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情報誌「瀬戸マーレ」

聖なる島の親子旅

壮麗な世界遺産、宮島へ

神々が宿る島・宮島へ、娘と二人で旅に出た。
海の上に立つ、朱塗りの大鳥居。平清盛が造営した寝殿造りの社殿。
世界遺産である嚴島神社とその周辺の海や山の自然は、
平安朝時代から今に伝える日本の美として、国内外の人々に愛され続けている。
この島独自の歴史や文化に触れながら、冬の海風と共にゆっくり歩みを進めよう。

清盛ゆかりの雅やかな世界

宮島に行ってみたい。いつだったか、そうつぶやいたのを娘が覚えていた。「今度の週末に行ってみる?お父さんの好きな温泉もあるみたいよ」。歴史や史跡が好きな私に、娘がつき合ってくれるとは。気が変わらないうちにと、早速出かけることにした。

島へ渡る連絡船へ乗ろうと宮島口で車を預ける。出航してすぐ、水面の向こうに嚴島神社の大鳥居が近づいてきた。山の尾根は、観音さまの寝姿とも言われているが、確かにそう見えないこともない。さすが世界遺産、神秘的な光景だ。

桟橋から海沿いの道を歩くだけで心が躍る。船から見た大鳥居が間近に迫ってきた。海の青、松の緑に映えて美しい。そしていよいよ、神社へと進む…

海に浮かんでいるような建物。これが平清盛ゆかりの社殿か。廻廊へ足を踏み入れると、ギシギシと木の床が鳴った。水面の光が赤い天井に反射して、ゆらゆらとこちらまで揺れている気がしてくる…平安朝の貴族たちが行き交う廻廊。麗しい姫君が向こうから手を振っている…と思ったら、先を歩いていた我が娘ではないか。いつまでも子どもと思っていたのに、なぁ。

2012年の大河ドラマ「平清盛」で注目が高まっている嚴島神社
2012年の大河ドラマ「平清盛」で注目が高まっている嚴島神社。海上の廻廊もあでやかな寝殿造りの社殿は、平清盛によって造営されたと伝えられる。
安芸守に任命された清盛の夢枕で「嚴島の宮を造営すれば必ずや位階を極めるであろう」とお告げがあったといわれている

祈りの山巡りへ

宮島で世界遺産に登録されているのは、嚴島神社だけではない。周囲の寺院や原始林の広がる弥山もまた、世界遺産なのだ。

日本三大弁財天を祀る「大願寺」で手を合わせてから、「大聖院」へ足を延ばした。ここはかつて嚴島神社の別当職として祭事を行っていたという。広い境内のなかで興味を引いたのは、天井から幾つもの灯りがともる「遍照窟」のお砂踏み。荘厳な空間を一歩一歩、砂を踏みしめながらお参りをした。ここで一句。

「ありがたや、娘と共に有難や。」

神社、寺院巡りの次は、弥山に登ることにした。「弥山に登らずして宮島を論ずるなかれ」との言葉があるほどだ。ロープウエーから見下ろすと、原始林がうっそうと生い茂っている。手つかずの自然は、この先もずっと残っていってほしいものだと思う。

駅を降りてから、山頂までは歩くしかない。勾配のきつい山道ながら道中は面白い。猿の走る姿を見かけたり、海と島の景色に何度も息をのんだり。

冬とはいえ、汗をかきながらたどりついた頂上。ここからの素晴らしい景色を平家の一族も眺めたのだろうか…娘とお茶を飲みながら、ほっと一息ついた。

「遍照窟」では、本尊の前に各霊場のお砂が埋めてあり、八十八箇所巡りをしたのと同じ功徳があるとか
「遍照窟」では、本尊の前に各霊場のお砂が埋めてあり、八十八箇所巡りをしたのと同じ功徳があるとか。他にも観音堂地下には、暗闇を手探りで歩く「戒壇めぐり」のお砂踏み道場もあって、秘かな人気
嚴島神社

