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晴れの国の美味を、伝統の備前焼で味わう

晴れの国の美味を、伝統の備前焼で味わう

備前焼は古代の土器、須恵器に起源をさかのぼる日本で最も古い焼き物の一つだ。
釉薬をかけず、土を固く焼き締めただけの、素朴で控えめな茶器や食器は 名だたる食通たちに愛されてきた。
そんな器と美味を求めて秋の一日、備前焼のふるさと伊部にやってきた。

赤煉瓦の煙突が旅情をそそる焼き物のまち

岡山市から東へ車で1時間ほど、伊部のまちは旧山陽道に沿って続く。窯元の作業場やギャラリーが軒を連ね、各所に赤煉瓦造りの煙突が突き出ている。しばらく歩くと天津神社だ。陶業地の神様らしく、鳥居脇には備前焼のコマ犬が鎮座し参道の敷石、屋根瓦など至る所に備前焼が使われている。神社の裏山には、桃山時代に築造と伝える北大窯跡があり、まちの中には江戸時代の巨大な登り窯、天保窯が保存されている。路地に入ると窯焚きに使う大量の薪が積み上げられていたり、古い土塀に焼き物の破片が埋まっていたりするのが、いかにも備前焼のまちならではの風情を醸している。

北大窯跡 桃山時代に、北・南・西の3つの共同窯が築かれた。現在、石碑が建つあたりに窯の面影はないが、足元を探ると陶片がたくさん転がっている。陶片は貴重な遺物なので、持ち帰ることは厳禁。(国指定史跡)
1200度の高温を保つために、松脂が多く火力が強い赤松が薪として使われる。
路地に入ると、ところどころに懐かしい趣の土塀が残っている。
天保窯跡 江戸後期(天保3年)から昭和初期まで使われていたという登り窯。幅4m×長さ16mもあり、現在は保存のために屋根が設けられている。
天津神社 焼き物のまちの氏神さま。陶業繁栄を願って、境内至る所に備前焼の瓦や干支の焼き物などが奉納されている。
窯を焚くのは春先と秋口が多く、その時期になると、煉瓦造りの煙突から競うように煙が立ちのぼる。

若い感性で備前焼の魅力を発信する

33歳の新進作家、森敏彰さんの宝山窯を訪ねた。 備前焼は、各窯元が独自に田土を精製し数年かけて良質の粘土を作るところから始まる。焼成も1200度を超す高温で2週間近く焼き締めるなど、窯出しまでにほぼ一か月を要する。高温・長時間の焼成で焼きあがる器は堅牢で壊れにくく、また無釉薬なので通気性に優れ、水が腐らず味も良くなるという。しかし、使用する土や窯入れの手法、窯の温度管理など複雑な条件によって、作品の質感や色・模様などは微妙に異なり、一つとして同じものはできない。難しい焼き物だ。

「縛られた条件の中で、いかに自分の個性を表現していくかというのが難しい。でも同時に、それがこの仕事の魅力なんですよ」。伝統技法を受け継ぎつつ、若者にアピールする新しい備前焼の世界をつくりたいと語る森さんの手で、一千年の歴史を持つ備前焼がどう進化していくのか楽しみだ。

炎の加減や灰の付き方で多彩な表情が生まれる。
森敏彰さんは備前焼の伝統を継承してきた六姓(木村・金重・森・大饗・頓宮・寺見の6窯元)のひとつ、寺見家の直系。
“揺れる”ぐい呑 底部が半球形で、突ついてゆらゆらするのが楽しい。
陶玉-Set of Mouth- 円筒形のゴブレットが接合されて、球形に。不思議な感覚のオブジェ。
【窯見学】

宝山窯では毎年5月頃に窯焚き作業を一般公開している。「陶友会」に問い合わせれば、公開予定の窯元と公開時期(春先・秋口が多い)を教えてもらえる。
陶友会   TEL/0869-64-1001(9:30~17:30) 定休日/毎週火曜日(祝日の場合は翌日)と年末年始

【DATA】宝山窯

住所/岡山県備前市伊部710 TEL/0869-64-2497  営業時間/10:00~17:00   定休日/不定休

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備前焼の器は、そこに盛るものを選ばない

備前焼はことさらに主張をしない、という。
派手で精妙な絵柄が描かれた皿や鉢に料理を盛ると、 どちらが主役か分からなくなってしまう。
その点、素朴な色合いの備前焼の器は必要以上に 存在を主張せず、さりげなく料理を引き立ててくれる。

