ホーム > 瀬戸マーレ vol.16 > せトラベル 岡山でファンタジックな色を浴びる
情報誌「瀬戸マーレ」

岡山でファンタジックな色を浴びる

つややかなベンガラに魅せられて

赤い石州瓦と、ベンガラ色に塗られた外壁が続く吹屋の町。
かつて、銅山とベンガラ業で栄えた豪商たちが、島根の石州より宮大工を呼び寄せて
整備したのだという。
今も「ふるさと村」として大切に保存され、訪れる人々の心に郷愁を湧かせてくれる。

豪商が彩った吹屋の町並み

岡山県中西部の山間にある、銅とベンガラの町、吹屋。江戸時代から明治にかけて、赤色顔料のベンガラ製造により、巨万の富が生み出された町である。現在は、吹屋ふるさと村と称する観光地。赤褐色の古民家が建ち並ぶ景観を、ぜひ一度見てみたい。

町に着き、ボランティアガイドの広兼一勇喜さんに案内してもらった。建物はベンガラ色に統一されて、独特の赤い色を放っている。壁の一部がほんのりピンクがかっているのも美しく、色のシャワーを浴びているようで歩くだけで楽しい。

「郷土館の座敷の壁は、初めにベンガラを塗り、後から漆で仕上げています。建築材は、土台と外柱が栗、敷居は桜とすばらしいものですよ」と、熱心に説明してくれる広兼さん。
旧片山家住宅では、母屋の横に土蔵が構えられ、当時の商家の繁栄ぶりが感じられる。外壁は、腰高格子や出格子、海鼠壁(なまこかべ)と意匠を凝らした造りだ。

町の中心から少し離れた広兼邸は、山の斜面に城郭のごとくそびえ立つ。映画のロケ地としても名高いお屋敷で、1810年の建築である。庭園には池や築山に水琴窟まで配され、茶室に土蔵、向かいの山には個人の神社まであると聞き、その豪勢さに驚いた。

ボランティアガイドの広兼さんに、町の歴史を教わった
ボランティアガイドの広兼さんに、町の歴史を教わった

旧片山家住宅のお屋敷
旧片山家住宅のお屋敷

ベンガラの歴史に触れる

ベンガラ館では、明治の工場を復元して、ベンガラの製造工程が展示されている。当時のベンガラは、銅山の鉄鉱石から作られていたので、その原料となる硫化鉄鉱や、緑色の結晶体・ローハもここで見ることができる。ローハを焼いて、赤いベンガラができるのだ。この製法は、1707年に偶然に見つかり、その後のベンガラの興隆は、吹屋の町並みが証明している。

今ではこの製法は廃れて、吹屋でベンガラが作られることはない。とはいえ、今もベンガラはあらゆるシーンで活用されている。陶器や建築用にはもちろん、ビデオテープや磁気カード、アスファルトの着色など、枚挙にいとまがない。それを知って、もう一度、赤く輝く町を歩けば、やわらかで磁力に満ちた吹屋ベンガラの色の中に、強い生の力を見た気がした。

(写真上左)2012年に廃校となった旧吹屋小学校(写真上右)笹畝坑道(写真下)広兼邸は市指定重要文化財
(写真上左) 2012年に廃校となった旧吹屋小学校
(写真上右) 笹畝坑道
(写真下) 広兼邸は市指定重要文化財。江戸末期に建てられた。大正建築の離れ座敷は、当時の当主の結婚式用に増築されたものの、それ以後は使用されなかったそうだ
「銅とベンガラの里 吹屋ふるさと村」

住所/岡山県高梁市成羽町吹屋


●郷土館・旧片山家住宅    大人400円
●笹畝坑道    大人300円
●広兼邸    大人300円
●ベンガラ館    大人200円

ベンガラ館では製造工程を学べる(写真左)。ベンガラ粉(写真右)。
ベンガラは酸化第2鉄を主成分とする赤色顔料で、その名前の由来はインドのベンガル地方といわれ、陶磁器の絵付け、漆器、建築木材の塗装、のれん染めなどに使われてきた。
ベンガラ館
周遊券
TEL/吹屋観光協会
0866(29)2222
ボンネットバス
●ボンネットバス

