室戸岬の大海原を目前に、車を降りた。学生時代の女友達4人で訪れる、旅の始まり。冬とは思えない暖かな陽光に包まれる。

室戸に住む友人から、「遊びにおいで！」と集合がかかったのは少し前のこと。地質遺産の「室戸ジオパーク」と、お肌にいい「海洋深層水」の恩恵にあずかれるらしい。そこで好奇心旺盛な旧友たちも誘って訪れることになったのだ。

荒波ながら、気候は穏やかな室戸。ハイビスカスの赤い花も見つけて、「あらまあ」と感嘆しきり。どこか異国に来たみたい。海から吹く風が心地よく頬をなでていった。

友人が最初に案内してくれたのは、不思議な形をした岩だった。真っ黒の巨大な岩板を、縦に何枚も重ねたような形で、まるでクリスタル・クラスターのように天に向かってそびえている。「岩じゃなくて、これは地質なの」と説明してもらう。タービダイト層というらしい。頭上高くから地球の息吹が聞こえてきそうな存在感がすごい。この地層に囲まれて、今、地球の胎内に戻ったことになるのだろうか、なんて感じた。

次に、東へ向かう海岸線の「乱礁遊歩道」を歩いていく。道沿いにはサボテンやウバメガシなど、亜熱帯植物があちこちに自生して、南国に来たという実感が湧いてきた。「ジオパークって岩ばっかりかと思ってたわ」と一人が言えば、「変わった植物が多いわね」と感心し、「あ！あの岩、人の顔みたい！」なんて一人が叫ぶ。

やがて、巨大な老木にたどりついた。からみつくような根の上に、四方八方に手を伸ばした「アコウの大木」が堂々とした姿で立っている。

室戸では海から激しい風が吹く。一年を通して吹きつける風の力は半端ではないらしい。その強風から身を守り、踏ん張って根を張るうちに、アコウはねじれたタコ足のようになっていった、という話だ。大地に根を張る姿は、どこか女たちのたくましさを表している気がする。「母は強し、女は気高し」なのだ。

そこから国道へ戻り、山側にある「御厨人窟」を訪ねた。若き日の弘法大師がここで生活しながら、悟りを開いたという洞窟だ。室戸から見る果てしない空と海が、空海の名の由来とも。現在より海岸線が迫っていたというから、波の上がる臨場感は凄まじかったことだろう。

室戸の大いなる自然に触れた後は、お待ちかねの海洋深層水テラピーへまっしぐらに進んだ私たち。

岬の東海岸に立つ「星野リゾート　ウトコ　オーベルジュ＆スパ」は、全室オーシャンビューのホテルでもあり、癒しのスパ施設。客室もとびきりゴージャスでラグジュアリーだ。

まずは屋内の深層水プールで浮き輪を使って、体を水に預けて浮かんでみた。これぞまさしく、海の恵み。お肌の細胞が喜んでいる気がする。心もすうっと落ち着いてきた。深層水のソフトな肌すべりが心地いい。

そのうち、友人2人が「海泥パック」を受けに行った。室戸の友とプールに残る。「こうしていると、がんばり過ぎはよくないって分かるのよ」。そうじゃない？という表情でこちらを見る。がんばってきたから。あなたもでしょ、と。「…そうね。年を重ねるって、手放すことかも」。微笑み合う私たち。

そのとき、「もう最高！」と興奮しながら2人が戻ってきた。娘時代に戻ったかのように、頬を紅潮させている姿が可笑しいし、可愛い。「ちょっと若返ったんじゃない？」「そんなに早く？魔法じゃあるまいし」と笑い、みんなで喜んだ。

身も心もすっきりと浄化されたみたい！と、はしゃぎながら、夕食へと向かう。黒潮イタリアンというから期待大。家のことも仕事のことも、今は忘れて、みんなで乾杯しよう。

聞けば室戸の新鮮な食材を、その持ち味のまま生かした料理が黒潮イタリアンの特徴だそう。海の幸に山の幸が海洋深層水で調理され、鮮やかな彩りの料理となって並べられていく。

「これが深層水茄子？」「ソースが凝ってるわね」と、自宅では味わえないプロの味に、ああだこうだと味付けを推察し合う。日頃のストレスから解き放たれて、遊び心も膨らんできた。たっぷりと潤った気持ちで、好きなタレントの話に移ると、さらに盛り上がる。グチも自慢も一切ナシ。ただ、ひたすらに笑い続ける。

可笑しすぎてこぼれた涙をふきながら、ああ、これが女子会というものなのね、と思い当たる。

帰ったら家族も周囲も驚くだろう。今までと違う私。どうしたの？と聞かれたら、「室戸パワーよ！」と答えよう。友人たちの笑顔を見ながら、私はそう決めていた。