住所/広島県廿日市市宮島町1-1 TEL/0829(44)2020
営業時間/午前6時30分~午後5時30分(時季により変更) 休み/なし
拝観料/大人300円、高校生200円、中学生以下100円


大願寺

TEL/0829(44)0179
営業時間/境内自由(本堂は拝観不可) 拝観料/無料


大聖院

TEL/0829(44)0111
営業時間/午前8時~午後5時 休み/なし 拝観料/無料
URL/http://www.galilei.ne.jp/daisyoin/


宮島ロープウエー

TEL/0829(44)0316
営業時間/午前9時~午後4時30分(上り)、下り最終は午後5時(11月~2月。3月以降は上り~5時、下り~5時30分)
URL/http://miyajima-ropeway.info/
※弥山山頂近くの「獅子岩駅」へは、循環式と交走式、2種類のロープウエーを乗り継いで行く。往復1,800円

嚴島神社
嚴島神社

大聖院にある「釈迦涅槃堂」
大聖院にある「釈迦涅槃堂」。金色の涅槃像は、屋外から見ることができる
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ぶらぶらと町歩きもまた愉し

先人たちの知恵を継承した、名産品や文化が息づいている宮島。
もみじ饅頭に焼がきと胃袋を満足させ、宮島彫りの名品に感嘆の声を上げる。
縁起が良いという宮島杓子にお気に入りの文字を書いてもらったり、
親子二人、童心に返って遊び歩いた。

食べて歩いて、また食べて

山を下りて参道に戻り、町屋通りと表参道商店街を散策。町屋通りでは白壁にベンガラ格子と、宮島商家の趣が感じられる。表参道商店街には飲食店が並んでいて、いい匂いが流れてきた。小腹がすいてきたなぁ。

活気ある商店街の店頭で、気軽に味わえる食べ物が色々あった。ここぞとばかりに食べてみた、冬の味覚「焼がき」の香ばしさ。「にぎり天」は、アナゴのものをむしゃむしゃ。と、娘が何か手にして駆け寄ってきた。「なんだ、これ」。「紅葉堂の『揚げもみじ』。もみじ饅頭をフライにしてるんだって」。ふぅふぅ息を吹きかけて食べている。そうか、宮島といえばもみじ饅頭だ。「ひとくち、くれよ」「えー」と言いつつ差し出す娘。揚げたてが香ばしい。そのとき、「もみじ饅頭の焼きたてを1個からどうぞ!」との呼び声が。ホカホカのチョコを選んでかぶりつく。「お父さん、私も!」。「いやいや、これは一人一個だ」と言うと、むくれた娘に小銭を渡した。

ぶらぶらと町歩き
ぶらぶらと町歩き

(写真左)登録商標「揚げもみじ」は、紅葉堂の本店と弐番屋の店頭で味わえる。(写真右)店頭で焼き上げる「焼がきのはやし」は、店内で食事もできる
(写真左)登録商標「揚げもみじ」は、紅葉堂の本店と弐番屋の店頭で味わえる。こし餡、クリーム、チーズの3種類で1個150円
(写真右)店頭で焼き上げる「焼がきのはやし」は、店内で食事もできる。焼がき4個1,050円。生がき1,300円もあり
焼がきのはやし