JR備中高梁駅前バスセンターを9時48分に出発し、吹屋到着後は各施設を巡回。


2013年4~6月、9~11月の土日・祝日運行
TEL/高梁市商工観光課 0866(21)0217
備北バス株式会社 0866(48)9111


●ボランティアガイド

吹屋ふるさと村の住人による案内で、ガイド1人につき2時間3,000円、10日前までに要予約。
TEL/同上 吹屋観光協会まで

●吹屋ベンガラ灯ろう祭り  2013年5月4日(土)5日(日)に開催予定

吹屋散策

「麻田百貨店」

軒先にベンガラ色の雑貨が並んだ、「麻田百貨店」。ベンガラ染めの帽子にカバン、ストール、焼き物など、その独特の色合いに惹かれてしまう。明治から続く土産物店の老舗で、店主の麻田昌孝さんは4代目。ベンガラの染料には赤と黒があり、最近、かつての片山工場製造の古い赤ベンガラを分けてもらったそう。その貴重な染料からどんな色が出るか楽しみにしている。


TEL/0866(29)2311
営業時間/午前9時~午後6時30分
休み/不定
URL/http://www.bengara.co.jp

麻田百貨店
「藤森食堂」

お昼どきに入ったのが「藤森食堂」である。具だくさんの手打ち田舎そば、もっちりした山菜おこわなど、旬の素材を使った郷土料理は、素朴ながらうまみたっぷりの品ばかり。「おだしをしっかりとって、具をたくさん入れています」との言葉通り、心にじんと沁みる、あったか手作りの懐かしい味だ。


そば定食800円(写真右)。
鶏肉のだし汁に、ゴボウ・ニンジン・豆腐などの具がたっぷり。


TEL/0866(29)2907
営業時間/午前11時~午後6時
休み/月曜

藤森食堂
「吹屋の紅や」

茅葺き屋根のおしゃれな古民家カフェを見つけた。ドアを開けると、センスのよい空間が広がる。香り高い紅茶をいただいて、店内に飾られた雑貨や古道具をじっくり吟味。カラフルなラムネ瓶や、愛らしいカバのグッズにくつろいだ気分になる。ギャラリーも併設されて、地元作家の作品が数多く展示されていた。


ゆったりとくつろげる店内。店主の大場正康さん(写真上左)は、隣の町で備中宇治彩りの山里・農村型リゾート事業に関わりながら、吹屋でカフェを展開。現在、吹屋で若手アーティストの応援にも意欲的だ。相棒の古美術収集家・石部誠さん(写真上右)と新たな計画を密談中?


すぐ近くにある姉妹店の金子やでは吹屋名物・ベンガラ黒カレー(写真下)を注文。
赤カレーもあり各800円、両色入りは1,000円。紅やのおすすめは香り高い地産の高梁紅茶(450円)。


●「吹屋の紅や」

TEL/090(2001)7202
営業時間/午前10時~午後6時
休み/金曜、不定

吹屋の紅や
吹屋名物・ベンガラ黒カレー
ベンガラ黒カレー
TOPに戻る

モダンカラーがそよぐ町、勝山

白壁に格子窓、軒先にはのれんが連なる可憐な町。岡山県真庭市勝山は、
県初の「町並み保存地区」である。
伝統にモダンが加わって、勝山は日々進化しているのだ。
老舗の造り酒屋や、地元の商店、個人の家の前にものれんがかかり、
生き生きとした町の雰囲気を生みだしている。

革新する日本酒パワー

うまい酒がある。そう聞いていそいそと出かけた、とある春の日。

旧出雲街道の宿場町として栄えた勝山は、古い家屋が立ち並ぶ、情緒豊かな町並みだ。すぐ横を旭川が流れ、その川沿いの御前酒蔵元・辻本店の煙突から煙が立ち上るのを見つけた。

200年余り続く同蔵では、現在、岡山で初の女性杜氏、辻麻衣子さんが老舗の技を受け継ぎ、若手蔵人たちと共にGOZENSHU9シリーズを作っている。

なめらかで芳醇なうま味に、キレのある後口。革新する日本酒として、若い世代にも愛される、すっきりとした飲み口だ。熟成された菩提もと※の酸も際立ち、惚れ惚れする味わいである。

蔵を改築したレストラン西蔵では、日本酒に合う料理を楽しめるようになっていた。魚の粕漬けは、酒蔵ならではの酒粕の豊かな香りがいい。立派な梁のある高い天井の下で、くつろいだひとときを過ごした。

飲みやすさがうれしい、GOZENSHU9シリーズ
飲みやすさがうれしい、GOZENSHU9シリーズ。通年販売のレギュラーボトルを中心に、夏・秋・冬の限定品、ゆず酒のイエローボトルもあり。幻の酒米・雄町米に、日本最古の製法で独特の酸味を持つ菩提もと※を用いている

