
カフェには夢二郷土美術館版元の夢二復刻木版画がかけられ、気に入ったらカフェの横にあるミュージアムショップで購入できる。写真の作品は《憩い》。
岡山後楽園の北側、夢二郷土美術館の敷地内にある「art café 夢二」。扉を開けると大正ロマンの香り漂う優雅な空間が広がる。夢二の版画が吊るされ、夢二のデザインの椿、いちごなどが壁やテーブルなどにあしらわれ、モダンな家具やインテリアとマッチして美しい。
夢二は画家、詩人、デザイナーとマルチに活躍し、暮らしの中の美を大切にし、当時の西洋美術など、最先端のものを取り入れた。そんな夢二の思いを豪華列車を手がけている水戸岡鋭治氏がアレンジしてこのカフェで形にしているのだ。大正と現代のデザイナーの時空を超えたコラボレーションなんてかっこいい。美術鑑賞と合わせての利用はもちろん、カフェだけでも無料で利用できるのがうれしい。
「art café 夢二」では、甘党の夢二がこよなく愛した焼菓子「ガルバルジィ」を味わえる。さっくり焼き上げた生地とたっぷりのレーズンの香りと甘みは後を引くおいしさだ。黒猫のチョコが乗った「黑の助ガトーショコラ」はキュート。夢二の絵には黒猫が描かれているが、実はそっくりな仔猫が5年前に美術館スタッフが助けてきたことが縁で、「黑の助」と名付けられ、お庭番(現在は昇格してお庭番頭)をしているのだ。
紅茶好きの夢二が喜びそうなオリジナルブレンドの岡山高梁産の和紅茶や、日記などに登場するカモミールティーやオリジナルブレンドのコーヒーと一緒に味わうと、夢二にもてなされているよう。大正時代を思わせる洋食もあり、美しいもの、おいしいものに満たされて幸せだ。
夢二芸術の魅力は、夢二郷土美術館に詰まっている。随一の肉筆画コレクションを誇り、掛け軸、屏風、版画、スケッチをはじめ、装丁や表紙を手がけた本・楽譜、人形、手紙など約3、000点を所蔵。それらを常時100点以上楽しめ、ミシュランガイドジャポンの1つ星も獲得している。
夢二の美人画の集大成の作品《立田姫》、晩年に米国で描かれた油彩画《西海岸の裸婦》など、表情やしぐさに内面が映し出され、「心の詩」を表現している。夢二がデザインしたゆかたや封筒は当時大変な人気で、和と洋、古きものとモダニズムを自在に表現し、今見ても夢中になる。
「竹久夢二×水戸岡鋭治 PartⅢ―2022(にゃん・にゃん・にゃん)はねこいっぱい―」
2022年3月8日(火)~7月3日(日)
岡山出身のデザイナー・水戸岡鋭治と夢二作品の関わりをご紹介するとともに、2022(にゃん・にゃん・にゃん)にちなみ、夢二がねこを描いた作品もお楽しみいただけます。
美術館の当日の入退場は自由で、鑑賞途中でもカフェを利用できる。カフェにはミュージアムショップが併設され、夢二グッズが豊富に揃う。
夢二郷土美術館から東へ車で約30分。田園風景が広がる瀬戸内市邑久町に、夢二が16歳まで過ごした茅葺き屋根の生家がある。夢二生家記念館として公開され、季節や五節句をテーマにした展示を楽しめる。どんな風景を見て、どう過ごしたのか、ゆっくり感じたい。
母屋に隣接した納屋は、ギャラリーとミュージアムショップを兼ねた和カフェ「椿茶房」になっていて、こだわりのスイーツとお茶を味わいながら過ごせる。和菓子作家の杉山早陽子さんが夢二作品に着想を得て考案した創作和菓子は、食べるのがもったいないぐらい美しい。
少し歩いた場所には、自ら設計した和洋折衷のアトリエ兼住居「少年山荘」が復元されていて、しゃれた暮らしぶりに憧れる。
おすすめは生家を訪ねてから夢二郷土美術館を巡るルート。夢二芸術の原点や人生を追体験できる。
夢二生家記念館と少年山荘をつなぐ公園内にも記念碑がある。「椿茶房」内で豊富なオリジナルグッズや夢二復刻木版画を購入できる。