TEL/0829(44)0335
営業時間/午前10時30分~午後5時(4時30分LO) 休み/水曜


紅葉堂

TEL/0829(44)1623(弐番屋)
午前9時30分~午後6時頃。季節により変更あり 休み/不定休


九州屋

TEL/0829(44)0555
営業時間/午前10時~午後5時頃 休み/不定休

九州屋の手作り「にぎり天」は、アナゴにネギタコ、チーズベーコンもあり 九州屋の手作り「にぎり天」は、アナゴにネギタコ、チーズベーコンもあり。一律300円

伝統工芸士の華麗なる技

腹ごしらえをして満足し、店先に色鮮やかなお面を見つけて、どれ、変身。ふざけて笑い合っていると、店の奥に並んだ、丸い木彫りのお盆が目に入った。

細かい彫りで、宮島の大鳥居に松、鹿、海の風景が生き生きと描かれている。近寄ってよく見ると、地味ながらその精巧さが素晴らしく、なんともシブい。そんなふうに感動していると、「宮島彫りですよ。宮島に来て初めて出合えるものです」と、店の人。聞けば宮島でただ一人の伝統工芸士、広川和男さんご本人ということだった。

広川さんは民芸店「ひろ川」の店内で、宮島彫りを続けて40年近いそう。宮島の風景を中心に、迫力ある龍や、身近なネコ・サル・花といった動植物等を、鮮やかな彫りで描いている。

大胆に刃を当てて、あっという間に鳥居や紅葉が彫られていく様は、まさに神技だ。宮島彫りの技法には、「浮かし彫り」「しずめ彫り」「すじ彫り」の3種がある。これらを混じえて描き出された「宮島風景」には、作り手の魂が込められているのだろう。見れば見るほど圧倒される。「宮島は島全体が神。島に手をつけない、変わらないことが大事です。これが難しいけれど、宮島の凄さでもあります」と、広川さん。いつまでも変わらないでいてほしい。

こんな顔はどうだ? 親子で遊びながら道を行く
こんな顔はどうだ? 親子で遊びながら道を行く

宮島彫り唯一の継承者で伝統工芸士の広川和男さん
宮島彫り唯一の継承者で伝統工芸士の広川和男さん。
「今、私が継いでいるこの技術は、先人たちが苦心して積み上げてきた力によるものです。続けていくほど、その凄さが身に染みます」
ひろ川

住所/広島県廿日市市宮島町1-8 TEL/0829(44)2504 営業時間/午前9時~午後5時30分 休み/不定休

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湯けむりドラマが目に染みる

島内唯一の源泉掛け流し温泉を誇る「錦水館」では、
冬の味覚の王者、絶品牡蠣コースを味わいたい。部屋の窓から眺める夕景と、
大鳥居のたたずまいに見とれて過ごす、安らぎとくつろぎの時間。
娘との、心温まる思い出の1ページに。

宮島唯一の掛け流し湯で

今宵の宿は、海辺に面した「錦水館」。私たちが案内された部屋の窓からは、目前に海を見渡せた。窓に向かってソファが二脚並び、海をゆっくり眺めてみる。次はぜひ妻を連れてこよう、と考えていると、左手に赤い影が。お、大鳥居も見えるぞ。

ちょうど夕刻だった。海と空が黄金に輝き、バラ色に移ろっていく。はかなくも鮮やかで、人の心や人生にも見える。栄華も衰退も自然の懐に飲み込まれて、宮島の夕景は美しい。

娘は宝物を見つけた子どものように、瞳を輝かせている。それにしても大人になったなあ。なんだか、まぶしい。

海の夕景色を楽しんだあとは、さて、温泉に入りに行くとするか。歩き回って疲れた足腰をお湯でじっくりほぐそう。

ここ錦水館には、宮島唯一の「源泉掛け流し温泉」がある。これが楽しみだったのだ!神の島の地下から、こんこんと湧き出るお湯、そう思うと気分がいい。やわらかいお湯が腕に肩に顔に、かかった先からツルツルしてくる。

全身桜色になって部屋へ戻る。ポカポカ感が続き、湯冷めしない。しばらくして娘も戻ってきた。やはり頬っぺたは、ピンク色をしていた。

宮島は北向きの島
宮島は北向きの島。部屋の窓左手が西になり、天気の良い日には輝く夕景を見られることもあり

客室「海風」より。オーシャンビューで、窓からは大鳥居の姿も
客室「海風」より。オーシャンビューで、窓からは大鳥居の姿も。眺望カウンターのソファーでくつろぎつつ、海と空の景色を眺める、ぜいたくな時間を過ごしたい。なお、部屋での食事は通常、客室「オトナの休日」「和室スイート」のみ