備前焼で食す、瀬戸内の新鮮な海の幸

窯元で教えてもらった「心寿司」を訪れた。お店はJR赤穂線伊部駅から歩いてすぐ。大きな声で迎えてくれたご主人の後ろには、見事な備前焼の大皿が何枚も壁に並んでいる。周囲を見回すと、テーブルに供されている皿や小鉢などもすべて備前焼だ。高価な茶器や美術品的なイメージを抱いていた、備前焼が無造作に並んでいるのを見て驚く。

40年前にこの店を始めた先代が、備前焼が好きで少しずつ揃えてきた。「派手な器ではせっかくの食材が映えません。その点、渋い備前焼は料理の彩りを引き立たせてくれますから」と店主の中村さん。こうして日常的に使われてこそ、備前焼の器本来の良さが活きると言う。「酒器などは使うほどに手になじんで、深みのある色合いになるんですよ。」

備前焼を眺め、手触りを楽しみながら旬の幸を味わう。焼き物愛好家ならずとも、幸せな気持ちにさせてくれる店だ。

 
緋襷(ひだすき)模様の皿に寿司がよく似合う
サワラのたたきは、このあたりの名物。上物の新鮮なサワラを自家製ぽん酢で味わう。冬場は、カキ・ナマコ・地場のフグなども。
岡山名産ママカリは地物を使っているので、天候によっては仕入れのないときも。
【DATA】心寿司

住所/岡山県備前市伊部1506
TEL/0869-64-0288
営業時間/11:00~14:00/17:00~21:00
定休日/水曜日(祝日の場合は翌日)

備前焼と備前カレーの取り合わせ

備前焼の器で食べる備前カレーが人気のお店。備前焼の販売もあり陶芸体験などもできる。備前カレーや備前バーガーとセットでオーダーできる、しょうゆぶっかけソフトは不思議に美味しい。
右/備前黒牛といちじくジャムのキーマカレーセット
(コーヒーorソフト付)1,080円

【DATA】衆楽館本館

住所/岡山県備前市伊部597
TEL/0869-63-1019
営業時間/10:00~17:00
定休日/水曜日

まち歩きの途中に、ギャラリーで休憩&スイーツ!

ギャラリーには、人間国宝・山本陶秀(故人)一門の作家たちが手掛けた作品が並んでいる。女性作家の作品にはかわいい小物などもあるので、奥のカフェで休息をとりながら店内を見て回るのも楽しい。素人の質問にもやさしく解説してくれる。コーヒー、スイーツなどのほかに軽食もあり、器はほとんど備前焼を使用。
左/スイーツセット(コーヒーorティー付) 800円
右/甘麹ベリーシェイク 550円

【DATA】備前焼ギャラリー喫茶里房

住所/岡山県備前市伊部1530
TEL/0869-64-1187
営業時間/10:00~17:00(ギャラリーは17:30まで営業)
定休日/木曜日(祝日の場合は営業)

こんな楽しみも

【DATA】(協)岡山県備前焼陶友会 展示即売場

伊部駅ビルの2階に、備前焼の窯元・作家など約170人が所属する備前焼陶友会の展示即売場があり、おもな作家の作風を一度に見ることができる。
住所/岡山県備前市伊部1657-7、備前焼伝統産業会館内
TEL/0869-64-1001 営業時間/9:30~17:30
定休日/ 火曜日(祝日の場合は翌日)、12月29日~1月3日

「第33回備前焼まつり」は、
10月17日~18日(土・日)の2日間開催!

備前焼まつりは、全国から焼き物愛好家が訪れる年に一度の大イベント。この日は、備前焼陶友会の会員店舗と特設会場で展示販売される作品がすべて2割引きで購入できることから、毎年10数万人の備前焼ファンでにぎわう。17・18日の会期中は、歌謡ショーや備前阿波おどり、グルメ販売、お茶席、抽選会、ろくろ実演など伊部のまちの各所で楽しい催しが繰り広げられる。

※駐車場(無料)2000台あり。ただし、周辺道路の混雑が予想されるため、公共交通機関の利用がおすすめ。
会  場:備前焼伝統産業会館及びJR赤穂線伊部駅周辺
問合せ先:岡山県備前焼陶友会(TEL/0869-64-1001)

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