参加してみようと思い、美術館に行ってスタンプと思っていたところ、近場でおすすめを教えて下さったのが、“井原市立田中美術館” とても良かったという事で友達と2人で行ってみました。
初めて行って、田中美術館は知っていたけど、行った事がなかったので、とても新鮮でした。
その中でビデオがあって、30分も見入ってしまいました。
いつも美術館めぐりで時間の制限があり、なかなかビデオもゆっくり見る事ができず、今回は、ましてや30分という長い時間だったんですが、個人で参加してたんでゆっくり観る事ができ、内容もよかったのです。
こんなに近い所に、こうゆう美術館があり、知らない事は、たくさん田中作品や田中ゆかりの作家の展示してあって、すごく勉強になりました。2時間くらい観る事ができました。
5年、NHK講座の美術館めぐりに、月一度、いろんな美術館に連れていってもらい、その時期、時期のを見つけて、個人でなかなか行けない美術館にも参加でき、とても月に一度の美術館めぐりを楽しみにしています。私自身、接客業をしている為、お客様との会話で今、やっている事とか先日行った話をして、会話を楽しんでいます。
この井原市立田中美術館の話も、お客様に話をしたところ、友達といっしょに、一度行ってみると言われていました。
井原市出身の巨匠・平櫛田中の事を知っておかないといけませんよね。近くの出身者なんですもの。と いろんな人に、こういう事も口込みで言って行けばいいかな?
でも、自分自身が感動しないと、人には言えないですよね。
これからも、一回一回、観る事を、人に伝えて行こうと思います。

岡山県倉敷市 原さん(男性)

訪問日:2012年10月7日

10月から新たに、せとうち美術館ネットワークに加わった「井原市立田中美術館」を訪れました。入り口で金色に輝く「五浦釣人」が出迎えてくれ、ちょっとビックリしました。ちょうど「ヨーロッパの近代美術 美との対話」展を開催中でした。本来ならば、東京まで行かなければ観ることのできない松方コレクションを中心としたモネ、ルノワール、ゴーガン、ピカソといった有名画家たちの秀逸の作品を、この井原の地で観ることができて本当にありがたく思いました。

別館と3階展示室では、平櫛田中の「試作鏡獅子」をはじめ「活人箭」、「尋牛」等の名品を満喫することができました。木彫、木彫彩色、ブロンズといった多種の彫刻は、それぞれに特徴があって見飽きることはありませんでした。平櫛田中は、国立劇場のホールに飾られた彫像「鏡獅子」で、その名を知られるようになった彫刻家だという認識だったのですが、「書」も非常にすばらしいということを、この美術館に来て初めて知りました。勿論、字も達筆ですばらしいのですが、その内容に感動しました。なかでも、「いまやらねばいつできる。わしがやらねばたれがやる」と「六十、七十ははなたれこぞう、男ざかりは百から百から わしもこれからこれから」、この二つの言葉が、特に印象的でした。

今回、絵画と彫刻の名品を観て、特に好きになった作品は、絵画では、ウイリアム=アドルフ・ブーグローの「少女」、彫刻では、「幼児狗張子」です。どちらも幼児が、その対象になっているのですが、あどけない表情や目元がとても素敵でした。

帰り際に、美術館の外へ出たところで、たぶん美術館の人(?)だと思うのですが、美術館の前の公園にも寄って見られては?!と声をかけてくださいました。行ってみると公園には「田中苑」という名が付けられており、「鏡獅子」の像等が威風堂々と立っていました。椅子に座り、しばし美術鑑賞で疲れた目を休めることができました。

もし皆さんも田中美術館を訪れたら、是非この公園にも立ち寄られることをお勧めします。きっといい思い出になると思います。