プリップリの牡蠣づくしの後は…

広島の冬の味覚の王者といえば、やはり牡蠣だろう。温泉でじっくり温まったあとは、「絶品牡蠣コース」に舌鼓を打った。

次々と運ばれてくる牡蠣料理の皿に娘も思わず、「こんな大きな牡蠣、食べたことがない!」などと叫んでいる。なんといっても広島牡蠣の「かき小町」だ。焼き牡蠣はプリプリの肉厚で、口に入れるとジューシーな汁が広がっていく。なんとも香ばしい匂いに食欲をそそられる。牡蠣の低温蒸しには酢ジュレがかかっていて、上品な味付けながら食べごたえ十分だ。さらに宮島産牡蠣のフライに鍋、汁物、釜飯と、牡蠣づくしの醍醐味を、ほろ酔い気分で存分に楽しんだ。

「美味しいねえ」と何度目か分からない言葉を口にして、娘はニッコリ微笑んだ。そして言ったのだ。

「お父さん、私、結婚したい人がいるの」。なに?!…酔いがいっきに醒めた。

そうだったのか。この旅の本当の目的を、今、初めて知ってしまった。

牡蠣釜飯には、錦水館契約栽培の桑田米を使用
牡蠣釜飯には、錦水館契約栽培の桑田米を使用。牡蠣のしっかりしたうま味にマッチ
錦水館

住所/広島県廿日市市宮島町1133
TEL/0829(44)2131
営業時間/レストランひめあかり=午前11時~午後2時30分LO
日帰り温泉=午前11時30分~午後10時
休み/不定休
URL/http://www.kinsuikan.jp
※客室「海風」2名1室で21,000円~(1泊2食付)。
その他は問い合わせを

冬のおすすめ「絶品牡蠣コース」は全部で11品。季節物の前八寸や、鮮魚の盛り合わせ、牡蠣と地穴子の山掛けに、自家製デザートも付いている。絶品牡蠣宿泊プランは2012年2月29日(水)まで

冬のおすすめ「絶品牡蠣コース」は全部で11品冬のおすすめ「絶品牡蠣コース」は全部で11品

みどころ

●みやじマリン(宮島水族館)

瀬戸内海をまるごと感じられる水族館として、2011年8月にグランドオープン。
人気のスナメリを見られるほか、アシカライブもあり。メインの大水槽は、頭上に張り出して、泳ぐ魚たちを下から見上げることができる。


住所/広島県廿日市市宮島町10-3
TEL/0829(44)2010
営業時間/午前9時~午後5時(入館は4時まで)
休み/12月26日~30日
URL/http://www.miyajima-aqua.jp

スナメリ
●春を呼ぶ宮島清盛まつり

宮島の繁栄の礎を築いた平清盛公の威徳を偲んで、平家一門の嚴島神社参詣行列をモチーフとした祭り。


日時/2012年3月18日(日)午後1時から行列出発
開催場所/宮島桟橋前広場を出発、表参道商店街、御笠浜、嚴島神社参拝を経て、清盛神社への行列

春を呼ぶ宮島清盛まつり
●かき祭り

かき供養法要、鏡開き、祝い唄のあと、宮島特産の牡蠣をせいろ蒸しにした料理や、牡蠣の直売も。


日時/2012年2月11日(土)、12日(日)の午前10時~午後3時頃まで
開催場所/宮島桟橋前広場



かき祭り
●大鳥居・社殿のライトアップ

日暮れには大小の灯籠に灯りがともって、大鳥居・嚴島神社・五重塔・多宝塔がライトアップされる。
※嚴島神社の夜間の昇殿は不可

大鳥居・社殿のライトアップ
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