※「もと」は漢字表記では[酉元]
御前酒蔵元 辻本店

女性杜氏の辻麻衣子さん。
うまみとなめらかさ、飲みやすさの「自分たちにしかつくれない味」は、若手9人で作りだしたもの。


住所/岡山県真庭市勝山116
TEL/0867(44)3155
営業時間/売店=午前9時~午後5時
休み/なし(年末年始をのぞく)
URL/http://www.gozenshu.co.jp

女性杜氏の辻麻衣子さん
酒蔵レストラン 西蔵

西蔵膳(2,310円)。前菜三種盛には鶏肉の粕漬けをスモークしたものも。
メインは銀鱈の粕漬けで、御前酒の吟醸粕を使用。
食前酒と一部食材は季節によって変更。この日は、美作の搾りたて。


TEL/0867(44)5300
営業時間/午前11時~午後2時30分L.O.
休み/木曜

※燭・楽・酒・席~ローソクのあかりだけで楽しむ、
季節の地酒とおしゃべりと~(辻本店/如意山房にて)
2013年4月13日(土)午後5時30分開場、開宴は午後6時~9時。
参加費5,000円、完全予約制


酒蔵レストラン 西蔵

西蔵膳(2,310円)

夢を編み込む竹細工

勝山では、創作活動をしたいと移り住む若いアーティストが増えている。伝統竹細工を作る平松幸夫さんも、その一人だ。勝山は、全国でも有名な竹細工の産地。「僕自身が大好きな青竹細工。廃れてしまう前に、技術を受け継いで腕を磨ければ」と話してくれた。

平松さんは青竹を用いることにこだわり、日常に使いやすい炊事ザルやパンかご、手さげカゴを制作。山で採ったツヅラを縁に巻いている。青みがかった色合いで、そのナチュラル感が美しい。使い込むことで色が変化していくのも楽しみだ。

出来上がったばかりの青竹細工を手にとらせてもらった。爽やかな竹の香りを嗅ぐと、無性に懐かしさを覚えた。


平松竹細工店

住所/岡山県真庭市勝山719-1
(武家屋敷館付近)
TEL/070(5671)1836
営業時間・休み/不定
※一日体験出前教室あり

色のコントラストも楽しめる、手さげカゴ
色のコントラストも楽しめる、手さげカゴ
ナタで竹を削り、厚みをそろえて美しく仕上げる
ナタで竹を削り、厚みをそろえて美しく仕上げる。青竹を用いた実用品の職人は、全国でも数少ない

のれんが生んだ町づくり

勝山では、軒先に飾られたのれんを見て歩くのも興味深い。一軒ずつ色もデザインも異なって、何のお店か分かる具体的なものから、抽象的な柄まであり、個人の家の前にもかかっている。

3年ごとに新調されるのれんは、そのたびに色やデザインを変える。青や赤の鮮やかな色もあれば、グラデーションが連なる淡い色調もあって美しい。ポップな絵柄は親しみやすく、各店や家の思いがユニークに表現されている。こののれんを手がけているのが、染織作家で、ひのき草木染織工房の加納容子さん。「今年で16年目。当初に比べて、こうしたい!という、町の人のデザイン力が育ってきているんですよ」と、うれしそうな表情だ。

現在では多くの観光客が訪れて、町の人と、のれんをきっかけに話す姿も見られる。勝山の人々が本来持っていた気立ての良さを、のれんが引き出してくれたのだ。
おもてなしの心とのんびりとした空気が流れる勝山。その町並みを彩ったのれんが、今日も優しく手招きしてくれている。


のれん

勝山で生まれ育った加納さん、大学進学で上京したが、家業を継ぐためにUターンした
勝山で生まれ育った加納さん、大学進学で上京したが、家業を継ぐためにUターンした。
そのときに、店先に手染めののれんをかけたことが、その後の町づくりのきっかけとなった。のれん一枚一枚にストーリーやメッセージが込められている。「生活している人々が、楽しみながら続けることが何より大切です」
ひのき草木染織工房&ギャラリー

加納さんが開く、ひのき草木染織工房&ギャラリー。
自身の作品ほか、勝山や県内の作家作品もそろう。


住所/岡山県真庭市勝山193
TEL/0867(44)2013
営業時間/午前10時~午後6時
休み/水曜
URL/http://hinoki.exblog.jp

ひのき草木染織工房&ギャラリー
TOPに戻る